SSWとしての魅力を存分に感じる
ある時はミュージカル風なステージを披露し、リスナーの度肝を抜いたり、ある時はいきなりアイドルグループを結成したり。さらにある時はライブの参加者全員がメンバーというプロジェクト「TOWN」をスタートさせたりと、毎回、奇抜なコンセプトでリスナーを驚かせる清竜人。前作「REIWA」は正統派歌謡曲路線と、またユニークなコンセプトを披露したのですが、純粋なオリジナルアルバムとして3年半ぶりとなる今回のオリジナルアルバムは、かなり豪華なリリース形態が目につきます。なんとCD3枚+Blu-ray+DVDという全5枚組というリリース形態。オリジナルアルバム「FEMALE」のほか、Blu-rayには本人が監督・主演した映画「IF I STAY OUT OF LIFE...?」が収録。さらにそのサントラ盤がCDとしてついて、ライブ映像のDVDと、2020年に配信限定でリリースしたカバーアルバム「COVER」のCD盤が付属された全5枚組という構成。ただ、残念ながら完全生産限定12,000円というフルボリュームまでは手は出せず、別途、単体で配信リリースされたアルバム「FEMALE」をチェック。また、リアルタイムでは聴き逃していたアルバム「COVER」もはじめてチェックしてみました。
Title:FEMALE
Musician:清竜人
まずこちらが3年半ぶりにリリースされたオリジナルアルバム。ファルセット気味なボーカルで伸びやかに聴かせるシティポップ風の作品がメイン。奇抜なコンセプトが前面に押し出した作品が続いていた彼ですが、今回のアルバムはともすれば2010年にリリースした「WORLD」以来となる、「正統派」とも言えるポップのアルバムになっています。
メランコリックに歌い上げる「フェアウェル・キス」もまさに清竜人らしいラブソングに仕上がっていますし、特に秀逸なのが、本人が主演・監督した映画の主題歌にもなっている「If I stay out of life…?」で、エレピでループするトラックをバックにLeo Uchidaのラップを聴かせつつ、彼のメランコリックな歌が重なるスタイルが非常にカッコいいHIP HOP風のチューンに。
微妙に長いタイトルが印象的な「愛が目の前に現れても僕はきっと気付かず通り過ぎてしまう」人間不信に陥りつつも、どこか愛を信じようとする歌詞が印象的。さらに、「離れられない」は美しいウインターバラードに仕上がっており、メロディーメイカーとしての彼の才能も感じられます。ラストを飾る「いない」も非常に切ない歌詞とメロが印象に残るバラードナンバーとなっており、こちらも清竜人の名前を一気に知らしめた名曲「痛いよ」を彷彿させるような作品となっています。
久しぶりに清竜人の本領をいかんなく発揮した、と思われるアルバムになっており、彼の魅力の存分につまった、SSWとしての実力をこれでもかというほど発揮した作品に仕上がっていました。いつもの奇抜なコンセプト重視のアルバムも、彼らしいですし、彼としてはああいうアルバムを作りたいのでしょうが、やはりこういったアルバムもコンスタントにリリースしてほしいなぁ、とは感じてしまうのですが・・・。SSWとしての清竜人の魅力をあらためて実感したアルバムでした。
評価:★★★★★
Title:COVER
Musician:清竜人
で、こちらが遅ればせながら聴いてみたセルフカバーアルバム。もともとは2020年に配信限定でリリースしたアルバムで、彼がアイドルや女性声優に提供した楽曲を彼があらためてセルフカバーした作品となっています。
セルフカバーは彼がピアノ1本で弾き語るスタイルで、装飾的な部分は一切なし。純粋に歌詞とメロディーのみを聴かせるという、楽曲を「裸」の状態にして聴かせるセルフカバーとなっており、それだけ「アイドル」というギミックを一切なしにして楽曲のコアな部分にスポットをあてようとするセルフカバーと言えるかもしれません。
そのためあらためてメロディーラインを聴くと、そのメロディーメイカーとしての清竜人の才能をこれでもかというほど感じることが出来ます。シンプルながらもしっかりとインパクトも兼ね備えたメロディーラインは、ピアノ1本での弾き語りというスタイルでもしっかりと耳に残ります。キラキラしたアイドルポップスというギミックに隠されがちですが、実にしっかりとしたメロディーを持った楽曲であることをあらためて実感できます。
ただ、正直なところ、歌詞に関してはいかにもアイドルアイドルした内容に聴いていて違和感を覚えました・・・・・・というよりも、アイドルとしてのコンセプトにしっかりと沿った、アイドルらしい歌詞をしっかりと書いてくるあたり、こちらも清竜人の才能を感じることが出来るのですが、ある意味、男性が女性に持っているような妄想とも言える幻想をそのまま押し付けて歌わせるような歌詞に非常に違和感を覚えてしまいます。もちろん、これは清竜人のせいではなく、性別関係なくアイドルポップスがいずれも持っている特徴で、この点が私がアイドルに全くはまれない大きな要素の一つなのですが、今回のセルフカバーで歌詞とメロがより強調されたがゆえに、違和感をより強く抱いてしまいました。
もちろん清竜人としては、アイドルのコンセプトにしっかり応えた作品を提供している訳で、その部分を含めて彼の才能と言えるのでしょう。もっとも、いかにも女性アイドルが歌いそうな歌詞を、男性の彼がそのまま歌っている点、違和感を覚える部分もあり、その違和感がユニークでインパクトにもなっているのですが。歌詞とメロのみを強調したカバーに仕上がっているだけに、メロディーラインの秀逸さと同時に、アイドルポップに感じる違和感を同時に覚えるセルフカバーに仕上がっていました。
評価:★★★★
清竜人 過去の作品
WORLD
MUSIC
WORK
BEST
WIFE(清竜人25)
TOWN(清竜人TOWN)
REIWA
ほかに聴いたアルバム
Off Course 1982・6・30 武道館コンサート40th Anniversary/オフコース
かつて小田和正が所属し、70年代から80年代にかけて一世を風靡したバンド、オフコースが、1982年に実施した10日間連続武道館コンサート。そのうち6月30日の音源を収録したライブアルバムが本作。「言葉にできない」の途中で感極まって歌詞が出てこなくなるのは、あまりに曲の内容とマッチしすぎていてわざと?と思ってしまうくらい。オフコースといえばもちろんリアルタイムでは知らないのですが、どちらかというと、今の小田和正と同様のフォーキーなバンドというイメージがあるのですが、「のがすなチャンスを」では意外と力強いジャム演奏を披露したりと、ロックバンドとしての側面があったこともはじめて気が付かされました。ファンならチェックしておきたい貴重な音源でしょう。
評価:★★★★
オフコース 過去の作品
OFF COURSE BEST"ever"
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