「アフリカ」らしさに現代的な要素も加味
Title:N'Djila Wa Mudjimu
Musician:Lady Aicha&Pisko Cranes Original Fulu Mziki of Kinsasha
今回もまた、昨年、各種メディアで年間ベストとして選ばれていたものの、聴き逃していた作品を後追いで聴いた1枚。今回は、またミュージックマガジン誌ワールドミュージック部門で10位を獲得した作品です。
さて、「アフリカ音楽」と一言で言って、どんな音楽を想像されますでしょうか。おそらく、アフロビートのようなポリリズムを用いた強烈なパーカッションが鳴り響く音楽を想像されるのではないでしょうか。もちろん、「アフリカ音楽」と言っても、そのジャンルは多種多様にわたっています。地中海沿岸の地域では、むしろアラブ系の音楽に近いですし、サハラ砂漠ではご存じ、「砂漠のブルース」と呼ばれるようなブルースに近い雰囲気の音楽が聴けます。西アフリカの沿岸では、ハイライフのようなジャズの影響を受けたあか抜けたポピュラーミュージックもあったりと、アフリカ各地で様々なタイプの音楽を聴くことが出来ます。
ただ、あえてある種の偏見も加味した上で言ってしまうのならば、今回紹介するこのアルバムは、実に「アフリカ」らしい音楽を聴かせてくれます。楽曲はほとんど強烈なビートのパーカッションのリズムが主導して、シンプルなサウンドを展開するスタイル。そこに、ある種の呪術的な要素すら感じる男女の掛け合いが重なります。非常に「アフリカらしい」と言えるサウンドではないでしょうか。
このアルバムは、もともとコンゴ・キンシャサのスラム街で結成されたバンド、Fulu Mizuikiの中心メンバーであるPisco Craneと、彼らのストリートパフォーマンスに影響を受けたファッションデザイナーによるLady Aishaによるユニットだとか。ジャケット写真の奇妙なコシュチュームはそのデザインによるものでしょうか。
そんなユニットによる本作は、前述の通り、非常にトライバルな要素の強い、アグレッシブなリズムを中心とする楽曲を聴かせてくれます・・・が、一方でただただ伝統的なアフリカ音楽というだけではなく、微妙に現代的な要素を取り入れている点がユニークであったりします。例えば、アグレッシブなリズムトラックは、パーカッションだけではなく、電子音楽の要素も取り入れ、インダストリアル的な要素も感じられます。
他にも「Mutangila」のようなシンプルなリズムにエレクトロの要素を加味したようなトランシーな作品もありますし、「Two Seven」のようなノイジーなサウンドを取り入れてきている曲もあります。また「Kraut」は力強いシャウトを聴かせてくれ、どこかパンキッシュな要素も感じさせます。
そんな現代的な要素を加味しつつ、ただアルバム全体としては、実にアフリカらしさを感じさせるアグレッシブなサウンドが耳に残るアルバム。間違いなく、その力強いリズムに聴いていてワクワクさせられるのではないでしょうか。毎年、ミューマガ誌のワールドミュージック部門でベスト10に入ったアルバムは一通りチェックしているのですが、個人的にはこのアルバムが一番良かったように思います。いい意味でアフリカの音楽を聴いたという満足感を覚える1枚でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Sultan/Alune Wade
こちらも上と同様、ミュージックマガジン誌ワールドミュージック部門で年間7位に選ばれた作品。セネガル出身のベーシストによるアルバムで、こちらもある意味、アフリカらしさを感じるトライバルなリズムが大きな特徴となっていますが、一方でロックやジャズなどの要素も取込、いかにもなジャケット写真と裏腹に、意外とあか抜けた印象も受ける作品に。いい意味でワールドミュージックの枠にとらわれない、聴きやすさを感じる作品でした。
評価:★★★★★
Black Panther: Wakanda Forever - Music From and Inspired By
映画「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」の劇中歌や映画からインスパイアされた曲を集めたオムニバスアルバム。今回は特にRihannaが久々の新曲をリリースしたということでも話題になっています。全体的にはアフリカ系のミュージシャンが多く参加しており、トライバルな要素も強いアルバムに。とはいえ、基本的にハリウッド映画から派生したアルバムだなけに、全体的にはしっかりとアメリカの音楽としてコーティングされた感じが、今回紹介したほか2つのワールドミュージックのアルバムとは大きく異なる点。もっとも、それはそれで、アメリカとアフリカの音楽の融合として楽しむことが出来るのですが。
評価:★★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2023年」カテゴリの記事
- マッドチェスタームーブメントの楽曲を網羅的に収録(2023.12.24)
- 全盛期oasisの充実ぶりを物語る名盤(2023.12.15)
- 荒々しさを感じる初期ライブ盤(2023.12.12)
- 新曲が加わり大幅にボリュームアップ!(2023.12.11)
- 本来の意味での・・・「エモい」アルバム(2023.12.03)
コメント