現時点での集大成
Title:映帶する煙
Musician:君島大空
今、最も注目を集めている男性シンガーソングライターの一人、君島大空。毎回、EPがリリースされる都度大きな話題となりますが、ちょっと意外なことに本作がフルアルバムとして初のリリースとなります。ちなみに、相変わらず難読なアルバムタイトルが続きますが、本作はこれで「えんたいするけむり」と読むそうで、「色や景色が互いに写りあうこと」という意味だそうです。
今回のアルバムは初のフルアルバムということもあるのでしょう、現時点での君島大空の集大成といった印象を受けます。特にサウンド面において。直近のEP「袖の汀」では、比較的アコースティックベースで歌をしっかりと聴かせるという印象がありました。一方、今回のアルバムはアコースティックなサウンドに留まらない様々なサウンドを取り入れており、君島大空の音楽性の広さを感じさせる構成となっています。
まずアルバムはタイトルチューンの「映帶する煙」からスタートするのですが、こちらはイントロ的なインストチューン。いきなりノイズからスタートしており、アコースティックというイメージを大きく覆します。そのイントロに続く実質的な1曲目である「扉の夏」はアコギとピアノをバックに彼のハイトーンボイスで静かに聴かせる彼らしいナンバー、夏の風景を気だるく描写する歌詞も印象的に聴かせてくれます。
ただし、続く「装置」は様々な音をサンプリングして彩豊かな賑やかなサウンドが印象的な曲ですし、「世界はここで回るよ」も前半、アコースティック風のサウンドながらも後半は不気味なエレクトロノイズが重なります。さらに「都合」に至っては、ノイジーなギターサウンドを軸にするロックチューン。君島大空のボーカルもサウンドに合わせてか、(彼にしては)低音でシャウト気味に歌っています。
さらに「回転扉の内側は春?」ではユニークなサウンドを多くサンプリングした、ちょっと陳腐は表現になりますが、おもちゃ箱をひっくり返したようなサウンドが特徴的。ラストを飾る「No heavenly」もヘヴィーなギターを軸にしたダイナミックなサウンドが特徴的となっています。
様々なサウンドに挑戦しているという点、前々作「縫層」に共通するものを感じます。同作は非常に自由度を感じさせるアルバムでしたが、今回のアルバムも同作と同様、君島大空の自由な音楽性を強く感じる作品になっていました。ただ、それと同時に、今回の作品は前作「袖の汀」からつながる、アコースティックテイストの楽曲をハイトーンボイスで静かに聴かせるというスタイルもアルバムの中で同時に提示していました。「19℃」「光暈」などといった作品がそれ。こういった歌をしっかり聴かせるアコースティックな楽曲が、アルバムの中でいわば連結管のような役割を果たして、アルバム全体に統一感を与えていました。
結果として、まさに現時点における君島大空の集大成となった今回のアルバム。彼の魅力を存分に感じさせる作品になっていました。文句なしの年間ベストクラスの傑作アルバムだと思います。今年は彼のますますの飛躍が期待できそうです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
ユーモア/back number
昨年は紅白歌合戦に出場し、大きな話題となるなど、現在も高い人気を誇るバンドback numberの、実に約3年10か月ぶりとなるニューアルバム。分厚いサウンドにメランコリックなメロディーラインは、良くも悪くも売れ線のJ-POPといったイメージを強く持ってしまう構成に。特に一部、小林武史が参加しているのですが、ストリングスを使っていかにも音を塗りたくったようなサウンドメイキングはいかにも彼らしいのですが、どうも楽曲を平坦にしてしまっている印象を受けます。純粋に「歌」を聴かせるバンドなんだから、サウンドはもうちょっと薄味の方がよいようにも思うのですが・・・。
評価:★★★★
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