戦前リズム・ボーイズの世界
Title:山賊の合唱 リズム・ボーイズの世界 1934-1939
戦前のSP盤復刻レーベル、ぐらもくらぶ。当サイトでもなんどか取り上げている注目のレーベルですが、ここ最近、しばらく戦前SP復刻盤のオムニバスアルバムのリリースがなく、どうしたんだろうか、と心配していましたが、ちょっと久々にアルバムがリリースされました。今回のアルバムは戦前のリズム・ボーイズの曲を集めたアルバム。リズム・ボーイズとは戦前のコーラスグループ。主に4人の男性グループからなるこの「リズム・ボーイズ」は、合唱により楽曲に奥行きが増すということもあり、一世を風靡。さらに演芸の世界でもあきれたぼういずのような「ボーイズもの」として波及したとか。今回のアルバムはその「リズム・ボーイズ」の楽曲を集めた作品となります。
もともとリズム・ボーイズはジャズボーカル・グループを範としており、「ジャズコーラス」とも呼ばれたそうで、もともとは戦前のアメリカン・サウンドを模したところからスタートしているそうです。今回のアルバムは主に録音時期順に収録しているのですが、特に前半の曲は、軽快な(当時の)「洋楽調」の作品が並びます。1曲目「愉快な水車」はかなり洋楽のジャズテイストが強い作品になっています。しかし、2曲目の表題曲となったポリドール・リズム・ボーイズの「山賊の合唱」は演奏こそジャズ調なのですが、歌詞やメロディーラインはどうも和風な民謡的な要素が見え隠れしています。
ただ、その後も前半は比較的「洋楽調」。「恋人がないとね!」などは低音部のボイスパーカッションが入っていて、四つの音声というリズム・ボーイズの特性をよくあらわした曲調になっています。また、リズム・ボーイズといっても、女性ボーカルがメインにリズム・ボーイズがバックコーラスというスタイルの曲が多く、「雨の降る日も」や「春の溜息」などはまさにそのようなタイプの曲。爽やかな女性ボーカルに合唱が加わり、楽曲に厚みが出た作品に仕上がっています。
しかし、後半になれば時代と共に、徐々に民謡調、浪曲調の曲が増えていきます。「草津節」などタイトル通り、「草津節」をリズム・ボーイズ風にアレンジした曲ですし、「モダン十戒」などは完全に浪曲風。洋楽的な流行でも時代を経るとすっかりと日本風に変わってしまうという日本の音楽の傾向は昔から変わらないようです・・・。
さらに時代が下ると、戦時色が色濃く反映された曲が収録されています。「支那の兵隊」などはコミカルながらも、非常に戦時色強い歌詞が特徴的ですし、「上海特別陸戦隊」「砲車行」など、特にあえてなのでしょうが、戦時色が強い曲が並びます。また「日本萬国博覧会の歌-紀元二千六百年記念-」という、幻に終わった戦前の万博の曲なんかも収録されており、その時代性をうかがわせるセレクトになっています。
最後には、この「リズム・ボーイズ」の流れから派生した演芸「ボーイズもの」の音源も収録されており、まさに「リズム・ボーイズ」の世界をいろいろな方向に広げて様々な曲を収録した選曲に仕上がっており、この1枚で「リズム・ボーイズ」というものがどのようなムーブメントであったのかわかる最適な1枚になっていました。ここらへんのいい意味で卒のないセレクトはさすがです。戦前SP盤の魅力がまたひとつしっかりと伝わってくるオムニバスアルバムでした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
秋の日に/宮本浩次
宮本浩次が女性ボーカル曲をカバーしたアルバムの最新作。本作は6曲入りのミニアルバム。女性ボーカル曲のカバーアルバムが続いているのはセールス的に好調だからなんでしょうが、ただ、正直なところ、彼の独特なボーカルスタイルで歌っているだけの「カラオケ」というイメージがぬぐえません。今回のアルバムでは初回盤で彼のソロライブの模様をおさめたライブ盤が収録されており、そこでエレカシの曲も披露しているのですが、そちらの方が圧倒的に出来がよい・・・。そろそろやはりエレカシとしての活動に戻ってほしいなぁ。
評価:★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2023年」カテゴリの記事
- 徐々に全貌があきらかに・・・(2023.12.29)
- AIを使った挑戦的な作品も(2023.12.23)
- SHISHAMOの魅力がより鮮明に(2023.12.19)
- あえてCDで出す(2023.12.18)
- 6年半のシングルが収録!(2023.12.16)
コメント