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2022年11月12日 (土)

「Doolittle」の「成長盤」

Title:Doggerel
Musician:Pixies

前作から約3年ぶりとなるPixiesのニューアルバム。2004年にまさかの再結成を果たした彼らは、しばらくはライブ中心の活動でアルバムのリリースはなかったものの、2014年に実に23年ぶりとなるニューアルバム「Indie Cindy」をリリース。その後は比較的にコンスタントにアルバムをリリースし、本作が早いもので再結成後4枚目となるアルバムに。なにげに最初の活動の時にリリースしたアルバムと同じ枚数をリリースしてしまった結果となります。

ちなみに今回の「Doggerel」という奇妙な言葉は、「(内容もふまじめで、韻律もふぞろいな)へぼ詩」という意味になるそうです。こういう名付け方はある意味、彼ららしいとも言えるのですが、ただ、このタイトルを見てファンなら彷彿とさせるようなアルバムがあるのではないでしょうか。そう、1989年にリリースされ、彼らの代表作の1枚とされるアルバム「Doolittle」。なんとなく語感が似ていることから、この名作を彷彿する方も少なくないのではないでしょうか。

ただ、この「Doolittle」との関連性はメンバーも意識しているようで、実際、ギターのジョーイ・サンティアゴは本作を「『Doolittle』の成長盤(the grown-up version)」と述べています。そんな「Doolittle」の延長線に位置付けられた本作は、Pixiesの王道を行くようなギターロックが並ぶアルバムになっていました。

実際、冒頭を飾る「Nomatterday」ではギターリフ主導のバンドサウンドのイントロからスタートしつつ、ブラック・フランシスの語りが入ります。このスタイル、なにげに「Doolittle」の1曲目「Debaser」とちょっと似たような構成・・・。「Dregs of the Wine」も同じくブラック・フランシスの語るような、シャウトするようなボーカルにノイジーなギターが重なる疾走感のあるPixiesらしい楽曲。「The Lord Has Come Back Today」もサビの部分で唯一の女性メンバー、パズ・レンチャンティンのコーラスが重なるあたりも、実に彼ららしさを感じる作品になっています。

その後も「Pagan Man」のような切ないメロディーラインでブラック・フランシスのメロディーセンスが光る作品があったり、「You're Such A Sadducee」のようなヘヴィーなギターサウンドを聴かせつつメランコリックなメロを聴かせる作品があったりと、最後までPixiesらしい魅力的なギターロックが並んでいました。

ただ一方、本作が「Doolittle」の成長盤と位置付けたのは、そんな「Doolittle」の系譜を引くような作品が並んでいる、というだけの意味ではないようで、同じくジョーイ・サンチャゴはアルバムについて「俺たちは成長した。2分以下の曲をもう作らなくなった。今じゃ、ちょっとしたブレイクもあるし、より一般的なアレンジも取り入れている、ただ俺たちなりの捻りはこれまで通りだけどね」と語っているようです。確かに実際、本作は全12曲入りで42分。1分あたりの長さは平均4分弱となっており、以前と比べると複雑に展開する曲も含まれています。ただ、これに関しては一本調子とはいえ勢いのあった「Doolittle」の方が潔くてよかったように思うのですが・・・。

そんな「Doolittle」との変化はありつつ、全体的には非常にPixiesらしさを感じた今回のアルバム。個人的には再結成後にリリースされた4枚のアルバムのうち、もっとも気に入ったアルバムではありました。ただ、比較対象はあくまでも「再結成後」であって、やはり再結成前の4枚の名盤たちには遠く及ばず。まあ、ここらへんは比較するだけ野暮とは思うのですが・・・。とはいえ、十分「傑作」の水準のアルバムであることは間違いないと思います。Pixiesらしさがしっかりとつまった作品でした。

評価:★★★★★

PIXIES 過去の作品
EP1
EP2

Indy Cindy
Doolittle25
Head Carrier
Beneath The Eyrie


ほかに聴いたアルバム

THAT'S WHAT HAPPENED 1982-1985-THE BOOTLEG SERIES,VOL.7/MILES DAVIS

モダンジャズの第一人者としても知られ「モダン・ジャズの帝王」とも呼ばれているMiles Daves。本作は、2011年から続けられている彼の「ブートレグ・シリーズ」の第7弾。今回はタイトル通り、1982年から1985年にかけての音源が収録されており、Disc1,2には1982年から85年までの未発表のスタジオ音源を、Disc3には1983年7月7日のモントリオール・ジャズ・フェスティバルのライブ音源が収録されています。

作風としては全体的にフュージョンのテイストが強く、かなり時代に沿った作風を感じさせます。特にシンディーローパーの「Time After Time」やマイケル・ジャクソンの「Human Nature」のカバーも収録。カバー自体はアルバム「You're Under Arrest」に収録されており、既発表なのですが、こういう当時の最新ヒット曲のカバーにも挑戦するという、音楽に対する柔軟さに感心してしまいます。出来としては、正直、あまりアイディアも感じさせないインストカバーになっているのですが・・・。

ただ全体としては哀愁たっぷりのサウンドをしっかりと聴かせるカバーが多く、彼にとっては活動後期にあたるこの時期の作品ですが、全く衰えの見せない演奏を聴かせてくれており、ライブ音源も含めて、終始耳を奪われるパフォーマンスの連続となっていました。3枚組でかなりボリューミーな作品で、ブートレグシリーズとちょっとファン向けな作品ですが、熱心なファンでなくてもマイルスに興味があれば聴いて損のないアルバムだと思います。時代に沿った挑戦を続けるマイルスの魅力を感じさせる音源でした。

評価:★★★★★

Miles Davis 過去の作品
The Final Tour: The Bootleg Series, Vol. 6(Miles Davis&John Coltrane)
Rubberband

God Save the Animals/Alex G

アメリカはフィラデルフィアを拠点に活動をするシンガーソングライターによる新作。前作「House of Sugar」ではフォーキーで美しいメロを主軸にしつつサイケやエレクトロの要素を取り入れたバラエティー豊富なアルバムになっていましたが、今回もメランコリックなメロディーラインを軸としつつ、インディーロックからAOR、カントリーやジャズなど様々な要素を入れたポップスを展開。ポップなメロディーラインを含めて、非常に楽しめる作品に仕上がっていました。

評価:★★★★★

Alex G 過去の作品
House of Sugar

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