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2023年1月14日 (土)

コロナ禍に孤独を描く

Title:Les Misé blue
Musician:syrup16g

2021年11月。本編すべてが新曲というライブという意欲的な試みを行ったsyrup16g。約5年ぶりという、かなり久々の新譜となった本作は、そんな意欲的なライブからピックアップされた12曲に、今回書き下ろされた2曲が加わった全14曲というアルバム。ライブでの披露を経てリリースという、彼らとしてはかなり力の入ったニューアルバムとなっています。

基本的にサウンドは、実にsyrup16g的とも言えるオルタナティヴ・ロック。ただ、その中でも前半は比較的バリエーションの多い展開に。1曲目「I Will Come(before new dawn)」は、いきなりヘヴィーなサウンドでゆっくりとスタートしており、彼らの曲の中でも特にヘヴィネスさを感じさせる作風に。一方、続く「明かりを灯せ」「Alone In Lonely」などはドリーミーな作風が特徴的。「Dinosaur」は比較的軽快なサウンドが特徴となっています。

一方、後半に関しては「In My Hurts Again」「In The Air,In The Error」などギターノイズを前面に押し出したシューゲイザーからの影響も感じるギターロックが並びます。ここらへん、syrup16gらしさを特に感じさせる展開になっており、聴いていて素直に心地よさも感じます。全体的には、いかにもsyrup16gらしい、ある意味、リスナーにとっては期待通りとも言うべき作品が並んでおり、聴いていて素直にその世界を楽しめる内容になっていたと思います。

そして今回のアルバムでいつも以上に印象に残ったのがその歌詞。今回の歌詞については明確にコロナ禍の今が反映されています。syrup16gといえば、アイロニックに現実をシビアに切り刻むような歌詞が大きな魅力ですが今回については、現在を反映した歌詞がゆえに、特に歌詞が強く印象に残りました。

その中でも「In The Air,In The Error」では

妖星なんてあてにならない
Freedom I'm freedom」
(「In The Air,In The Error」より 作詞 Takashi Igarashi)

なんて歌詞がいきなり飛び込んできます。この「妖星」という言葉、どうしてもコロナ禍の中でよく聞いた、PCR検査や抗原検査の「陽性」を彷彿とさせてしまいますし、おそらくそういう意図なのでしょう。若干、「コロナにかかってもどうでもいいじゃん」みたいなニュアンスにとられかねない歌詞なのが気になりますが、ただ、コロナ禍でも自由に生きることを忘れないという、彼らの決意も感じさせます。

さらに、やはりコロナ禍の中、人と人とのつながりが希薄になってしまったという影響も大きいのでしょう。「孤独」をテーマとした歌詞が目立ちます。「Don't Think Twice(It's not over)」では

「未来永劫 天涯孤独な 予定はない」
(「Don't Think Twide(It's not over)」より 作詞 Takashi Igarashi)

と、かなりストレートな現状描写がインパクト。さらに続く楽曲は、そのままズバリ「Alone In Lonely」ですし、「In My Hurts Again」でも

「大気圏の中で暮らしている
何処に居ても宇宙服を着ている

会話らしきものを交わしている
対峙を避ける無関心がルール」
(「In My Hurts Again」より 作詞 Takashi Igarashi)

と、隠喩ながらもどこか人と人とのつながりが希薄なっているような現代社会を皮肉めいて描いた歌詞が印象的。また、どこかコロナ禍の中での現状を描写したようにも読み取れます。

そんな五十嵐隆の書く歌詞は、孤独という事象を、時にはアイロニックに描写しつつも、決して否定はせずに、淡々と描いているようにも感じます。しかし、アルバムのタイトルチューンであり、最後を飾る「Les Misé blue」では

「ひとりの世界は
ひとりじゃないから

ひとりの世界は
仲間がいっぱい」
(「Les Misé blue」より 作詞 Takashi Igarashi)

と、むしろ孤独な人たちへエールを送っているようにも感じます。アルバムの途中では孤独な現状をそのまま切り取りながら、ラストにこのような歌詞の曲を入れてくるあたりに、聴き終わった後にある種の暖かさを感じさせる締めくくりになっていました。

そんな訳で、いつもに増してその歌詞が印象に残る作品に。そんな作品だからこそ、逆にsyrup16gの王道とも言えるサウンドが、歌詞を変に邪魔せず、ピッタリとマッチしたようにも感じます。ただ、ひとつだけちょっと気にかかった点が。それはボーカル五十嵐隆の声。正直、全体的にちょっと声の張りがなく、声が出ていなかったような印象が・・・。その点だけがちょっと気にかかりました。

もっとも、アルバム全体としての出来は文句なしの傑作で、2022年の年間ベスト候補に入ってくるほどの出来栄えだったようにも思います。既に結成から25年が経過したベテランバンドとなった彼ら。しかし、そのバンドとしての勢いはまだまだ止まらなさそうです。

評価:★★★★★

Syrup16g 過去の作品
Syrup16g
Hurt
Kranke
darc
delaidback


ほかに聴いたアルバム

THIS SUMMER FESTIVAL 2022 (Live at 東京国際フォーラム ホールA 2022.4.28)/[Alexandros]

This-summer

タイトル通り、昨年4月に東京国際フォーラムで行われた[Alexandros]のライブイベント「THIS SUMMER FESTIVAL」の模様を収録した、配信限定のライブアルバム。全体的にダイナミックなバンドサウンドを聴かせてくれる楽曲の連続で、彼らのよりカッコいい側面が抽出されたようなライブパフォーマンスに仕上がっています。全8曲33分という長さも、あっさりとしていて気軽に楽しめる長さですし、広い層に聴いてほしい作品です。

評価:★★★★★

[Alexandros] 過去の作品
Schwarzenegger([Champagne])
ALXD
EXIST!
Sleepless in Brooklyn
Bedroom Joule
Where's My History?
But wait. Cats?

Strides Remixes/小袋成彬

 Strides

2021年にリリースされた彼のアルバム「Strides」。当初は配信限定でのリリースだったのですが、その後、2022年にCD化。その際、CD盤にのみリミックスCDが付属されていたのですが、今回、そのリミックスCDが配信リリースとなりました。ただちょっとややこしいことに、そのうち2曲は配信音源で再録。そのため音源をすべて抑えるには、CD、配信両方とも聴かなくてはいけないというちょっとめんどくさいことになっています。まあ、よっぽどのマニアじゃない限り、そこまで抑えようとはしないでしょうが。

リミックスとしては、基本的にエレクトロベースのトラックに、原曲のメロウな歌がのっかかる形でのリミックス。彼のボーカルがベースとして流れているだけに、原曲から大きくイメージを変えるものではありません。その点は彼のボーカリストとしての実力も感じることが出来るリミックスと言えるかもしれません。どちらかというとファン向けアイテムといった感じですが、「Strides」が気に入ったらチェックしても損はない作品かと。

評価:★★★★

小袋成彬 過去の作品
分離派の夏
Piercing
Strides

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