« K-POP勢が上位に | トップページ | キュートでドリーミーなギターポップが壺をつく »

2022年11月18日 (金)

ポップス職人健在

Title:SOFTLY
Musician:山下達郎

オリジナルアルバムとしては2011年の「Ray Of Hope」以来、実に11年ぶりとなる作品。もともと音楽に対してこだわりをもって臨み、比較的、寡作なミュージシャンであっただけに11年ぶりというのも驚きではないものの、オリジナルアルバムのスパンとしては過去最高の長さになってしまったようです。とはいえ、11年の間にはシングルのリリースや過去作のリイシュー盤のリリース、「COME ALONG」シリーズの第3弾や「ドー・ワップ・ナゲッツ」シリーズの監修・選曲、そして何よりもベストアルバムのリリースなどがあった上にライブ活動もコンスタントに行っていただけに、オリジナルアルバムのリリースが11年ぶりという事実は逆に意外にすら感じてしまいました。

そんな11年というスパンを置いたニューアルバムなだけに、今回も文句なしに珠玉のポップスがつまった傑作に仕上がっていました。まず今回のアルバム、前半は非常に未来に対する希望を感じさせる曲が並びます。山下達郎の本領発揮ともいえるアカペラ曲「フェニックス」はまさに未来への希望を歌った曲。続く「LOVE'S ON FIRE」は四つ打ちのエレクトロチューンで、2曲目にいきなりのエレクトロチューンで驚かされますが、3曲目の「ミライのテーマ」はピアノを主軸に軽快で爽やかに聴かせる、実に山下達郎らしいポップチューン。タイトル通り、この曲も未来への希望をテーマとした曲に仕上がっています。

さらに中盤「CHEER UP!THE SUMMER」もまさにタイトル通りの夏への讃歌。テンポよいリズムも心地よい軽快なナンバーが聴いていてウキウキしてくるようなポップチューンとなっています。さらに「うたのきしゃ」も歌の楽しさを歌った音楽への讃歌。こちらも非常に前向きなナンバーとなっており、今回のアルバム、前半は未来への希望を感じさせる明るいポップチューンが並びます。

ただ、そんな前半の明るい雰囲気をガラッと変えるのが10曲目に配置された「OPPESSION BLUES(弾圧のブルース)」でしょう。世界各地で止まない戦争に心を痛めて山下達郎がつくった楽曲で、You Tubeでリリックビデオも公開。日本語字幕に加えて、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語やポルトガル語の字幕版も公開されており、彼の強いメッセージを感じさせる本作。タイトル通りのブルージーで哀しげなギターをバックに切々と歌われる歌詞が強く心に響きます。本作は特に前半、未来を感じる明るい曲が並ぶだけに、本作がズシリと重くのしかかりました。

終盤の「光と君へのレクイエム」も山下達郎らしい爽やかな曲調のポップスなのですが、恋人との別れを歌った(「レクイエム」というタイトルからすると、死別でしょうか?)哀しい歌詞が、明るい曲調と対比的なゆえに心に響きます。さらにラストの「REBORN」も「死」をテーマとしたナンバー。こちらもしんみり聴かせるバラードチューンでメランコリックなメロディーラインが胸に響きます。ラストにこのような前半の曲と対比的な曲を配置してくるあたりに、単純な前向きポップスでは終わらせない彼の主張も感じさせます。ただ、この2曲も、別れをテーマとしつつも「ずっとずっと忘れない/ふたりのあの愛を」(「光と君へのレクイエム」)「めぐり会う時まで/少しだけのさよなら/たくさんのありがとう/少しだけのさよなら」(「REBORN」)と別れは決して「哀しさ」だけではないことのメッセージ性を感じさせ、聴いた後にどこか爽やかで、前向きな気持ちにさせてくれる構成になっていました。

全体的には楽曲自体はいつもの山下達郎といった感じの爽やかな珠玉のポップソングが並んでいます。正直、目新しさはないのですが、これほど完成度の高いポップソングならば、もう文句のつけようのない傑作と言えるのではないでしょうか。なによりも前向きで明るく、でもちょっと切なさも感じさせる歌詞の世界も魅力的。11年ぶりというスパンも全く不満に感じない最高のポップスアルバムに仕上がっています。

評価:★★★★★

山下達郎 過去の作品
Ray of Hope
OPUS~ALL TIME BEST 1975-2012~
MELODIES(30th Anniversary Edition)
SEASON'S GREETINGS(20th Anniversary Edition)

Big Wave (30th Anniversary Edition)
COME ALONG 3
POCKET MUSIC (2020 Remaster)
僕の中の少年 (2020 Remaster)
ARTISAN 30th Anniversary Edition


ほかに聴いたアルバム

A revolution/LOVE PSYCHEDELICO

途中、オールタイムベストのリリースなどを挟みつつ、純粋なオリジナルアルバムとしては約5年ぶりとなるニューアルバム。この5年の間、KUMIの再婚という大きな転機を迎えた彼女たちですが、ただLOVE PSYCHEDELICOとしてのスタイルは全く変わらず。ギターリフ主導のオールドスタイルのロックを彷彿とさせる作風というのは今回も変わらず。ただ、カラッとした雰囲気が特徴的だった前作に比べると、よりメランコリックさが増した作風となった感も。全体的にはいかにもなデリコサウンドといった感じで、良くも悪くも安心して楽しめる作品でした。

評価:★★★★

LOVE PSYCHEDELICO 過去の作品
This Is LOVE PSYCHEDELICO~U.S.Best
ABBOT KINNEY
IN THIS BEAUTIFUL WORLD
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST Ⅱ

15th ANNIVERSARY TOUR-THE BEST-LIVE
LOVE YOUR LOVE
LOVE PSYCHEDELICO Live Tour 2017 LOVE YOUR LOVE at THE NAKANO SUNPLAZA
"TWO OF US"Acoutsic Session Recording at VICTOR STUDIO 302
Complete Singles 2000-2019
20th Anniversary Tour 2021 Live at LINE CUBE SHIBUYA

ReLOVE&RePEACE/高橋優

前作「PERSONALITY」は正直、彼としては少々歌詞のインパクト面が不足していた感がありましたが、その反動か、今回は現在の状況を皮肉的に描く「あいのうた」や社会派な「STAND BY ME!!!」など、良くも悪くも彼らしい、インパクト満載の歌詞で、暑苦しいほどの楽曲を聴かせてくれます。聴いていて「ハイハイ、もうイイから!」と言いたくなるような暑苦しさなのですが(笑)、まあ、これが彼の特徴であり、ファンにとっては彼の良さなんでしょうが・・・。個人的にはもうちょっと押し一辺倒じゃない方が、というのは以前から何度も書いてきている話なのですが、もう彼や彼のファンにとってはこの「押し」こそが大きな魅力なんでしょうね。

評価:★★★★

高橋優 過去の作品
リアルタイム・シンガーソングライター
この声
僕らの平成ロックンロール(2)
BREAK MY SILENCE
今、そこにある明滅と群生
高橋優 BEST 2009-2015 『笑う約束』
来し方行く末
STARTING OVER
PERSONALITY

|

« K-POP勢が上位に | トップページ | キュートでドリーミーなギターポップが壺をつく »

アルバムレビュー(邦楽)2022年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« K-POP勢が上位に | トップページ | キュートでドリーミーなギターポップが壺をつく »