ブラジル音楽界の巨匠による2作品
今日紹介するのは、ブラジル音楽界の巨匠、レチエイス・レイチに関する2枚のアルバム。今年、日本独自でCD化され、話題を呼んでいるようです。
Title:O enigma Lexeu
Musician:Letieres Leite Quinteto
レチエイス・レイチというミュージシャンは音源はもちろん、名前を聴くのも今回はじめてのミュージシャンです。1959年にブラジル北東部のバイーア州で生まれた彼は、アフロブラジリアンをベースとした音楽で特に2000年代のブラジルの音楽シーンに大きな影響を与えたそうです。残念ながら2021年に新型コロナウイルスにより61歳という若さで生涯を終えました。こちらはそんな彼がクインテットを率いて録音した1枚。もともと2019年に配信限定でリリースされてリアルタイムでも話題になったそうですが、このたび、あらためてCD化されたようです。
音楽の紹介としてはクロスオーバー・ジャズという表現を使っており、類似のミュージシャンとしてウェザーレポートのようなフュージョンジャズ系のミュージシャンの名前があげられています。確かに、基本的にはシンプルで、比較的王道を行くような爽快なジャズがメイン。メロディアスであか抜けたサウンドは、日本でも広いリスナー層が楽しめそうな作品となっています。
特に前半の「Tres Yabas」などは、まさにメランコリックな美しいピアノの調べが耳を惹きますし、「Tramandai」も哀愁感たっぷりのサックスの音色が胸に響きます。ラストの「Mestre Moa do Katende」もテンポのよい軽快なジャズナンバーになっており、日本でもおしゃれなラウンジに流れてきそうな・・・・・・という表現は、あまり誉め言葉にはなっていませんか?
ただ、これだけだとよくありがちなクロスオーバー系のジャズユニットということになるのですが、彼らがユニークなのはアフロブラジリアンというジャンル通り、アフロ系のサウンドを組み込んでいる点でしょう。1曲目の「Casa do Pai」は郷愁感あふれる作品なのですが、パーカッションの音色が響いていますし、その後も軽快でトライバルなパーカッションがアルバムの中のひとつの重要なキーとして機能しています。
フュージョン系ジャズのような耳なじみやすさがありつつ、一方ではトライバルなパーカッションが独特のグルーヴを作り上げている、そんな一味変わったジャズの傑作アルバムになっていました。遅ればせながら、レチエイス・レイチという才能に惹かれた1枚でした。
評価:★★★★★
Title:Cancao da Cabra
Musician:Sylvio Fraga&Letieres Leite
こちらはブラジルはリオ・デ・ジェナイロ出身のシンガーソングライター、シルヴィオ・フラーガがレチエイス・レイチとタッグを組んで作成されたアルバム。こちらも2019年にリリースされた作品が日本限定でCD化されたようです。
クロスオーバー・ジャズがベースだった上記「O enigma Lexeu」と比べると、こちらはあくまでもシルヴィオ・フラーガがメインのアルバム・・・なのですが、かなり多彩な音楽性を聴かせてくれます。1曲目の「Eua」からして、いきなりギターロックの作品になっており、ちょっとビックリしますし、逆に「O Lagarto e o Gato Largado」は「O enigma Lexeu」にも通じるような、弦楽器の重奏を美しく聴かせる作品に。かと思えばタイトル曲である「Cancao da Cabra」はアコースティックギター1本を静かに爪弾きながら、メランコリックな歌声を聴かせる作品になっています。
その後も「Sono do Burgo」や「Sei da Cor da Noite」はブラジル音楽の色合いが濃い作品になっていますし、かと思えば終盤「Sao Bernardo」はメタリックなサウンドからスタート。アバンギャルドな作風かと思えば、後半はサックスをベースに伸びやかな歌声を聴かせる曲調に。ラストの「Nevoeiro」もアコースティックギターをベースにしつつ、アバンギャルドさを感じさせる作品に仕上がっています。
全体的にはラテン系やブラジル音楽をベースとしながら、メランコリックなメロを重ねつつ、一方でどこかポストロック的なアバンギャルドさも垣間見れる作品になっていたように感じます。クロスオーバー・ジャズに徹していた「O enigma Lexeu」に比べると、よりレチエイス・レイチの幅広い音楽性が垣間見れる作品になっていたようにも感じました。
どちらもレチエイス・レイチの才能を強く感じられる作品。いまさらながらですが、わずか61歳という早世が惜しまれます。ブラジル音楽好きに限らず、広いリスナー層が楽しめる傑作アルバムでした。
評価:★★★★★
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