ベテランバンドの底力
Title:新世界
Musician:MUCC
2022年に結成25周年を迎えたヴィジュアル系バンドMUCC。前作「惡」はアルバムとして初のベスト10ヒットを記録するなど、ここに来てバンドの人気が上がり調子になりつつありますが、そんな中、リリースされたちょうど2年ぶりとなるニューアルバムが本作となります。
そんな彼らの新作ですが、実にJ-POPらしいバンドだな、ということを強く印象に残りました。「J-POPらしい」と書くと、「良くも悪くも」という枕詞がつきそうで、必ずしもポジティブな表現にならないかと思いますが、このアルバムに関しては、確かに「良くも悪くも」という部分もあるのですが、どちらかというとポジティブな要素でこのような表現を使わせてもらいました。
バンドとして基本的にハードコアをベースとしたヘヴィーなサウンド。メロディーラインは(こちらは良くも悪くも)ヴィジュアル系らしいメランコリックで耽美的な世界を感じさせるもの。ここらへんはいかにも、といった印象を受けます。実際、アルバムの冒頭を飾る「星に願いを」も、続く「懺把乱」も、ヘヴィーなバンドサウンドを前に押し出した作品となっています。
ただ、J-POPらしいと言ったのは、このようなサウンドをベースとしつつ、様々な音楽的な要素を取り込み、なおかつポップにまとめているという点。ダビーな雰囲気の「パーフェクトサークル」やファンキーな「HACK」、ピアノでムーディーにまとめる「COLOR」に、最後に聴かせる「WORLD」は郷愁感たっぷりのメロディーが印象に残る楽曲に仕上げています。
ここらへん、しっかりリスナーの壺をつきつつ、最後まで決して飽きさせません。メランコリックなメロディーラインはいわゆるヴィジュアル系のそれであり、抵抗感のある人もいるかもしれませんが、それを差し引いても、もし彼らが90年代のヴィジュアル系全盛期にデビューしていたら、もっと大人気のバンドになっていたんじゃないか、ということを感じます。今回のニューアルバムは、そんな彼らの魅力をしっかり詰め込んだ、25周年の記念アルバムらしい内容になっていました。
評価:★★★★
で、このアルバムにおさめきれなかった作品が、ミニアルバムとしてリリースされました。
Title:新世界 別巻
Musician:MUCC
むしろバリエーションの多さという観点では、こちらの方に軍配があがりそうなミニアルバム。「猿轡」はラップを取り入れてミクスチャー風に仕上げていますし、「別世界」はドリーミーなサウンドを聴かせる内容に。「HOTEL LeMMON TREE」はホーンセッションが入ってムーディーでジャジーな軽快なナンバーになっていますし、「終の行方」はピアノバラードでまとめています。
確かにこのバリエーションの多さは、「新世界」本体に入れてしまうとアルバム全体がバラバラになりそうですし、そのため、アルバム収録曲からはみ出てしまった、という理由は納得がいきます。ただ一方で、こうやって「別巻」としてリリースされたのは、そのままボツにするのは惜しいくらいの楽曲の出来だったからでしょう。実際、その理由も痛いほどわかる、MUCCの幅広い音楽性がわかる楽曲が並んでいます。
個人的には、むしろ「新世界」本編によりこちらの方がより魅力的だったように感じます。なんとなく、本編以上に楽曲に自由度があり、彼らが純粋に音楽を楽しんでいるような、そんなアルバムにも感じました。
結成25周年といっても、ベテランとして停滞せずに、むしろ勢いの増した感のある彼ら。その人気は今後、さらに高まりそうです。
評価:★★★★★
MUCC 過去の作品
志恩
球体
カルマ
シャングリラ
THE END OF THE WORLD
T.R.E.N.D.Y.-Paradise from 1997-
脈拍
BEST OF MUCC II
カップリング・ベストII
壊れたピアノとリビングデッド
惡
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