いつも何処かで流れてきた桑田佳祐の音楽
Title:いつも何処かで
Musician:桑田佳祐
桑田佳祐がソロデビュー35周年を記念してリリースしたベストアルバム。ただ、桑田佳祐は1992年の「フロム イエスタデイ」以来、ちょうど10年毎にベストアルバムをリリースしており、本作は2012年にリリースした「I LOVE YOU-now&forever-」以来、ちょうど10年ぶり4枚目となるベストアルバム。若干、乱発気味の気配はありますが・・・ただ、ここ10年は、サザンはアルバム1枚をリリースしただけで、活動休止とまではいかないものの休みがちな状態。一方、ソロとしては積極的な活動を続けているので、ベストアルバムのリリースとしてはおかしな状況ではない、のかもしれません。
ただ、今回のベストアルバムは純粋なソロとしてのオールタイムベストというよりは、コンセプトに沿ったセレクションアルバム的な内容になっている印象を受けます。タイトルに合わせて「『いつも何処かで』歌い続けてきた桑田佳祐の35年間の歩み」を凝縮したアルバムとアナウンスされていますが、いつも何処かで流れているような、末永く歌い継がれる楽曲をセレクトしたようなアルバムになっています。
そのようなコンセプトに基づいて曲をセレクトした影響も大きいのでしょう。今回のベストアルバムを聴いて全体的に感じたのは、歌謡曲のテイストが非常に強い内容になった、というイメージでした。冒頭を飾る「若い広場」はまさに歌謡曲テイストの強い作品。1曲目中盤の「JOURNEY」や「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」などメランコリックな曲調からも歌謡曲的な要素も感じられますし、シングル曲として大ヒットを記録した「月」も和風な曲調に仕上げていますし、「現代東京奇譚」などは完全に歌謡曲の曲調になっています。
もっとも、サザンとしても初期から歌謡曲的な作品は多くリリースしていますし、桑田佳祐自身も歌謡曲からの影響を公言しているなど、別に彼の曲に歌謡曲テイストな部分が多くても何ら不思議ではありません。ただ、今回のベスト盤は、他にも哀愁ただようAORの「誰かの風の跡」など、メランコリックに聴かせる作品や「明日へのマーチ」「ダーリン」のようなノスタルジックにあふれた作品が目立ちました。おそらくこれは「いつも何処かで」というアルバムコンセプトに沿ったセレクトが行われた影響なのでしょう。さらに彼も66歳となった今、彼の嗜好が歌謡曲よりにシフトした、とこともあるのかもしれません。実際、直近のミニアルバム「ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し」も歌謡曲テイストが強い作風となっていました。
もちろん、本作の中でもカントリー風の「鏡」やオールドスタイルのロックンロールナンバー「ROCK AND ROLL HERO」、ある意味、非常に彼らしいともいえるエロ歌詞がさく裂する「EARLY IN THE MORNING~旅立ちの朝~」など作品もしっかりと並んでおり、当たり前ですが彼らしい幅広い音楽性もしっかりと聴かせてくれています。そういう意味で単なる「歌謡曲歌手」ではないという点はこのベスト盤でもはっきりとあらわれていました。
ただ、90年代から2000年代にかけては全く出演しなかった紅白に昨年も出演し、さらには寸劇まで行うなど、桑田佳祐も良くも悪くもそういう立ち位置のミュージシャンになったんだなぁ、という印象を受けます。それで披露されて今回のベストアルバムにも収録されている「時代遅れのRock'n'Roll Band」なども自虐的なタイトルはさることながら、内容的にも歌謡曲化されたようなロックというイメージも否定できず。今年の紅白の後に「今のロックは昔の演歌みたいな立ち位置になった」的な論が盛り上がりましたが、その論についてはすべてが同意できる意見ではないものの、今の桑田佳祐の立ち位置を見ると、なんとなく言いたいことはわかるな、という印象も受けてしまいます。
ただし、だからといってこのベストアルバムがダメだった、というわけではもちろんなく、稀代のポップミュージシャンとしての桑田佳祐の実力を存分に感じさせる作品で、間違いなく珠玉のポップスの連続だったと思います。文句なしでおすすめのベストアルバムなのは間違いありません。とはいえ、少々保守的に進んでいる最近の桑田佳祐を見ると、そろそろもうちょっと尖った彼の姿も見てみたい、そんな気もしたアルバムでした。
評価:★★★★★
桑田佳祐 過去の作品
MUSICMAN
I LOVE YOU-now&forever-
がらくた
ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し
ほかに聴いたアルバム
E-SIDE 2/YOASOBI
YOASOBIの曲を全英語詞でリメイクした配信限定のミニアルバム第2弾。特に洋楽テイストも強いミュージシャンでもないために、若干、なぜわざわざ英語に?という気はしないこともないのですが、あらためて聴くとやはりメロディーラインのインパクトの強さは大きな魅力。特に英語詞にすることで、よりメロディーラインに意識がクローズアップされ、そのメロディーの強度が際立ちます。ただ一方、サウンドは相変わらずチープで、物足りなさも感じてしまう部分も・・・。ここらへん、悪い意味でいかにも「J-POP的」な感じが気になってしまいます。
評価:★★★★
YOASOBI 過去の作品
THE BOOK
E-SIDE
THE BOOK 2
Gesu Sped Up/ゲスの極み乙女
ゲスの極み乙女の8曲入り配信限定のEP盤。現在、USを中心に話題となっているSped Upという手法を使った作品だそうで、原曲をそのままに曲の速さだけを早くした音源。ただ、ネット上で検索をかけても確かにSped Upバージョンの作品が海外でリリースされているそうなのですが、そこまで「話題」となっているのかはかなり不明・・・。正直、本当に原曲のピッチをあげているだけの作品で、別にわざわざEPとして別にリリースしなくても、PC上の再生ソフトでいくらでも勝手にSped Upバージョンなんてつくれそうな気がするのですが。また、原曲のスピードをあげたところで、新たな発見もあるわけではなく、聴いても感想としては「ふーん」以外感想が思い浮かばない・・・。USではやっているのならおもしろい企画だとは思うのですが、Sped Upという手法自体が、一時的な流行で終わってしまうような感じも・・・。
評価:★★★
ゲスの極み乙女。 過去の作品
踊れないなら、ゲスになってしまえよ
みんなノーマル
魅力がすごいよ
両成敗
達磨林檎
好きなら問わない
ストリーミング、CD、レコード
丸
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