志磨遼平の好むポップソング
Title:戀愛大全
Musician:ドレスコーズ
昨年リリースした「バイエル」以降、約1年4か月ぶりとなるニューアルバム。ただ、オリジナルアルバムとしては前作となる「バイエル」は、ピアノの弾き語りからスタートし、徐々に作品を作り上げていく過程を見せるという、企画モノ的な側面も強かったため、純粋なオリジナルアルバムとしては2019年の「ジャズ」以来、ということになるのでしょうか。もっとも、その間にもベスト盤をリリースしたり、音楽劇のサントラ盤をリリースしたりと、かなり積極的な活動が目立ちます。
ドレスコーズというと、ご存じの通り、現在は志磨遼平のソロプロジェクトなのですが、そのため彼の音楽的な嗜好が強く反映される内容になっています。特にドレスコーズの初期は4人組バンドで、ロック色が強かったのですが、徐々にポップ色の強い作風に移行。途中、ファンクなどの要素が加わることもあったのですが、ここ最近はよりポップ、それも60年代や70年代あたりのレトロでキュートなポップソングの影響を受けたような作風の曲が目立ち、メロディーラインの甘さをより前に押し出した曲調が目立っています。
今回のアルバムも、まさにそんなドレスコーズのポップな側面がさく裂したアルバム。まずそもそも「戀愛大全」というアルバムタイトル自体から、とてもスィートでキュートな内容であることを彷彿とさせます。そんな期待を持ちつつアルバムを聴くと、このキュートでポップなメロディーラインを軸としつつ、バラエティーに富んだ作品に仕上がっていました。
まず1曲目「ナイトクロールライダー」は比較的分厚いバンドサウンドが加わった、ロック色の強い作品。ただ、ここにシンセの音色が加わり、ポップなメロディーラインもあり、彼らしいキュートなポップスに仕上がっています。続く「聖者」はモータウンビートの軽快なビートにドリーミーなシンセの音色が加わった、これまたキュートなポップチューン。さらに「やりすぎた天使」もウォール・オブ・サウンズの影響を受けた分厚くドリーミーなサウンドで聴かせるポップな楽曲に仕上がっています。
さらにバラエティー富んだ曲調は続きます。メロウさを感じ、シティポップテイストの強い「夏の調べ」にシューゲイザー的なノイズが楽曲を覆うドリームポップチューン「ぼくのコリーダ」、同じくドリーミーなサウンドが大きな魅力となっていながら、切ないメロも耳を惹く「エロイーズ」、軽快なシンセポップが80年代っぽい「ラストナイト」、ネオアコ的な雰囲気のあるキュートなギターポップ「惡い男」、分厚いサウンドに哀しげなメロが印象的な「わすれてしまうよ」と続き、最後はしんみり聴かせるバラードナンバー「横顔」で締めくくります。
そんな訳で、1曲1曲バラエティーに富んだ構成を見せる今回のアルバム。ただもっともどの曲も、分厚いドリーミーなサウンドでコーティングされており、志磨遼平ならではのキュートなメロディーラインを聴かせてくれるということでしっかりと統一感があります。ドレスコーズが志磨遼平のソロプロジェクトになってから、彼は自由に好きなようにポップソングを奏でていましたが(それはバンド時代も一緒だったかも?)、その自由度がさらに増した感のある、志磨遼平の好むポップソングがアルバム全体に繰り広げられた作品になっていました。
アルバムの構成として、10曲入り38分という長さもポップアルバムとしてちょうどよい長さ。最後までキュートな志磨遼平の音楽の世界を無心に楽しめる傑作に仕上がっていました。ここ最近、ポップ嗜好が強かった彼が、ある意味、行き着いたアルバムと言えるかもしれません。一方で、なにげに「バンド幻想」も抱いている彼は、それだけにひょっとしたら次回作は、バンドという方向性に戻る可能性も??
評価:★★★★★
ドレスコーズ 過去の作品
the dresscodes
バンド・デ・シネ
Hippies.E.P.
1
オーディション
平凡
ジャズ
バイエル(Ⅰ.)
バイエル(Ⅱ.)
バイエル
ドレスコーズの音楽劇《海王星》
ほかに聴いたアルバム
HELLO/ROTTENGRAFFTY
ロットン4年ぶりのニューアルバム。ここ数作はエレクトロサウンドを取り入れた曲も目立ったのですが、本作はヘヴィーなバンドサウンドを前面に押し出した曲が並びます。また、メランコリックなメロディーラインに良くも悪くもJ-POP的なものを感じるバンドですが、今回はさらに推し進めて哀愁感ただよう、ともすれば「歌謡曲」的なメロディーラインの曲に。ある意味、ロットンらしさをより前面に押し出したアルバムに仕上がっていました。
評価:★★★★
ROTTENGRAFFTY 過去の作品
LIFE is BEAUTIFUL
PLAY
You are ROTTENGRAFFTY
radio JAOR ~Cornerstones 8~/佐藤竹善
SING LIKE TALKINGのボーカリスト、佐藤竹善がライフワーク的に続けているカバーアルバム企画第8弾。今回は、「架空のFMラジオ局」をモチーフに、主に70年代~80年代の邦楽を取り上げています。公式サイトの紹介では「世界的に注目が集まる」と書いているのですが、それはもうちょっと洋楽テイストの強いシティポップ系の曲で、こちらで取り上げられているのは、確かにシティポップにカテゴライズされる曲ですが、もうちょっと歌謡曲寄りの作品が並んでいます。ただ、個人的にはKANの「カレーライス」が取り上げられているのが、そのセレクトといい、ファンとしてはうれしい感じ。また、2009年にスマッシュヒットしたコーヒーカラーの「人生に乾杯を!」をクリスマスバージョンとしてリメイクしてカバー。こちらも懐かしく楽しめました。全体的にはジャジーやソウル的な要素をより強めた大人の雰囲気漂うカバーに仕上げており、原曲の目新しい解釈というものはないものの、佐藤竹善らしい色を加えたカバーに仕上がっています。良い意味で安心して楽しめる作品です。
評価:★★★★★
佐藤竹善 過去の作品
ウタジカラ~CORNER STONE 4~
静夜~オムニバス・ラブソングス~
3 STEPS&MORE~THE SELECTION OF SOLO ORIGINAL&COLLABORATION~
Your Christmas Day III
The Best of Cornerstones 1 to 5 ~The 20th Anniversary~
My Symphonic Visions~CORNERSTONES 6~feat.新日本フィルハーモニー交響楽団
Little Christmas
Don't Stop Me Now~Cornerstones EP~
Rockin’ It Jazz Orchestra Live in 大阪~ Cornerstones 7
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