« 故郷アイスランドに戻って | トップページ | 女王、降臨 »

2022年11月14日 (月)

老害たちのロックンロール

今回も最近読んだ本の紹介です。

今回は、レコード・コレクターズ誌が創刊40周年を記念して発刊した「ロック・アルバム200」。40周年記念企画として2022年の5月号から8月号にかけて10年代ごとに「ロック・ベストアルバム200」という企画を行ってきましたが、その集大成となる企画。1960年代から11990年代のロックアルバムを今回はまとめて各ライターが30位まで順位付け。その集計を行ったのが今回の企画となります。

で、その結果が、あまりに酷くてあきれてしまう順位となっていました。一番の理由として「2022年の現在という視点からの評価」が全くなされていなかった点。90年代のアルバムまで評価対象としていますが、90年代のアルバムはベスト20でも13位にNIRVANA「Nevermind」のみ。80年代まで広げても6位にTaking Heads「Remain In Light」があと1枚ランクインしているだけ。15年前にレココレの25周年で同様の「ロックアルバムベスト100」という企画を行っているのですが、その結果とほぼ変わらない結果となっています。

確かに、ロックの黄金期といえば60年代、70年代。それだけにこの時代のアルバムが比率として多くなる、というのは十分わかります。ただ実際に現時点までのロックの歴史を考えた際に、人気の面でも、それ以降のロックへの影響という面でも欠くことの出来ないアルバムは多くリリースされています。例えばアメリカのローリングストーン誌が選ぶ「The 500 Greatest Albums of All Time」の2020年の改訂版では、NIRVANA「Nevermind」が6位、(90年代ですらありませんが)RADIOHEAD「KID A」が20位に選ばれていますし、同ランキングはロックに限りませんが、80年代90年代のアルバムが多く上位にランクインしています。イギリスのNMEも同様の企画を2013年に行っていますが、こちらに至っては、1位はThe Smithの1986年のアルバム「The Queen Is Dead」ですし、こちらはベスト10のうち5枚までが80年代以降のアルバムとなっています。

それらのランキングと比較すると、明らかに選者が「自分たちの嗜好」に偏重しすぎており、本来、評論家として名乗るのなら持つべき「現在における視点」というのが完全に欠如したランキングは、そもそも批評と名前に値しないランキングと言わざるを得ません。もっとも、この回に限らず、ミュージックマガジン系の雑誌のランキングは、何名かの選者がそれぞれランキングをつけ、それを集計した単なる人気投票にすぎません。それはそれでひとつのやり方ではあるのですが、音楽専門誌を名乗っているのならば、数名の選者によって、ちゃんと雑誌としてのスタンスをあきらかにする批評的な観点を入れたランキングを作成してほしい、といつも強く感じています。また、選者の中にはロック史の観点からのベストアルバムではなく、単なる「個人としての好きなアルバムランキング」を載せている選者も多く、正直、評論家としての素質を疑わざる得ない選者も少なくありません。

またもうひとつ大きな疑問点として感じたのは、40周年という記念企画でありながらも、選択するアルバムを「ロック」に絞ってしまっているロック至上主義。60年代と70年代のロック黄金期のアルバムのみ、というのならまだわかります。ただ、90年代まで含めて、なおかつ2022年という今に評価するのに対して、ロックというジャンルに限定する方針は非常に時代遅れな感が否めません。実際、前述のローリングストーン誌のベストアルバム選でもNMEのものでもジャンルはロックに限らず、様々なジャンルからのアルバムが選ばれています。この点に関しても非常に違和感を覚えました。

要するに、いつまでたっても60年代や70年代のロックに凝り固まり、そんな時代遅れの音楽の価値観を最高と勘違いしている「老害」感をすごく感じてしまうランキングになっていました。もちろん、今回上位に並んだアルバムは名盤であることは間違いないため、ロック初心者が「歴史」を知るためのディスクガイドとする分には問題ありません。ただ、それでも非常に偏りを感じてしまうリストではありますが。もともとレココレ誌は60年代や70年代のロック愛好家がメインの雑誌だった感は否めませんが、もう90年代とか今の時代は無視して、60年代70年代ロック専門誌としてやっていけばいいじゃん。その代わり、そんな「村社会」から一歩も出てきてほしくないのですが。もっとも、そんな私もアラフォーどころかそろそろアラフィフが近づいてきた年代。若い世代の音楽を、無下にバカにしないように、自戒を込めて・・・。

|

« 故郷アイスランドに戻って | トップページ | 女王、降臨 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 故郷アイスランドに戻って | トップページ | 女王、降臨 »