「声」をテーマ
Title:あのち
Musician:GEZAN with Million Wish Collective
前作「狂(KLUE)」が高い評価を得たロックバンドGEZAN。その前作は様々な音楽的要素を入れて、現状を切り裂くような狂暴なサウンドを聴かせてくれ、その内容には私も圧巻させられました。そんな傑作アルバムに続いてリリースされた本作のテーマは「声」。「データ化され、取捨選択される時代に、人間が持つ変えの利かない声をテーマに制作された」そうで、コーラスグループのMillion Wish Collectiveとのコラボという形での作品となっています。
そのため今回のアルバムでとにかく目立つのはMillion Wish Collectiveの合唱。イントロ的な1曲目に続く「誅犬」ではいきなりこれでもかというほどの「声」の壁に圧巻されます。その後も前半はこの圧倒的に分厚いコーラスが楽曲のバックに壁を築くような作品が並びます。その後もゴスペル的なコーラスを入れた「萃点」や、分厚い合唱をバックに歌い上げる、ちょっとアイロニックな歌詞も魅力的な「We Were The World」、さらに終盤の「JUST LOVE」では前半、この分厚いコーラスだけで曲を構築しようとしています。
もちろん本作は「声」で圧倒する一辺倒ではありません。「TOKYO DUB STORY」では、一人ひとりの様々な言葉を重ね合わせるような「声」で実験するような作品になっていますし、「終曲の前奏で赤と目があったあのち」もやはり、様々なセリフが重なるあう演劇的かつ実験的な作風となっています。インターリュード的にボイスパーカッションも入っていたりと、全体的にまさに「声」でどのような音の世界を構築できるのか、実験するようなアルバムになっていました。
そんな実験的でかつアバンギャルドな度合いの高い作品になっているのですが、一方では意外とポップで聴きやすい、という印象も同時に受けるアルバムにもなっていました。その分厚いコーラスの前で鳴り響くのは、そのコーラスに負けないだけの力強いバンドサウンド。ヘヴィーなギターや力強いドラムが「声」と上手く融合してリスナーの耳を切り裂きます。ただ、メロディーライン自体にアバンギャルドな点は薄く、例えば「もう俺らは我慢できない」ではラップというスタイルで社会派な歌詞を聴かせますか、リズミカルでテンポのよいラップは意外と聴きやすさを感じますし、前述の「We Were The World」もメロディーライン自体は至ってポップ。「Third Summer of Love」のようなさわやかさすら感じさせるポップチューンすらあります。
意外とメロディアスで聴きやすい内容で「声」の実験を繰り広げつつ、一方で歌詞も印象的。歌詞からして皮肉的な「We Were The World」では「JUST SAY NO (WAR)」とストレートな反戦のメッセージを繰り広げていますし、「もう俺らは我慢できない」でも
「人を殺していい正当な理由?
正しい戦争 美しい戦争
JUST SAY NO ありえないっしょ」
(「もう俺らは我慢できない」より 作詞 マヒトゥ・ザ・ピーポー)
という、非常にストレートな反戦のメッセージを繰り広げています。他にもこの曲ではスターリンの有名な歌詞のフレーズが登場したり、「いつまで清志郎に頼っているんだ?」という挑発的なメッセージも登場。「We Were The World」でもジョン・レノンが登場しますし、要所要所に先人に対するリスペクトも感じさせます。
ラストは、こちらも明らかにブルハの曲から取られたと思われる「リンダリリンダ」では、みんな太鼓のリズムをバックにゆっくりと歌っているというある種の微笑ましさも感じるような楽曲で終了。実験的な作品の大団円とも言える作品で締めくくられています。
その実験的な作風がありつつ、一方では意外とポップさを感じる部分もあるため、最後までどんな作品が登場するのかワクワク楽しみながら聴ける作品になっていました。サウンドに圧倒された前作に引き続き、「声」に圧倒された本作はまたしても年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。とにかく圧巻されつつも楽しめる1枚でした。
評価:★★★★★
GEZEN 過去の作品
狂(KLUE)
ほかに聴いたアルバム
十二次元/女王蜂
その性別不詳で妖艶な雰囲気のルックスも大きなインパクトのバンド女王蜂。ちょっと久々、約3年ぶりとなるニューアルバムとなります。久々となった今回のアルバムは、マイナーで怪しげな雰囲気たっぷりの作品になっているのですが、その雰囲気を醸し出している大きな要素となっているのが和風のサウンド。エレクトロサウンドやダイナミックなバンドサウンドを取り入れている中に絶妙に入ってくる「和」のテイストが、独特の妖艶さを醸し出しています。終始、雰囲気たっぷりの作風になっており、女王蜂らしさをしっかり生かした作品になっていました。
評価:★★★★★
大瀧詠一 乗合馬車 (Omnibus) 50th Anniversary Edition/大滝詠一
大瀧詠一が、まだはっぴいえんどとして活動している中、1972年にリリースしたソロデビューアルバム。その後の楽曲で感じる大瀧詠一らしさの萌芽を感じられる一方、洋楽からの影響がよりストレートである意味わかりやすく、そういう意味ではソロとしてその方向性を模索しているという部分も垣間見れる作品。とはいえ、ポップスとしてはこの時から非常に高いクオリティーを維持しており、彼の才能は十分に感じられます。
評価:★★★★★
大滝詠一 過去の作品
EACH TIME 30th Anniversary Edition
Best Always
NIAGARA MOON -40th Anniversary Edition-
DEBUT AGAIN
NIAGARA CONCERT '83
Happy Ending
A LONG VACATION 40th Anniversary Edition
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