50年前の日本ロック黎明期の雰囲気を伝える
Title:OZ DAYS LIVE '72-'73 Kichijoji The 50th Anniversary Collection
60年代にフィードバックノイズを前面に押し出した圧巻のサウンドが他を圧倒。伝説的バンドとして今なお語り継がれる裸のラリーズ。公式音源がほとんど世に出回らなかったことから、カルト的な人気も博ていた彼らでしたが、今年になって公式音源が正式に再発。先日、ここでもその音源を紹介しました。そして、こちらもそんなラリーズ音源再発に呼応する形でリリースされた音源。1972年から1973年という短い間でしたが、吉祥寺にあったライブハウス「OZ」の音源を収録した全3枚組となるオムニバスアルバムで、そのうち、裸のラリーズの音源が10曲にわたり収録されています。
この「OZ」というライブハウス、短い間ではあったものの、その間、裸のラリーズ、南正人、久保田麻琴と夕焼け楽団、カルメン・マキ&OZ、四人囃子、安全バンド、クリエイション、頭脳警察などなど、日本のロック黎明期を飾るミュージシャンたちが数多く演奏したことでも知られる伝説のライブハウスで、本作は、もともと1973年にレコード盤でリリースされたアルバム。その後、CDで再発されたのですが、廃盤となっていたところ、このたび「50周年記念盤」として再発されたものです。
全3枚組のアルバムで、Disc1から2にかけて、裸のラリーズの音源が10曲、Disc2に、南正人の音源が4曲、Disc3には都落ちの音源が3曲、アシッド・セブンの音源が7曲という構成となっています。さらに100ページに及ぶブックレットがついてきており、当時の雰囲気を伝える貴重な写真がついているほか、「OZ」の関係者による対談を収録した記事がついてきており、当時の様子を知ることが出来る内容になっています。
まずなんといっても注目されるのは裸のラリーズの音源ですが、まず冒頭の「OZ Days」からして、いきなりフィードバックノイズでガツンと脳天をかち割られるようなスタートとなっています。その後の楽曲については、先日紹介した裸のラリーズのアルバムのように、フィードバックノイズの洪水が押し寄せる・・・といった感じではないものの、かなり荒々しくヘヴィーなバンドサウンドは今聴いても迫力があり、50年も前の音源とは信じられないほど。こちらに収録された音源ではサイケデリックバンドというよりは、フォーキーなメロディーをバックにヘヴィーなバンドサウンドを繰り広げるハードロックバンドというイメージが強くなっているのですが、しっかりと裸のラリーズのすごさを感じされる音源にはなっていました。
南正人はフォークシンガーというイメージが強く、この並びで収録されるのはちょっと意外性があったのですが、「海が見えるあの丘へ」では力強いロックのサウンドをしっかりと聴かせてくれています。全体的にはフォークの色合いも強かったものの、裸のラリーズの次に並んでいても違和感ない作品を聴かせてくれていました。
あと2組は今回、音源を聴くのはもちろん、名前もはじめて聴いたバンド。都落ちは60年代ロックンロールのカバー。これはこれでカッコいいのですが、特に特色も感じないロックンロールそのままのカバーなだけに、他と比べるとちょっと物足りなさを感じてしまう印象も。最後のアシッド・セブンもなかなか興味深く感じられるバンドで、かなり骨太で泥臭さを感じさせるサウンドとボーカルを主軸としたガレージロックバンド。特に圧巻だったのが23分にも及ぶ「風よ吹きまくれ涙は枯れる光の中に」で、哀愁たっぷりのメロディーラインを聴かせつつ、サイケデリックなバンドサウンドでリスナーを圧倒するような楽曲。非常に個性を感じさせるバンドでした。
一方、再発盤の目玉のひとつであるブックレットの方ですが・・・こちらは正直、ちょっと残念な内容でした。「100ページに及ぶブックレット」という売り文句だったのですが、その大半は英訳版に割かれており、対談シーンはわずか20ページ程度。往時を彷彿とさせる写真の数々は貴重でしたし、対談で語られる数々の証言も貴重ではあるものの、やはり全体的には少々、物足りなさも否めませんでした。
収録曲全体としては、やはり裸のラリーズが頭2つくらいとびぬけている感じ。今の耳で聴いても非常にカッコよさを感じるものがあります。ただ、それ以外のミュージシャンについても、これだけカッコいいバンドが、50年も前の日本のライブシーンで活動していたのか、と驚かされるものもあり、全3枚組、非常に聴きごたえのあるオムニバスアルバムとなっていました。期待していたブックレットはちょっと残念でしたが、それを差し引いてもお勧めしたい、日本ロック黎明期のすごさを感じさせる作品でした。
評価:★★★★★
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