よりポップス寄りに
Title:アンサンブル・プレイ
Musician:Creepy Nuts
最近、すっかり日本の音楽シーンに定着したHIP HOP。お茶の間レベルで慣れ親しまれてはじめているといっても過言ではありません。その過程において、昔ならば「セルアウト」として忌み嫌われていたポップ色の強いHIP HOPグループもすんなりと受け入れられている感じがします。そんなポップ色の強い作品をリリースしながらも、HIP HOPシーンの中からも一定以上の評価を受けているユニットの代表格といえば彼ら、Creepy Nutsでしょう。売上という側面でも本作はビルボードチャートで3を獲得し、大ヒットを記録するなど、人気の面でも確実にその地位を築いてきています。
おそらく、KICK THE CAN CREWやRIP SLYMEがブレイクしてきたころなら、間違いなく彼らも「セルアウトしたユニット」として「ディス」の対象となっていただろうなぁ、ということを感じます。そんなことを思ったのは今回のアルバムがまた、よりポップ寄りの作品だったから。どの曲もフックの効いたメロディーの歌が配されている曲がメイン、聴いていてあまりHIP HOPのアルバムを聴いたといった印象は受けませんでした。
特に「Outro」の前、一応、アルバム本編のラストという扱いとなっている「ばかまじめ」はゲストとしてYOASOBIの2人が参加。幾田りらもボーカルを取るナンバーとなっており、イメージ的には完全に「J-POP」。爽快なナンバーでインパクトも満載なのですが、これが最後の方に配されているだけに、聴き終わった後、HIP HOPという印象は受けません。
さらに「フロント9番」も、女性視線から綴った哀愁感たっぷりの曲で、ウェット感のある歌詞やメロが流れており、はっきり言えば完全に歌謡曲。それが悪いという訳ではなく、むしろ曲としてはよく出来ているのですが、HIP HOPという印象が希薄となる大きな要因となっています。
リズミカルでダイナミックなトラックの「2way nice guy」やダークな打ち込みのビートが印象的な「dawn」、AOR風の「ロスタイム」など、今回のアルバムも器用にバラエティーのある楽曲を聴かせてくれます。ただ、HIP HOP風と言えるのは「Madman」くらいで、やはり全体的にポップ寄りという印象を強く受けます。
ポップのアルバムとして非常によくできた作品なのは間違いありませんし、素直に最後まで楽しめるアルバムだったと思います。ただ一方で、新鮮味があるかと言われれば若干微妙な感はありますし、もうちょっと「HIP HOP」を聴きたかったかも、という印象も同時に受けました。そういう意味では評価が難しいアルバムのような印象を受けるのですが・・・ただ、そんなこと関係なく、ただ楽しめればOK、というのがあるべきスタンスなのかもしれませんね。
評価:★★★★
Creepy Nuts 過去の作品
クリープショー
かつて天才だった俺たちへ
Case
ほかに聴いたアルバム
コリンズ/10-FEET
同作にも収録されている「第ゼロ感」が映画「THE FIRST SLAM DUNK」のエンディングテーマに起用されて大ヒットを記録している10-FEET。本作ではDisc2として「THE FIRST SLAM DUNK」の劇中歌を収録しているなど、大ヒット中の映画に沿ったアルバムとなっています。とはいうものの、基本的な路線は以前と変わらず。力強くヘヴィーなバンドサウンドにメランコリックさを感じさせるメロディーラインが特徴的。「123456789101112」のように歌詞が数を数えるだけ、というユニークな曲やアコギメインで爽快に聴かせる「おしえて」、沖縄民謡的な要素を入れた「深海魚」など楽曲にバリエーションも加えて、スラムダンクで入ってきた新たなリスナーにもアピールできるような聴き答えのある作品に仕上げていました。
評価:★★★★
10-FEET 過去の作品
VANDALIZE
Life is sweet
thread
Re:6-feat
6-feat 2
10-FEET入り口の10曲
Fin
10-feat
不出来/tricot
メジャー4枚目となるtricotのニューアルバム。ヘヴィーなバンドサウンドをサイケ気味に聴かせるそのスタイルは非常にカッコよく、惹きつけられるものがあるのですが、メロディーラインが弱いという弱点はそのまま…。今回もアルバム2枚組で、そのうち1枚はインストという点にサウンドへのこだわりもよくわかりますし、そんなこだわりもわかる実力もあると思うのですが。アルバムをリリースする毎にランキング的には落ちている点が気に係るのですが、その理由もなんとなくわかってしまったりして。
評価:★★★★
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