曰くつきのリミックス盤
Title:百薬の長
Musician:椎名林檎
このアルバムに関しては、ご存じの通り、公式通販サイト限定盤についてくるグッズがヘルプマークや赤十字のマークに酷似し騒動となり、結果、アルバムのリリース自体も延期。CDリリース以上の話題となってしまいました。そのグッズを巡る騒動についての雑感については後程、書こうと思うのですが、そんな曰くつきのアルバムとなってしまった本作。グッズ自体、椎名林檎がノータッチだと公言してしまった以上、このアルバム自体も彼女がノータッチという可能性もありうるのですが、ただ、そんな状況を差し引いても、このアルバム自体の出来は、非常に素晴らしいものに仕上がっていました。
基本的にエレクトロ系のミュージシャンが自由に彼女の曲のリミックスを行っている本作。結果として、それぞれのリミックスにおいて、それぞれのミュージシャンの個性が前に押し出されているようなアレンジに仕上がっていました。まずアルバムの冒頭は、アメリカのエレクトロミュージシャンTelefon Tel Avivのリミックスによる「あの世の門 ~Gate of Hades~ (Telefon Tel Aviv Version)」からスタートするのですが、ダウナーながら力強いビートを奏でるエレクトロアレンジが耳を惹きます。そしてそれに続くは砂原良徳による「JL005便で ~Flight JL005~ (B747-246 Mix by Yoshinori Sunahara)」なのですが、こちらも聴けば一発でまりんらしさを感じる音作りとなっています。
アシッド・ジャズの第一人者、Gilles Petersonによる「ちちんぷいぷい ~Manipulate the time~ (Gilles Peterson’s Dark Jazz Remix)」も音数を絞ったエレクトロビートが非常にカッコよいナンバーに。岡村靖幸がリミックスを手掛けた「長く短い祭 ~In Summer, Night~ (Yasuyuki Okamura 一寸 Remix)」は最初は普通のエレクトロといった感じなのですが、後半になると岡村ちゃんらしいファンキーな要素も感じられます。
そしてなんといっても聴いていて一発で彼のリミックスだとわかったのが石野卓球による「浴室 ~la salle de bain~ (Takkyu Ishino Remix)」で、疾走感あるテクノチューンが実に石野卓球らしい楽曲に。ラストを締めくくる鯵野滑郎の「いとをかし ~toogood~ (Ajino Namero Bon Voyage Remix)」も楽しいチップチューンに仕上げています。
エレクトロチューンを中心に、12人12様に椎名林檎の楽曲を好きなようにいじった今回のアルバム。グッズ騒動でケチが付いてしまった形になってしまいましたが、内容的には非常に優れたアルバムですし、なによりも12人の優れたトラックメイカーの実力を感じることが出来る作品になっていました。椎名林檎の、という以上にリミキサーとして参加したミュージシャンに興味がある方は要チェックのアルバムです。
評価:★★★★★
椎名林檎 過去の作品
私と放電
三文ゴシップ
蜜月抄
浮き名
逆輸入~港湾局~
日出処
逆輸入~航空局~
三毒史
ニュートンの林檎~初めてのベスト盤~
ほかに聴いたアルバム
TIME LEAP/佐藤千亜妃
佐藤千亜妃のニューアルバムは、「時間旅行」をテーマとした5曲入りのEP盤。前EPの「NIGHT TAPE」ではメロウな楽曲を聴かせてくれた彼女。本作では、その延長戦上を意識しながら、軽快なR&B風のポップスに仕上げられており、いかにも今どきのポップソングという印象を受ける作品になっていました。この方向性がおもしろいのでは?と思った前作に比べると、今回はちょっと方向性がはっきりしなくなっていた作品に。いろいろな意味で挑戦の過程といったイメージはあるのですが・・・。次の一手は?
評価:★★★★
佐藤千亜妃 過去の作品
SickSickSickSick
PLANET
KOE
NIGHT TAPE
curtain call/MONKEY MAJIK
途中、ベスト盤のリリースを挟んだため、純然たるオリジナルアルバムとしては約3年ぶりとなるMONKEY MAJIKのニューアルバム。ここ最近、比較的安定した良作が続いていますが、本作もそんな良作の1枚。前半から中盤にかけてはシンセで爽快に聴かせるニューウェーヴ風の楽曲が、終盤はアコースティックにしんみり聴かせる作品が並んでいます。全体的には派手さはないものの、卒なくポップにまとめあげているという印象の作品に。洋楽テイストを醸し出しつつ、ほどよくJ-POPに着地させている作風に彼ららしさを感じます。
評価:★★★★
MONKEY MAJIK 過去の作品
TIME
MONKEY MAJIK BEST~10years&Forever~
westview
SOMEWHERE OUT THERE
DNA
Colour By Number
southview
enigma
COLLABORATED
northview
20th Anniversary BEST 花鳥風月
さて、今回、椎名林檎のリミックスアルバム「百薬の長」を紹介しましたので、例のグッズ騒動についての雑感を少々。
簡単に概要を書いておくと、この「百薬の長」の公式通販サイト限定盤についてくるグッズについてくるマークが、ヘルプマークや赤十字マークに酷似し、Twitterを中心に問題視する声があがりました。これに対して、協議の結果、グッズの取り換えとCDリリースの販売延期を発表。さらにその中で、今回のグッズは会社独自の企画であり、椎名林檎は一切タッチしていない旨がアナウンスされました。
今回の騒動でさらに大きな騒ぎになったのが、問題となってから会社の対応の発表まで1週間以上を要したという、異常な対応の遅さ、さらに椎名林檎が今回の騒動に関して最後までノーコメントを貫いたという不誠実さ、さらにイメージ戦略まで自作自演を「演じていた」椎名林檎が、自らのCDのグッズにノータッチだったという、彼女のイメージを裏切るようなアナウンスがさらに騒ぎを大きくしたように感じます。
今回のこのグッズをめぐる騒動、レコード会社側が、さらに椎名林檎が、一番守るべきものは何かと考えた時に、正直、一番最悪の選択をした、というように感じます。彼女たちが一番守るべきものは何か、と言われたら、椎名林檎のミュージシャンイメージというブランド。彼女のミュージシャンイメージと言えば、何よりも自作自演というスタイル。そう考えた時に、今回のグッズに彼女がノータッチだったというレコード会社側の発表は、はっきり言えば悪手すぎます。この結果、いままで彼女が自ら発案したと思われるコンセプトが実は彼女ではなく、周りのスタッフや第三者の発案だったのでは?と疑念を抱いてしまいます。レコード会社側としては椎名林檎を表に出さないことによって彼女を守ったつもりかもしれませんが、むしろ結果として、より彼女のイメージを傷つける結果になってしまったように感じます。
ただ、もうひとつ可能性として考えられるのは、これが悪手だということをレコード会社側は百も承知で、本当にグッズに椎名林檎が関わっていたかどうか、事実はわからないのですが、最初はやはり椎名林檎が手掛けたグッズだ、ということで彼女に(形式的にでも)誤らせる方向で進んでいたものの、椎名林檎本人がそれを拒否した、という可能性。これだと、騒動が起こってから対応の発表まで1週間以上かかってしまった異常なまでの対応の遅さも、「椎名林檎本人を説得していた」ということで納得がいきます。
個人的には今回の椎名林檎の対応についてはかなりガッカリしています。そもそも、本当に彼女がノータッチだったとしても自分の名前で出されたグッズである以上、なんらかのコメントを発するのが誠意ある対応だと思いますし、それすら行わず完全に無視というのは、自分の言動に関してかなり不誠実さを感じてしまいます。アルバムの出来自体は非常に良かったので、その点が非常に残念な限り。周りにそんな彼女に苦言を呈するスタッフもいなくなってしまっているのか・・・という点も気にかかってしまうのですが・・・。いろいろな意味で非常に残念な今回の騒動でした。
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コメント
ゆういちさん、こんばんは。
椎名林檎の今回の件の僕の私見です。僕が思う今回彼女が謝罪しなかった理由は
① 今回問題になったのは【楽曲】ではなくノータッチの【グッズ】だったから
② 今回の件ではいわゆる被害者が出ていないから
この2点じゃないかと思います。まず①ですが彼女がもし自分のことは自分がタッチしている楽曲やパフォーマンスだけで評価してほしいと思っているのならば、ノータッチのグッズのことで謝りたくないと思うのもまあわからなくはないですが。
そして②ですが僕が知らないだけかもですが、事務所やレコード会社以外にこのグッズのせいで何か被害を受けたという話は今のところ聞いたことがありません。なので彼女が謝罪をしなかったというのもわからないではない。というのがほ
投稿: 通りすがりの読者 | 2023年3月16日 (木) 02時00分
途中で送信しちゃいました、すみません。
というのが僕の私見です。間違っていたらすみません。ただゆういちさんの言うとおり一言何かコメントするだけでもすべきだったとは僕も思います。彼女自身もう20年以上活動しているベテランミュージシャンなのだからここは大人の対応をとってほしかったなと感じています。こんなことで椎名林檎という存在にケチがついてほしくなかったです。長文失礼致しました。
投稿: 通りすがりの読者 | 2023年3月16日 (木) 02時13分
>通りすがりの読者さん
この件については椎名林檎の対応含めて非常に残念です。このグッズをはじめてみたとき、すぐに「これ、ヤバくない?」と思ったのですが、そう注意するスタッフが周りにいなかったのでしょうか・・・。
投稿: ゆういち | 2023年6月 8日 (木) 23時52分