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2022年11月 7日 (月)

ドリーミーなポップ…かと思いきや

Title:Paradise review
Musician:踊ってばかりの国

コロナ禍の中でもかなり積極的な活動が目立つ踊ってばかりの国。昨年リリースした「moana」はコロナ禍の中での状況を歌った歌詞も特徴的でしたが、前作から1年3ヶ月ぶりとなるミニアルバムとなる本作。なにげにミニアルバムを含めるとパンデミック後、既に3枚目となるアルバムとなります。

そんな彼らの新作は、いままでの彼らと同様、サイケデリックなアレンジをほどこしつつ、メロディーラインについてはむしろ優しいポップという様相に強い作品になっています。1曲目「your song」もドリーミーなサウンドをバックにしつつ、ミディアムテンポの優しさを感じさせるポップになっていますし、続く「Ceremony」もアコースティックなサウンドを入れつつ、メロディアスでポップにまとめあげた作品に。「Amor」もムーディーで怪しげな雰囲気を醸し出しつつも、メロディーラインについては基本的にポピュラリティーあるものとなっています。

「海が鳴ってる」もギターを聴かせつつメロウに聴かせる作品になっていますし、最後に聴かせるタイトルチューン「Paradise review」もギターがドリーミーでサイケな雰囲気を醸し出しているのですが、メロディーラインについては至ってポップな内容になっています。アルバム全体としてほどよくサイケでドリーミーなサウンドとポップなメロディーラインが上手く交差しており、踊ってばかりの国らしい、サイケでポップな作品に仕上がっている・・・単純にサラッと聴いてしまうと、そう感じるような作品になっています。

ただ、アルバムを聴いていて、どうにも違和感を覚えてしまうのが歌詞の世界。アルバム全体として、どこか「死」をイメージしたような曲が目立つのが本作の大きな特徴となっていました。

例えばアルバムの冒頭「your song」では

「命授かりて今宵生まれる人
身体から離れ今宵旅立つ人
僕らの見送る真っ赤な夕焼けが
どこかの国で朝焼けになるのよ」
(「your song」より 作詞 下津光史)

と、まさに生と死をテーマとした歌詞を描いています。その後も「Amor」では同じく死の瞬間をテーマとしていますし、「知る由もない」も「死」という言葉が登場します。「死」を非常に意識させる今回のアルバムは、どこか社会を刹那的に捉えている彼らのスタンスを感じることが出来ます。

そんな刹那的な彼らのテーマが最も強く反映されたのがまさにタイトルチューン「Paradise review」のようで、本作では「俺たちに明日はない」と歌われており、このフレーズがツアータイトルになっているなど、彼らの今の主張を典型的にあらわした一文となっています。この作品は彼らが参加したライブとスピーチによる反戦街宣<No War 0305 Presented by 全感覚祭>の風景をそのまま歌った歌詞だそうで、この曲について下津光史はインタビューの中でロックンロールとは「明日なんか殴り捨てて、そういう気持ちをダウン・ピッキングにのっけるもの」と語っており、まさにアルバム全体に流れる刹那的な世界観は、彼らのロックンロール観を強く反映したものである、という点が明確になっています。

まあ、言い方を変えれば、今しかぶつけられない感情を曲にのせたのがロックンロール、といった感じでしょうか。そんな強烈な主張を歌っているからこそ、ドリーミーでポップな作品でありながらも、聴いていてのどに骨がひっかかったかのような違和感を、アルバムの中でどこか覚えるような、そんな強烈なひっかかりのある作品になっていました。あいかわらずそのスタンスも含め、彼らが唯一無二のバンドだと、あらためて実感した作品。相変わらずの傑作でした。

評価:★★★★★

踊ってばかりの国 過去の作品
グッバイ、ガールフレンド
世界が見たい
SEBULBA
FLOWER
踊ってばかりの国
サイケデリアレディ
SONGS
君のために生きていくね
光の中に
moana


ほかに聴いたアルバム

MMY/the peggies

9月いっぱいでの活動休止を発表したthe peggiesの、いままでの活動の集大成となるオールタイムベストアルバム。J-POPらしいポップスさとかわいらしさを兼ね備えたようなメロディーラインと、ロックバンドとしてのヘヴィネスさのバランスを模索していったような楽曲が並びます。彼女たちはいままでアルバム毎にポップ方向にシフトしたり、ヘヴィーなロックバンド寄りにシフトしたりと、方向性の模索を続けていたった感がありますが、このオールタイムベストではポップな楽曲を軸にしつつも、そんな彼女たちの模索を感じられる並びとなっていたように思います。結果、活動休止となってしまったのは、そのはざまでやはりなかなかうまくいかなかったということなのでしょうか。今後、活動再開がいつになるかわかりませんが、活動再開後は、もっと自分たちの自由な音楽活動を志向できればよいのですが。

評価:★★★★

the peggies 過去の作品
super boy! super girl!!
なつめきサマーEP
Hell like Heaven
アネモネEP
The GARDEN

Come on!!!/the telephones

the telephonesの2年ぶりとなるニューアルバム。メンバーのコメントとして、人の揚げ足取りのようなニュースが多く、地獄のような時代の中、「頭を空っぽにして楽しむ音楽が絶対必要」という信念のもとに作成されたアルバムだそうで、そんな信念の通り、全編、難しいこと抜きに楽しめるディスコチューンが並ぶような楽しいアルバムに仕上がっています。前作同様、多少一本調子なのも気になりますが、そんなこと抜きとしてとにかく楽しめればいいじゃん、そんなメンバーの声が聴こえてくるような作品でした。

評価:★★★★

the telephones 過去の作品
DANCE FLOOR MONSTER
A.B.C.D.e.p.
Oh My Telephones!!! e.p.

We Love Telephones!!!
100% DISCO HITS! SUMMER PACK
Rock Kingdom
D.E.N.W.A.e.p.
Laugh,Cry,Sing...And Dance!!!
SUPER HIGH TENSION!!!
BEST HIT the telephones
Bye Bye Hello
NEW!

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