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2022年11月11日 (金)

若大将のオールタイムベスト

Title:若大将ベスト
Musician:加山雄三

ご存じ、若大将の愛称で知られ、俳優やタレントとして活躍する一方、歌手としてもシンガーソングライターとして活動。「君といつまでも」をはじめ数々のヒット曲を持つ加山雄三。そんな彼も今年御年85歳。年内いっぱいでのコンサート活動からの引退を発表しています。本作は、コンサート活動終了に際してリリースされたオールタイムベスト。彼のベスト盤は数多くリリースされているものの、本作はCD1枚分1時間18分というちょうどよい長さであり、彼の代表曲も網羅されていることから、いままで加山雄三の曲を聴いてきたことはありませんでしたが、数多くのヒットを世に送り出したミュージシャンのベストとして抑えておきたいということで今回はじめてチェックしました。

もっとも彼のアルバムをこういう形で聴くのははじめてとはいえ、彼の代表曲自体は聴いたことがありました。加山雄三については、特に好きなミュージシャンでもなんでもなかったのですが、「お嫁においで」「旅人よ」などを聴くと、素直にいい曲だなぁ、と感じました。個人的には「旅人よ」のような、半音を行ったり来たりするような構成のメロディーラインって結構壺で、思った以上に楽しめたアルバムになっていました。

ただ、その上で強く感じたのが2点。まず1点目は加山雄三というのは、典型的な秀才肌の作家だな、という点でした。彼は作曲家としてだけではなく俳優業はもちろん、絵画にも秀でているなど様々な才能の持ち主のようです。ただ作曲家としては、「こんなメロディーを書けるのか!」といった驚きを感じるというよりも、聴きなじみのあるようなメロディーを上手く組み合わせているという印象も強く、今回のアルバムに収録されている曲も似たようなタイプの曲が散見されるなど、天才肌というよりは、卒なくこなす秀才肌といった印象を受けます。多彩な才能と合わせると、良くも悪くも器用な人、という印象を受けました。

そしてそれ以上に強く感じたのは彼の書くメロディーやサウンドに、「ビートルズ以前のポピュラーミュージック」という部分を強く感じる点でした。今、日本で活躍しているシンガーソングライターはほぼ全員、ビートルズ以降のポップミュージックの影響を直接的にすら間接的にすら受けています。その耳で彼の曲を聴くと、異質にすら感じる部分があり、典型的なのがリズム。4ビートのリズム感は8ビート以降のリズムに慣れ親しんだ私たちにとっては、かなりのっぺりとしたものを感じます。

特にその違いを強く感じるのが、本作に収録されている加山雄三とザ・ヤンチャーズ名義の「座・ロンリーハーツ親父バンド」で、このバンドは加山雄三と、谷村新司や南こうせつ、さだまさし、THE ALFEE、森山良子というメンバーが組んだバンド。ただ、このバンドのリズム感はあきらかに8ビートでリズム感も今の私たちが聴いてもあまり違和感のないもの。加山雄三と他のメンバーはだいたい一回りくらいの年の差があるのですが、この差が、音楽の、特にリズム感に与える影響が大きいんだな、ということを強く感じました。

一方で、85歳という年齢にこのキャリアに関わらず、全体的に洋楽の影響からも強く、最後の最後まで演歌の方面にシフトしなかった点に彼の一種の矜持を感じさせます。本作には残念ながら収録されなかったのですが、2014年にはTHE King ALL STARSと題して若手ミュージシャンとのコラボも行っていますし、その点、自分はポピュラーミュージックのシンガーソングライターであって、旧態依然の演歌にシフトすることなく、終始、新しいものを取り入れいきたいという意思のあらわれのようなものも強く感じました。

そういう点もあって、若い世代にとっても意外と聴きやすさも感じるアルバムではないでしょうか。もっとも、私も40代半ばになって、ムード音楽的なものも「良い」と感じるようになってしまった・・・という点も否定はできないのですが・・・。予想していたよりも楽しめた1枚でした。

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

For./sumika

軽快なポップソングが楽しいsumikaのニューアルバムですが、今回のアルバムはとにかくバラエティー豊富な内容。ギターサウンドを前に押し出してきたり、ヘヴィーな打ち込みのサウンドを入れてきたかと思えば、ピアノやホーンセッションを取り入れた賑やかで楽しいサウンドや裏打ちの軽快なリズムを聴かせたりと実にバラエティー豊か。またメロディーラインもインパクトが強く、なんとなくイメージ的には90年代のミスチルをさらに明るくした雰囲気。全体的には王道のJ-POPといった感じも強く、良くも悪くも乱雑な感も否めませんが、それを含めて90年代J-POPのヒット作を彷彿とさせるアルバムになっていました。

評価:★★★★

sumika 過去の作品
Familia
Chime
Harmonize e.p
AMUSIC

BEWARE/SiM

「The Rumbling」がテレビアニメ「進撃の巨人 The Final Season Part2」のオープニングに起用されて話題となっているレゲエパンクバンドの新作は、同曲を含む4曲入りのEP盤。「The Rumbling」はメランコリックなメロを主軸に彼ららしいヘヴィネスさを維持しつつ、ポップスさも強い曲調となっていますが、それ以外の曲に関してはメランコリックなメロが流れつつも、かなりヘヴィーでダイナミックなSiMらしい作風が持ち味。来るべき久々のニューアルバムも楽しみになるEP盤でした。

評価:★★★★

SiM 過去の作品
PANDORA
i AGAINST i
THE BEAUTiFUL PEOPLE
THANK GOD, THERE ARE HUNDREDS OF WAYS TO KiLL ENEMiES

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