バラエティーに富んだ23曲
Title:SOS
Musician:SZA
本作が2作目となるアメリカのシンガーソングライター、SZA(シザ)のニューアルバム。2017年にリリースされた前作「Ctrl」は各種メディアで軒並みベストアルバムに選ばれて大きな話題となりました。それに続く本作も、文句なしの傑作アルバムに。再び大きな注目を集めるとともに、売上的にも全米ビルボードチャートで見事1位を獲得。人気面でも大きな飛躍を遂げた1枚となりました。
ちょっとけだるさを感じさせるボーカルスタイルは前作から同様。全体を流れる、いい意味で聴きやすさを感じるメロディアスでポップな方向性も前作同様。そしてそんな中で感じるのは、非常にバラエティーに富んだ今回のアルバムの方向性でした。
今回のアルバムは、なんといっても全23曲、1時間超というボリューミーな内容も大きな特徴。そんな中で様々なバラエティーに富んだ曲調が大きな特徴となっています。1曲目はいきなりタイトルチューンである「SOS」からスタート。ちょっとレトロな雰囲気を感じさせるソウルチューンで、このレトロな要素を取り入れている点は前作「Ctrl」からの続きを感じさせます。ただ、タイトルチューンでありながらも、アルバムを象徴する感じではない点がおもしろいところで・・・。
続く「Kill Bill」はむしろソウルテイストは薄めのポップチューンになっているのがユニークな感じ。かと思えば「Low」はトラップ的なリズムにのせつつメランコリックに歌う、いかにも今風な楽曲に仕上げていますし、「Blind」はアコースティックなサウンドにのせてゆっくりと歌う、彼女の「歌」を聴かせる楽曲に仕上がっています。
バラエティー富んだ展開はまだまだ続きます。「Gone Girl」はエレクトロのトラックに載せてしんみり歌い上げるR&B風の楽曲になっていますし、「Ghost in the Machine」はPhoebe Bridgersをゲストに迎えた、これまたR&Bというよりはむしろインディーポップのテイストも感じさせるドリーミーな作品に。さらに「F2F」はギターサウンドを入れてダイナミックな楽曲に仕上げていますし、「Conceited」はエレクトロトラックを全面的に取り入れた作風に仕上げています。
個人的にアルバムの中で耳を惹いたのが「Open Arms」でアコギをベースとしつつ、しんみり清涼感もって歌い上げる切ない歌が非常に印象に残る作品。ゲストのTravis Scottの切ないラップもまた印象に残る作品になっています。
そんな感じで全23曲。R&Bやソウルを基本軸としつつも、必ずしもジャンルにとらわれない幅広くバラエティー富んだ音楽性が大きな魅力で、その幅の広さに彼女の実力を感じさせる作品となっていました。前作に引き続き本作も文句なしの傑作だったと思います。ただ一方で、ちょっと時間が長く、また曲数も多かったため、ちょっとまとまりを欠いた感もあったのが若干のマイナスだったかな。もっとも、その点を差し引いても文句なしの出来栄えだったと思います。実力、人気面ともに、今後のシーンを引っ張っていきそうな予感のする、そんな作品でした。
評価:★★★★★
SZA 過去の作品
Ctrl
ほかに聴いたアルバム
I Don't Give a Fuck About This Rap Shit,Imma Just Drop Until I Don't Feel Like It Anymore/$ilkMoney
ラップグループDivine Councilの一員であり、ローリング・ストーン誌が選ぶ2016年の「10 New Artists You Need to Know」にも選ばれたラッパーによる約2年半ぶりのニューアルバム。全体的にどこか不穏な空気感を醸し出しつつ、メランコリックさを感じさせるトラックが印象に残る作品に。さらに非常に力強くテンポのよいラップも耳に残るアルバムになっていました。
評価:★★★★
hugo/Loyle Carner
前作「Not Waving, but Drowning」も大きな注目を集めたイギリスはサウスロンドン出身のラッパーによる3枚目のアルバム。彼の人柄も感じられるような、ジャズやソウルの要素を取り込んだ暖かい雰囲気のトラックが魅力的だったのですが、本作もその方向性は同様。ただ前作ではゆっくりと語るようなラップだったに対して、今回はもうちょっとアップテンポなスタイルにシフト。前作との違いを打ち出している感じはします。ただ、メロウなトラックはいい意味でHIP HOPの枠組みにとらわれないアピールポイントを持ったアルバムとなっており、最後まで楽しめる傑作となっていました。
評価:★★★★★
Loyle Carner 過去の作品
Not Waving, but Drowning
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