« 「Doolittle」の「成長盤」 | トップページ | 老害たちのロックンロール »

2022年11月13日 (日)

故郷アイスランドに戻って

Title:Fossora
Musician:Bjork

ニューアルバムとしては実に約5年ぶりとなるBjorkの新作。ここ最近、エレクトロミュージシャンのArcaをプロデューサーとして起用し、エレクトロ寄りにシフトした作品が続いていた彼女ですが、今回のアルバムではこの方向性を大きくシフト。久々にエレクトロ色を薄めた作品に仕上げてきました。

まず今回のアルバムでひとつの大きな特徴となっているのはクラリネットの音色。1曲目「Atopos」からスタートし、「Victimhood」「Fungal City」など、クラリネットを効果的に用いた作品が並んでいます。また同時にストリングスを全面的に取り入れた曲も目立つのが今回のアルバム。「Ancestress」や「Fungal City」ではバイオリンの音色を全面的に取り入れており、また「Allow」ではフルートの音色を全面的に取り入れるなど、ここ最近の作品から一転、「生音」を多く取り入れた作品に仕上がっています。

また今回のアルバムの特徴としては「Atopos」や「Trölla-Gabba」、さらにタイトルチューンの「Fossora」においてバリ島を拠点として活動しているガムランガバユニットGabber Modus Operandiを共同プロデューサーとして迎えている点。結果、これらの作品にといては、ガムランをベースとするトライバルな作風が特徴的となっていました。

これらの結果としてアルバム全体として、どこか土着的というか、地に足をついたというか、ある種の暖かみも感じさせるようなアルバムになっていました。おそらく今回、そのような方向性となった一つの理由として、コロナ禍の中、彼女が生まれ故郷であるアイスランドに戻ったという点も大きな理由でしょう。さらに大きな理由として2018年に母親のヒュドゥルを亡くしたということも大きな影響を与えているようです。本作では「Sorrowful Soil」「Ancestress」の2作は、亡き母親に捧げる曲ということでしたし、さらに今回、息子のシンドリと娘のイザドラがコーラスとして参加している曲もあり、あらためて「家族」というものを意識した作品になっていました。

今回のアルバムからエレクトロの作品が減り、生音を入れて、さらに土着的な雰囲気が強くなった背景には、そんな「家族」さらにはアイルランドに戻ったことにより自分のルーツをあらためて見つめなおした、という影響がひょっとしたらあるのかもしれません。その結果として、ここ最近のアルバムの作風からシフトしたアルバムに仕上がったのでしょうか。もっとも、楽曲によってはエレクトロサウンドを取り入れた曲もあり、「Mycelia」のような自分のボーカルをサンプリングした曲などもあったりして、前作から完全に大きくシフトした、といった感じでもありません。前作までの路線を気に入っていた方でも文句なしに楽しめる作品だったと思います。

本作は、Bjorkとしての新たな一歩・・・といった感じでも正直ありません。ある意味、コロナ禍の中で、故郷アイスランドで、自由に作ったアルバムなのかもしれません。ただ今回もBjorkらしさがしっかり出ていた傑作であることは間違いないかと思います。彼女らしい世界観をどっぷりと楽しめた作品でした。

評価:★★★★★

Bjrok 過去の作品
biophilia
2012-02-12 NY Hall of Science,Queens,NY
Bastards
Vulnicura
Vulnicura Strings
Biophilia Live

utopia


ほかに聴いたアルバム

Weather Alive/Beth Orton

ケミカル・ブラザーズの1stアルバムへの参加で有名となったイギリスの女性シンガーソングライターによる約6年ぶり8枚目となるアルバム。暖かい歌声を力強く聴かせるメランコリックな歌が印象的な作品。ピアノを入れて分厚いアレンジで、どこかドリーミーでちょっとジャジーな雰囲気が魅力的。なにげに既にベテランミュージシャンなのですが、今回、アルバムを聴いたのははじめて。暖かみのある楽曲に非常に惹かれた1枚でした。

評価:★★★★★

The End,So Far/Slipknot

アメリカのヘヴィーロックバンドによる約3年ぶりの新作。これでもかというほどの音圧を聴かせるヘヴィーなナンバーが魅力的・・・なのですが、今回のアルバムは全体的にはむしろメランコリックさも感じるメロディーラインが目立つ作品に。いや、意外とポップでメランコリックなメロディーを書いてくるのが彼らの魅力なのですが、今回はヘヴィネスさとメランコリックなメロのバランスで、メロに重心が移ってしまった感が。これはこれで悪くないし、それなりに彼ららしいヘヴィーなサウンドも楽しめるのですが、良くも悪くも「大人のバンド」といった感じになってしまった印象も。個人的にはもうちょっとゴリゴリにヘヴィーな作品を聴いてみたいのですが。

評価:★★★★

slipknot 過去の作品
All Hope Is Gone
ANTENNAS to HELL
We Are Not Your Kind

|

« 「Doolittle」の「成長盤」 | トップページ | 老害たちのロックンロール »

アルバムレビュー(洋楽)2022年」カテゴリの記事

コメント

ビョーク(Bjork)5年ぶりの10thアルバムはマイコフィリア(mycophilia)を喜ばせそう。
コロナ禍でNYから故郷レイキャヴィークに引き籠って、「きのこの国の女王」 となったのだから。
アルバム・タイトル「Fossora」はラテン語の 「穴掘り人」(fossore)を女性名詞化した造語。
ビョークはアナグマのように穴を掘って、地下コロニーで繁殖・生死する菌類(fungi)を発見します。
まさに「土着」ですね。

仏SSWの林檎(Pomme)ちゃんもキノコ女子になっちゃった。
(http://elsurrecords.com/pomme-consolation/05/10/2022/)

投稿: sknys | 2022年11月14日 (月) 21時50分

>sknysさん
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。情報ありがとうございました。

投稿: ゆういち | 2023年1月 6日 (金) 23時04分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「Doolittle」の「成長盤」 | トップページ | 老害たちのロックンロール »