前作の方向性を踏襲
Title:The Car
Musician:Arctic Monkeys
Arctic Monkeysの前作「Tranquility Base Hotel & Casin」は、まさに賛否両論の異色作といっていい1枚でした。いままでのガレージロック路線が一転、オールドスタイルのムーディーな作風となり、ファンの間でも賛否両論を巻き起こすような作品となりました。本作は、そこから約4年5ヶ月ぶりとなるとなるニューアルバム。今回の作品はどのような方向性にシフトするのか、注目を集めるアルバムとなりました。
そして、結論から言うと、基本的には前作の方向性を踏襲したアルバムに仕上がっていました。しんみり聴かせるムーディーなアルバム。アルバムの1曲目「There'd Better Be A Mirrorball」のイントロからして、ストリングスとピアノでムード感たっぷりに聴かせるスタート。この1曲目のイントロから、もうリスナーにとってはどんなアルバムになるのか、予想の出来る作品になったのではないでしょうか。
そんな訳で、前作と同じ方向性のムード音楽を聴かせるスタイルの今回のアルバム。もっと言ってしまえば、このムード音楽という方向性がより強くなった作品にようにも感じます。続く「I Ain't Quite Where I Think I Am」はギターリフが入るのですが、非常にムーディーに聴かせるサウンドで、さらにストリングスも重なってムード音楽の雰囲気がさらに高まっています。さらに「Jet Skis On The Most」も同様に、ギター、ピアノそしてストリングスでムーディーな雰囲気を醸しつつ、しんみりゆっくり歌い上げるボーカルがメランコリックな雰囲気にさらに拍車をかけています。
タイトルチューンの「The Car」もストリングスで伸びやかに聴かせるムード感たっぷりのナンバー。エレピも入ってしんみり聴かせる「Big Ideas」やアコギアルペジオでメランコリックたっぷりの「Mr Schwartz」、ラストはストリングスが分厚く重なるサウンドが耳を惹く「Perfect Sense」で締めくくり。最後までストリングスやピアノを多用したムーディーな作風の曲が並びました。
前作同様、パッと聴いた感じだと地味な印象を受ける本作。ただよくよく聴くと、メロディーラインの美しさが耳を惹くナンバーになっていた・・・というのも前作と同様でした。今作は前作のように、ヘヴィーなバンドサウンドを聴かせるような曲もなく、一貫してしんみりとムーディーな雰囲気で聴かせる曲が並んでいます。前作の方向性を確固たるものとした作品と言えるかもしれません。
ただ結果としてアルバム全体としてちょっと似たようなタイプの曲が並んでしまった、といった印象は否めません。バリエーションという観点からすると、少々物足りなさを覚えてしまうという点は残念ながら否定できませんでした。また、同時に前作から同じ方向性のアルバムが続いただけに、やはりこちらもちょっとマンネリ気味なのは否めない部分も・・・。もちろん、そのメロディーラインの良さにより、しっかりと聴けるアルバムになっていたと思うのですが、美メロだけで突き通すとしてはちょっと物足りなさも感じてしまいます。
もし前作の前にこちらのアルバムがリリースされたら、傑作アルバムという評価になるのでしょうが、そういう意味で惜しさを感じるアルバムだったように思います。この2枚のムード歌謡路線のアルバムが続き、次のアルバムは再びガレージロック路線に回帰するのか、それとも・・・。今後の彼らの方向性に注目したくなる作品でした。
評価:★★★★
ARCTIC MONKEYS 過去の作品
Humbug
SUCK IT AND SEE
AM
Tranquility Base Hotel & Casin
Live at the Royal Albert Hall
ほかに聴いたアルバム
¡Ay!/Lucrecia Dalt
コロンビア出身で、現在はベルリンを拠点に活動している実験音楽家による新作。実験音楽といっても、彼女の出自であるラテンの音楽を取り入れつつ、ムーディーなメロディーラインを聴かせる作風。サイケデリックな要素や実験音楽的な要素も随所に感じるものの、一方ではムーディーな作風が意外と聴きやすさも感じられる作品に仕上がっていました。
評価:★★★★
blueblueblue/Sam Gendel
今年に入って早くも2枚目のアルバムとなるマルチ・インストゥルメンタル奏者、サム・ゲンデルのニューアルバム。昨年も複数枚のアルバムをリリースしており、そのワーカホリックぶりが目立ちますが、この最新アルバムは江戸時代に発展した日本の伝統的な刺しゅうである「刺し子」の模様にちなんだ作品となっており、曲名が、その模様の名称となっています。ただ、楽曲自体は「和風」というイメージはなく、ギターとサックスをベースにしつつ、ミニマルテイストのサウンドを静かに聴かせてくれます。サウンドにはフリーキーさを感じつつも、基本的には郷愁感を覚えるようなサウンドで、いい意味での聴きやすさも感じます。ただ、これまで聴いた彼のアルバムに比べると、新しいアイディア的な要素は薄めで、多作ゆえに全体的なクオリティーが若干下がってしまっているような感じも・・・。もうちょっと制作は絞ったような方がいいような・・・。
評価:★★★★
Sam Gendel 過去の作品
Satin Doll
AE-30
Superstore
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