原坊の世界をしっかり満喫
Title:婦人の肖像(Portrait of Lady)
Musician:原由子
ご存じサザンオールスターズのキーボーディストであり、桑田佳祐の奥さんでもある原由子のニューアルバム。2010年にベストアルバム「ハラッド」を、2002年にはカバーアルバム「東京タムレ」をリリースしているものの、純粋なオリジナルアルバムとしては1991年の「MOTHER」から実に約31年ぶりとなるニューアルバムとなりました。これだけオリジナルアルバムの間隔が空いたというのも驚きですが、個人的に、その31年も前のアルバム「MOTHER」をリアルタイムで聴いていたというのも軽くショックなのですが・・・。
今回のアルバムは、サザンオールスターズのデビュー44周年となる2022年6月25日にリリース。桑田佳祐の全面バックアップの下に作成されたアルバムで、前作「MOTHER」では原由子の曲と桑田佳祐の曲、それぞれ別々だったのに対して、今回のアルバムは両者の共作が目立ちます。サザンの44周年の節目(・・・なのか?)なのですが、サザンとしての活動はなく、原由子の新作がリリースされたのですが、桑田佳祐自身は「代理・サザンオールスターズのニューアルバムだと思っていただきたい」と語っているようで、桑田佳祐のバックアップぶりも目立ちます。
ただ、そんな新作ですがサザンのニューアルバムとは全く異なる、しっかりと原坊らしさが表に出た、彼女らしいアルバムに仕上がっていたと思います。ストリングスとシンセで高らかにアルバムのスタートを告げるような「千の扉~Thousand Doors」からスタート。桑田佳祐が唯一、楽曲制作に全く関わっていない「Good Times~あの空は何を語る」は、現在のロシアウクライナ情勢を反映させた、ちょっと哀しげな雰囲気の歌詞も印象的なのですが、アコースティックに聴かせる郷愁感あるサウンドは、明確にサザンの世界とは異なるものを感じます。
「旅情」もタイトル通り、彼女らしい郷愁感あふれるナンバー。「ぐでたま行進曲」も、こちらもタイトルから想像できる通り、サンリオのキャラクター「ぐでたま」をモチーフとした曲で、「ぐでたま」が登場する実写ドラマの主題歌だそうで、こちらも原坊らしさを感じさせる明るいキッズソングとなっていますし、先行シングルとなった「ヤバいね愛てえ奴は」も、ストリングスとアコースティックギターで暖かく聴かせる彼女らしい楽曲に仕上がっています。さらにラストを飾る「初恋のメロディ」も切なく爽やかな郷愁感持って聴かせるラブソングとなっており、こちらも彼女らしさが表れている印象を受けました。
一方で、「スローハンドに抱かれて(Oh Love!!)」や「夜の訪問者」は昭和歌謡の要素が強く、いかにもサザンというか、桑田佳祐らしさを感じる曲・・・といっても、「スローハンドに抱かれて(Oh Love!!)」の方は原由子作曲による曲で、桑田佳祐からの影響というか、やはり夫婦らしく、音楽的にはやはり共通項も多いんだろうな、とも感じさせる楽曲になっています。
全体的には、「代理・サザンオールスターズのニューアルバム」という桑田佳祐のアピールと反して、しっかりと原由子らしい作品となっています。かつ前作「MOTHER」の頃の作品は、もっとかわいらしく、「女の子」っぽさを感じさせる曲も目立ったのですが、今回のアルバムはしっかりと「大人の女性」を感じさせるような、しっかりと聴かせる曲が並んでいます。今の彼女を反映させた、等身大の作品と言ってもいいでしょう。
ただ、その上で気になるのが、アルバム全体としてはパワー不足を感じてしまいます。確かに原由子は間違いなくボーカリストとしてのシンガーソングライターとしても、しっかりとした実力がありますし、そこに日本を代表するミュージシャンで日本屈指のメロディーメイカーの桑田佳祐がバックアップをつとめるわけですから、楽曲のクオリティーとしては十分なものはあります。しかし、前作「MOTHER」では一度聴いたら忘れられないようなインパクトの強い曲や、原由子の新たな境地を感じさせるような曲もあった反面、今回のアルバムに関しては、正直、楽曲としてのインパクトは薄めで、新たな境地を感じさせるような作品もありませんでした。
良くも悪くも卒なくこなした安定感のあるアルバムだったかな、というのが今回の感想。もちろん、それでも十分楽しめるポップスアルバムなのは間違いないのですが、期待したほどではなかったかな、というのが率直な感想。いいアルバムではあるとは思うのですが・・・。
評価:★★★★
原由子 過去の作品
ハラッド
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