タイの伝統音楽と西洋音楽の融合
Title:Thong-Lor Cowboy
Musician:Rasmee
今回も2022年に各種メディアでベストアルバムとして紹介されたアルバムのうち、チェックが漏れていたアルバムを後追いで聴いた1枚。今回はまた、ミュージックマガジン誌ワールド・ミュージック部門で2位を獲得したアルバム。その時の紹介文によると、「タイのモーラム系女性シンガーが、米ニューオリンズのプロデューサーを迎えて新世代タイ音楽を提示した4枚目」だそうです。紹介文だけ読んでも、いまひとつピンと来ませんが・・・(^^;;
まず「モーラム」というのはWikipediaによると「ラオスやイーサーン(タイ東北部)などにおける ラーオ族の伝統音楽」だそうで、「独特のリズムとケーン(笛の一種)による主旋律、裏返って途切れそうなボーカルを特徴」とするそうです。
ただ、今回聴いたこの作品では、正直なところ「裏返って途切れそうなボーカル」といった感じはありません。伸びやかでこぶしの聴いたボーカルが特徴的。ハイトーン気味ではあるものの、「裏返って途切れそう」といった印象はなく、むしろ力強さを感じさせるボーカルが魅力的に感じます。また、サウンドの方は正直なところ、ケーンの音色なのかどうかいまひとつ判別しがたいのですが、比較的シンセによる打ち込みのリズムが多く、現代的な要素を強く感じさせます。ただ、打ち込みを用いた独特のリズムも大きな特徴となっており、微妙なチープさも相まって、独自のサウンドを作り上げています。
また、全体的に感じさせるエキゾチックな雰囲気も大きな魅力的で、1曲目の「Indigo」などはまさに伸びやかなボーカルとマッチして感じさせるエキゾチックな要素が大きな魅力に。続く「How Don Ta」もダイナミックなシンセを導入しつつも、エキゾチックな雰囲気を醸し出しています。後半も「Lam Duan」では、ストリングス系の音色に独特のリズム、さらにこぶしを聴いたボーカルで醸し出すエキゾチックな楽曲が大きな魅力。モーラムという音楽のジャンルを他に聴いたことがないので詳しくは論評できませんが、まさにトライバルな空気感満載のサウンドに心地よさを感じます。
一方では、トライバルな要素だけではなく、意外とあか抜けた感も覚えるのが大きな魅力で、例えばタイトルチューン「Thong-Lor Cowboy」など、シンセのサウンドはムーディーでソウルからの影響も感じさせますし、終盤の「Lullaby」もドリーミーなシンセにどこか垢ぬけた雰囲気を感じます。ここらへんの都会的な要素はニューオリンズのプロデューサー、サーシャ・マサコフスキーの影響かもしれません。ジャズ系のミュージシャンにようで、この2曲を含む、全体的にどこかソウルやジャズの要素を感じさせるサウンドも大きな特徴となっていました。
そんな訳で、モーラムというタイの伝統音楽と、ソウルやジャズといった西洋系のポップスを上手く融合させた1枚。哀愁たっぷりのメロは日本人の琴線に触れそうにも感じさせますし、いい意味で幅広いリスナー層にアピールできそうな作品だと思います。年間ベストで上位に食い込むのも納得の1枚でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
In These Times/Makaya McCraven
こちらも年間ベストアルバムを後追いで聴いた作品。「ミュージックマガジン誌」ジャズ部門年間1位のアルバム。シカゴを拠点に活動するドラマー兼プロデューサーによる最新作で、「ビート・サイエンティスト」という異名を持つミュージシャンだそうです。その異名にふさわしく、サックスやホーン、ハープなど多彩な楽器の音色を折り重ねて美しくメロディアスに聴かせる楽曲が魅力的。どちらかというと映画音楽っぽい印象も受けたのですが、バラエティー富んだ展開の楽しめる1枚でした。
評価:★★★★
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