ちょっと癖のある入門書
今回は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。
今回は、ちょっと毛色が違ってクラシック関連の書籍になります。音楽評論家の許光俊によるクラシックの入門書「はじめてのクラシック音楽」。クラシック音楽というジャンルは興味を持つ方は多い一方、非常に敷居が高く感じるジャンルでもあるため、この手の入門書は数多く出ていますが、そのうちの1冊。新書形態で読みやすそうな内容だったので手に取ってみました。
私自身は「これでクラシック音楽を幅広く聴いてみよう」・・・と強く思った訳でもなく、また、この手のクラシック音楽入門書は何冊か読んだことあるのですが、そんな中、今回読んだこの「入門書」について感じるのは、まず「入門書」としては比較的癖のある内容だったかな、ということを感じました。どうも、この音楽評論家の許氏は、自分の個性的な意見を強く押し出すタイプの評論家のようで、そこらへん好き嫌いがわかれそうなタイプのようですが、それでも同書については「入門書」ということで、かなり意見は控えめだったよう。それでも要所要所に彼のクラシック音楽に対する見方が垣間見れる1冊になっていました。
そんな率直な物言いもあってか、まず内容的には読みやすい文体になっているのが大きなプラスポイント。また、「クラシック音楽とはどのような音楽か」からスタートし、「クラシック音楽の聴き方」や、さらにクラシック音楽に出てくる用語の解説も簡潔に紹介しているため、クラシック音楽の初心者についてはわかりやすく、またクラシック音楽に対して、どのようなスタンスで臨めばよいのか、というのも非常にわかりやすく書かれていました。
またこの本で「入門書」としてありがたかったのが、クラシックの演奏家・指揮者の紹介に、かなりの部分を割いている点でした。この手のクラシックの入門書は、クラシックの基本的な用語や作曲家についての解説でほとんどを占められており、演奏家についての紹介をしている本というのはいままでほとんど出会ったことがありません。ただ、クラシック音楽というのは、演奏家・指揮者によってかなり内容が変わってしまうジャンル。そういう意味では演奏家・指揮者の紹介に、かなりのボリュームを割いているというのは、初心者にとってはかなりありがたく、またクラシック音楽の世界をより深く知ることができる内容になっていました。
一方、賛否がわかれそうなのが、まさに上にも書いた許氏の見方が強く反映しているという点。「入門書」ということで、独自の意見は比較的抑え気味なのですが、それでも特に演奏家・指揮者の紹介では「これが一般的な見方なんだろうか・・・」とちょっと戸惑ってしまうような物言いもあります。例えばカラヤンの項では彼をかなり批判的に書いていますし、小澤征爾についても批判的に記載しています。ここらへん、ある種の見方を知ることが出来る点ではおもしろくもある反面、一般的な見方なのかどうなのか、初心者には判断できず、「入門書」としてはどうなんだろう・・・と感じてしまいます。
さらに物足りなさを感じた点としては、まずクラシック音楽全体の「歴史」についてはほとんど記載がなかった点。一般的にクラシックの入門書では、バロック音楽、古典派、ロマン派といった感じで、時代毎にまとめられており、クラシック音楽全体の歴史についてわかるような記載が多いのですが、この本では作曲家は主に「出身国」毎にまとめられており、一応、章によって時代区分はなされているものの、若干、クラシック音楽全体の流れについてはわかりにくかったように思います。ここらへん、時代区分で作曲家を並べなかったのは、わざとなのかもしれませんが・・・。
また、これを読んで、「じゃあ、クラシックを聴いてみよう」という方に対して、手にとるべき音源の紹介もなかった点も非常に残念。特に本書の中には、初心者はオンラインよりもCDを手に取って聴いてほしい、ということを書いてあるんですから、まず初心者が聴いてみるべき、お勧めのCDの紹介はほしかったなぁ。これについてもちょっと残念に感じました。
そういう訳で、「入門書」としてちょっと癖のある部分も感じられたため、おそらく他のオーソドックスな「入門書」と一緒に読んだ方が無難なようにも感じます。ただ、オーソドックスな「入門書」では物足りなさを感じられる部分を、同書ではしっかりとフォローしており、そういう意味でも「入門書」としての機能を果たしている1冊と言えるかもしれません。個人的にはなかなかクラシック音楽まで手が回らないのですが・・・ただ、これを読んで、またクラシック音楽に挑戦してみようかな、とも思えた1冊でした。
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