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2023年4月11日 (火)

バラエティー富んだ音楽をコミカルに聴かせる

Title:10,000 gecs
Musician:100 gecs

ディラン・ブレイディとローラ・レスの2人組による、アメリカのハイパーポップデゥオ、100 gecs。2019年にリリースされた「1000 gecs」も大きな話題になったそうですが、本作はそれに続く2枚目のフルアルバム。タイトルは前作からそのままケタ1つ増えて「10,000 gecs」となりました。

そんな彼らのアルバムは、一言で言うと聴いていてワクワクする非常に楽しいポップアルバムになっています。エレクトロやハードコア、HIP HOPやスカなどを取り入れた音楽を全体的にポップにまぶして仕上げた、「なんでもあり」な内容。様々な音楽をごちゃまぜにした音楽性を、「おもちゃ箱をひっくり返したような」というベタな表現をすることがありますが、まさにそれにピッタリくるようなアルバムになっていました。

そもそも1曲目「Dumbest Girl Alive」はトラップ的な要素を取り入れたHIP HOP風の作品からスタートしたかと思えば、2曲目の「757」は強いビートを聴かせるエレクトロチューン。かと思えば「Hollywood Baby」ではヘヴィーなギターリフが軸となっているロッキンなナンバーになっており、さらに続く「Frog On The Floor」はタイトルからしてユニークですが、前曲から一転、軽快でコミカルなポップチューンに仕上がっています。

その後も「Doritos&Fritos」も疾走感あるエレクトロチューンなのですが、エレクトロのピコピコサウンドがどこかコミカル。しかし、次の「Billy Knows Jamie」では一転してヘヴィーなギターリフとラップのミクスチャーロック風、「One Million Dollars」も同じくヘヴィーなエレクトロビートが展開されるナンバーと、ある意味、ジェットコースター的な展開が続きます。

後半の「The Most Wanted Person In The United States」もダウナーながらも様々な音をサンプリングしたユーモラスな楽曲に。さらに「I Got My Tooth Removed」は再びどこかコミカルなスカパンクのナンバーになったかと思えば、ラストを締めくくる「mememe」は再びダイナミックなバンドサウンドとエレクトロサウンドのロックチューンに。こちらもポップなメロディーとサウンドがどこかコミカルさを感じさせます。

アルバムは10曲入りながらも27分弱という短さになっており、このバラエティー富んだ音楽性もあり、次々と一気に展開しており、息つく暇もない内容に。ある意味、バラバラな音楽性ではあるのですが、それをポップなメロディーラインと1曲あたり3分弱という曲の短さという勢いで補っている感のある作品で、違和感を覚える隙もありません。勢いで一気に展開するような構成ではあるものの、ただ1曲1曲は様々な音楽性を上手く咀嚼してポップにまとめあげており、そこに彼らの実力も感じました。

ポップでコミカルな作風なだけに、幅広いリスナー層にも支持を得そうな半面、自由度も高い宅録的なサウンドはいかにもインディーポップといった感もある作品。なによりも難しいこと抜きに聴いていて素直に「楽しい!」と思える作品で、そういう意味では理想的なポップアルバムと言えるでしょう。個人的にもはまりましたし、年間ベストクラスの傑作アルバムだと思います。広い層の方に素直にお勧めできる1枚です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Radical Romantics/Fever Ray

もともと、スウェーデンのエレクトロ・デゥオThe Knifeのメンバーであったカリン・ドレイヤーが、The Knife解散後スタートさせたソロ・プロジェクトFever Rayの最新作。どこか不気味でダークさも感じさせる雰囲気を漂わせつつ、強いビートのエレクトロサウンドが特徴的。一方で、全体的にリズミカルで聴きやすく、ダークな雰囲気とは裏腹に意外とポップな作風になっています。ジャケット写真もどこかホラーテイストですが、一方でどこか人なつっこさも感じられますが、そんなジャケット写真にマッチしたような内容になっていました。

評価:★★★★★

Oh Me Oh My/Lonnie Holly

アメリカはアラバマ州バーミンガムに居を構えるミュージシャン。彼は自らの自宅の敷地に廃材や廃棄物を持ち込み、それを元に美術作品として制作活動も行っているそうです。それだけなら日本の「ゴミ屋敷」と一緒で、実際、退去を求められたこともあるようですが、ところが彼の作品は美術的にも高い評価を受けて、バーミンガム美術館をはじめ、アメリカの数多くの美術館にも展示されているとか。そんな文字通り「アーティスト」な彼の音楽作品は、ソウルやファンクを軸にしつつ、ギターロックのナンバーも顔を覗かせる、ジャンクさを感じさせる作品になっています。全体的にしゃがれ声の力強い作風も魅力的。渋さと同時にどこか感じるポップなジャンク感も魅力的な作品でした。

評価:★★★★★

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