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2022年11月 1日 (火)

90年代ロックへの愛情あふれる良書

今回も最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

「ゴッホより、普通にラッセンが好き」というネタでブレイクした芸人、永野の書いたロックにまつわるエッセイ本「僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!」。永野は芸能界きってのロックフリークとして知られているそうで、そんな彼が、90年代の洋楽の代表的な作品を取り上げ、そのアルバムへの愛情を語りつくした1冊。紹介されているアルバムが個人的にも壺にはまる作品が多く、以前から気になっていたのですが、Kindle Unlimitedで読めるようになっていたことに気が付き、電子書籍の形で読んでみることにしました。

個人的に永野は、好きな芸人とかでは全くなく、むしろ「あまり好きではない」(積極的に嫌いではないが)の部類に入る芸人でした。ただ、彼が、90年代の洋楽ロックのようなサブカルチャー近辺に詳しい、というのは、ある意味予想通りといったイメージ。というのも、彼の「ゴッホより、普通にラッセンが好き」というネタは、そもそもラッセンが、一般的な人気や知名度はあるものの、その絵画については画壇などで全く評価されていない、という前提があって成り立つネタであって、その前提を知っているという段階で、ある程度カルチャー、あるいはサブカルチャーには精通しているんだろうな、というイメージを持っていたからです。

そんな訳で、決して好意的に読み始めたわけではないこの本ですが、読み進めるうちにグイグイとその内容にはまっていきました。そこに強く感じるのは90年代洋楽ロックに対する永野の強い愛情。同書では、彼がはまったアルバムを1枚1枚取り上げ、その紹介をしていくのですが、そこには彼の人生と密接にリンクしています。それだけに、ある意味、彼の自叙伝的な内容も兼ねている1冊なのですが、ある意味、ダメダメな部分も含めて赤裸々に、ある種ユニークに描写しているため、そんな自叙伝的な部分を含めて楽しみながら読み進むことが出来ます。

なにげに文章も結構うまく、読み手をグイグイと惹きつける力もあります。正直なところ、ここまで上手い文章を書いてくるというのはちょっと意外でした・・・。また、なによりもおもしろかったのは、そのロックに対する視点。彼が本書で書いている視点は、決して目新しい斬新な視点、という感じではありません。ただ、洋楽ファンが密かに思っていながらも、世の「評論」とは微妙に異なるため、表にできなかったような率直な感想。「僕にとってベックとビョークは、褒めなきゃいけないアーティストだった」「人は本当に暗いときって『キッドA』聴かないと思うんだ」(blurのアルバム「ブラー」について)「でも、大事な捻くれた部分、遊びの部分が後退しちゃったんだよね。」などなど、言いたいことがすごくわかる!と思う部分が要所要所にありました。特に最後、あとがきの「曲さえ良ければ、みたいなことを言い出してから、ロックがつまらなくなった気がします」という感想も、すごく同感で。なんか、アイドルも売れ線J-POPも曲が良ければいいじゃん、みたいな風潮、個人的にもすごく違和感があって・・・なんか、ある種の「こだわり」みたいなのって、すごく大切だと思うんですよね・・・。

正直言って、90年代ロックといっても、若干私と永野は趣向が違っている部分があって、永野は私より2歳年上ということと、彼は中学から洋楽ロックを聴いていたのですが、私は高校の頃から、という点でスタートの時期が一世代くらい違っています。そのため、彼はNIRVANAスタートで、どちらかというとアメリカのヘヴィーロック路線を好んでいたのに対して、私はoasisスタートでblur、RADIOHEADに進んで、あとは逆にPixiesやジザメリなど80年代インディーロックに戻った聴き方をしていました。ただそれでも、同じ90年代の洋楽ロックを聴いてきたということで言いたいことはすごくよくわかります。親近感を覚えながら読み進むことが出来ました。

予想外に楽しく読み進めることが出来た内容で、評論家とは違う、音楽ファンだからこそ書くことができた、まさに「良書」と呼ぶにふさわしい1冊だと思います。90年代の洋楽ロックをリアルタイムで楽しんできたアラフォー、アラフィフ世代の音楽ファンは、読んで損のない1冊。お勧めです!

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