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2022年11月 6日 (日)

日本特有のあのシーンについて語る

今日は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回紹介するのは、タイトル通り、日本独自の音楽文化とも言えるヴィジュアル系について、その歴史を中心に紹介した1冊「知られざるヴィジュアル系バンドの世界」。著者は冬将軍と名乗る音楽ライターだそうで、本作が単独名義の本としてはデビュー作。以前は音楽関連の業務に従事したそうです。

このヴィジュアル系バンドというのは、音楽ファンにとっては説明するまでもないでしょう。一般的にはX JAPANやBUCK-TICKをそのルーツ的な存在とする、音楽性よりもまずはそのどぎつい、ゴシック系のメイクを大きな特徴とするバンド。90年代に一世を風靡し一種のブームとなるものの、「ヴィジュアル系」という名前が示す通り、音楽性よりもルックスを重視したようなイメージがついてしまったこともあり徐々に衰退してしまいました。ただ、その後も一部では根強い人気を誇り、一方ではDir en greyのように、ヴィジュアル面ではなく音楽的にも高い評価を誇るバンドも登場。今でも、一定の根強い人気を誇り、日本独自のジャンルとして脈々とその系譜が続いています。

そんなヴィジュアル系について、その成り立ち、歴史を中心に紐解いているのがこの1冊。ヴィジュアル系という文化は、日本のポップスシーンにおいて間違いなく大きな足跡を残しているにも関わらず、音楽面ではなくそのルックスという側面から切り抜かれたシーンなっだけに、音楽シーンにおいては無視されがちなジャンル。X JAPANやBUCK-TICKのような個々のバンドについて取り上げられることはあっても、ヴィジュアル系全体についてはあまり詳しく語られることがなかっただけに、このシーンについて取り上げるというのは非常に興味深く読まさせてもらいました。

このヴィジュアル系の流れを知るにあたって、本書は非常に詳しく記されています。特に80年代後半から90年代にかけてのヴィジュアル系が、まだヴィジュアル系として確立されていなかった時期及び90年代のヴィジュアル系ブームに至るまでの流れについては、著者の詳しい知見を感じることが出来ます。BOOWYからスタートし、X JAPANやBUCK-TICKといった、まさにヴィジュアル系の黎明期のバンドに至る流れ、さらにCOLOR、ZI:KILL、黒夢、SOFT BALLETさらには初期はヴィジュアル系バンドとしてデビューしていたTHE MAD CAPSULE MARKETSなど、様々なバンドが紹介されています。

興味深いのがこの著者の知見が単なるバンドの紹介にとどまらず、楽器の面やファッション面にも言及されていた点。特に日本の音楽評論においては、ライターが実は楽器自体に疎いことが少なくなく(まあ、私も偉そうには言えませんが)、その点への追及がほとんどなされないケースが多いのですが、同書では楽器、特にギターに対するヴィジュアル系の特徴については詳しい記述がされています。またファッション面についても、あのヴィジュアル系のとがったメイク、特に髪型についてはどのように作られているのか、という外部から見ると興味のつきない面にも言及されており、この点も含めて、ヴィジュアル系というシーン全般について、著者の非常に深い知見を感じることが出来る1冊となっています。

ただ、それだけヴィジュアル系については非常に詳しい内容になっているがゆえに、逆にヴィジュアル系以外のジャンルについての著者の知識のあまりの拙さに気になってしまう面が目立ちました。

著者はヴィジュアル系以外のシーン、特にグランジロックやそれに連なるオルタナ系、あるいは80年代から90年代のインディーロック系についての、おそらくほとんど知らないのではないか、という記述が目立ちます。例えばhideについて、彼は亡くなる直前、このオルタナ系からの影響が顕著でしたが、その記載についてはほとんどなし。彼が立ち上げたレコードレーベルLEMONedは、もともとZEPPET STOREを紹介するために立ち上げたレーベルなのですが、ZEPPET STOREについての言及がほとんどない点はさすがに片手落ちすぎるのでは?

また、「ロックフェスが生んだヴィジュアル系差別」と題して、「ヴィジュアル系バンドはフェスに出られない」という偏見があると書かれていますが、初期のロックフェスにはヴィジュアル系に限らず、J-POP系のバンド全般がほとんど出られず、その理由は「偏見」とかではなく、第1回のフジロックで、THE YELLOW MONKEYのファンがバンドが出るかなり前から会場の前の方を占拠。イエモンの前に登場したバンドの時なども微動だにせず彼らの演奏を「無視」し続けたため、多くの音楽ファンの批判をあびた、いわゆる「イエモン地蔵」の登場がその後のフェスにJ-POP系のバンドが出られなかった大きな理由である点は音楽ファンにとっていわば「常識」のレベルなのですが、この点についても一切言及がないのは、さすがにちょっと知らなさすぎるのではないか(それかヴィジュアル系について「偏見」ということにしたいがためにあえて無視しているのか)とも思ってしまいます。

その他にも、このヴィジュアル系シーン以外についての知識のなさについてはかなり気になる部分も多く、かなり厳しい内容になっています。確かにヴィジュアル系を語る本であるため、それ以外について多少知識の不足は仕方がないのでしょうが、ブログの個人サイトで語るにはともかく、ライターとしてお金をもらう立場なら、興味がなくても、もうちょっと音楽シーン全般について知識を仕入れるべきでは?その点はかなり強く疑問を抱いてしまいました。

ヴィジュアル系シーン自体についてはかなり詳しい知識を持っており、タイトル通り、知られざるこのヴィジュアル系というジャンルについて、あらためて興味深く知ることが出来ただけに、この点については非常に残念ですし、惜しさも感じます。ヴィジュアル系に対して「偏見」が持たれているというのが著者の主張ですし、それは事実なのでしょうが、それだけに著者自身もヴィジュアル系以外に対して「偏見」を持たず、もうちょっと知見を広げてほしいなぁ、そう感じてしまった1冊でした。

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