時代を超えた伝説のバンド
裸のラリーズというバンド名、ある程度、日本のロックに詳しい方ならご存じの方も多いのではないでしょうか。ギターヴォーカルの水谷孝を中心に、1960年代に結成。水谷孝を中心にメンバーが流動的ながらも1990年代まで活動を断続的に活動を続けていましたが、その大きな特徴は、これでもかというほど強烈なフィードバックの嵐を繰り広げるギターを中心としたサイケデリックな作風。唯一無二なそのサウンドを奏でるバンドでありつつ、一方で活動がアンダーグラウンドであったため、その実像については謎な部分が多く、さらに公式にリリースされたアルバムが1991年頃にリリースされた、わずか3枚のアルバムのみ。それもどうも水谷孝の意向で、リリース枚数は限定されたようで、インターネットオークションでは非常に高値で売却されていた「幻のアルバム」となっていました。
長らく「伝説のバンド」として神格化されていた裸のラリーズでしたが、昨年10月、突如、オフィシャルサイトがオープン。その中で水谷孝が2019年に死去したことを示唆するような記載がなされており(後に事実と確認)、さらにオフィシャル音源のリリースを拒んでいた水谷孝の逝去の影響か、このたび3枚のオリジナルアルバムが復刻。今回、さっそく伝説のバンドの3枚のアルバムを聴いてみました。
Title:67-’69 STUDIO et LIVE
Musician:裸のラリーズ
まず1枚目のこのアルバムですが、アルバムの冒頭でいきなり大きくショックを受けるのではないでしょうか。いきなり強烈なインダストリアルメタル張りのヘヴィーなノイズからスタート。さらに1曲目「Smokin' Cigarette Blues」はまさにインダストリアルを彷彿とさせるような強烈なビートとノイズをギターを中心としたバンドサウンドで生み出しており、その音の洪水に圧倒されます。続く「La Mai Rouge」も不穏な雰囲気のギターノイズが展開されるダークなナンバー。独特なダークなサウンドが繰り広げられます。
ただ、もうひとつ大きな特徴だったのが、そんな圧倒的なフィードバックノイズの洪水を聴かせつつも、一方では意外とメランコリックなメロディーの歌モノも聴かせているという点で、この2曲に続く「眩 暈 otherwise My Conviction / Vertigo otherwise My Conviction」はひとつの展開。ヘヴィーなギターサウンドをバックにしつつ、メロディーラインは至ってメランコリック。郷愁感のあるメロディーラインは、むしろ典型的な60年代の日本のロックバンドのようなスタイルを感じさせます。この強烈なフィードバックノイズのサイケなサウンドで楽曲を埋め尽くしながらも、一方では、むしろ60年代フォークの影響すら垣間見れるメランコリックなメロディーラインも流れているというある種の奇妙なバランスこそが裸のラリーズのひとつの魅力のように感じます。
評価:★★★★★
Title:MIZUTANI / Les Rallizes Dénudés
Musician:裸のラリーズ
そして、そのメランコリックという側面が強調されたのが、この2作目のアルバム。フィードバックノイズの嵐だった1枚目とはうって変わって、1曲目「記憶は遠い」から、アコースティックギターをバックにフォーキーな作風になっており、しっかりと歌を聴かせる楽曲に。続く「朝の光 L'AUBE」も、美しい鐘のサウンドにアコースティックギターのサウンドをバックに、切なくメランコリックに歌い上げる曲調が特徴的。その後も同様にメランコリックな歌を聴かせる曲が続き、このアルバムの前半だけ聴かせると、60年のフォークグループとすら感じられる方もいるかもしれません。ただ一方で歌詞の世界にはどこかサイケデリックな要素が感じられる部分も強く、裸のラリーズらしい独自性もしっかりと感じられます。
一方で後半、20分以上にも及び「The Last One」では最初は静かなギターでスタートするものの、徐々にダイナミックに展開。後半の繰り返させるギターリフと轟音に軽くトリップしそうな感じすらするサイケな作品に。後半のギターリフはミニマル的な要素も感じさせます。ラストの「黒い悲しみのロマンセ otherwise Fallin’ Love With」もフィードバックノイズを奏でるダークなギターをバックに哀愁たっぷりの歌を聴かせる楽曲に。全体的に水谷孝の内面を聴かせるような、単なる轟音を鳴り響かせるだけではないラリーズの魅力を感じさせるアルバムに仕上がっています。
評価:★★★★★
Title:'77 LIVE
Musician:裸のラリーズ
ある意味、3作のうち、裸のラリーズらしい強烈さが一番あらわれているのがこの作品かもしれません。1977年3月12日に東京の立川市で行われたライブ音源を収録したアルバム。まず特に強烈なのが「氷の炎」で、これでもかというほどのギターのフィードバックノイズが楽曲を埋め尽くします。「夜より深く」も同じく狂暴とも言えるギターノイズが埋め尽くす作品。エフェクトをかけて浮遊感すら感じさせるサウンドは、今のダブの要素も感じさせます。最後を締めくくる「The Last」も強烈なギターノイズからスタート。こちらはギターリフがどこかミニマル的に聴かせる楽曲で、最後の最後までギターノイズで空間を埋め尽くすような楽曲が並びます。
ただ一方で、こちらも意外とメロディーラインのポップスさを感じさせる曲も多く、例えば「夜、暗殺者の夜」などはギターノイズで埋め尽くしつつも、ギターリフが意外とメロディアスにまとまっており、意外とポップという印象を受けるかもしれません。「夜の収穫者たち」も疾走感あるガレージロックの様相もあり、メロディーが意外とメロディアスという印象を受けそうです。
フィードバックノイズの洪水に圧倒されつつ、ただ、これが1977年のライブ音源という事実にあらためて驚かされます。日本国内はもとより、海外に目を向けても、70年代にこれだけ圧倒したギターノイズを奏でるバンドは思い当たりません。今のノイズミュージックの萌芽が70年代ということで、同時代の音源をYou Tubeで聴いたのですが、どちらかというとノイズで埋め尽くすというよりも、実験的にノイズを(ある種恐る恐る)奏でているような印象。ある意味、日本においても世界においても隔絶した存在のバンドだったのではないでしょうか。
フィードバックノイズの洪水に意外とポップなメロディーラインという点で、シューゲイザー系と重ね合わせる向きもあるそうです。シューゲイザー系というと80年代に起こったムーブメントであるため、そこから20年近く前に裸のラリーズという存在が日本にいたことも驚きですが、ただ、個人的にはその両者は似て非なるもの、という印象を受けます。シューゲイザー系は同じフィードバックノイズの洪水でも、こちらは甘いクリームのようにフィードバックノイズを音楽に対して塗りつくし、キュートなメロディーラインを聴かせてドリーミーにまとめ上げています。一方、裸のラリーズはこれが夢ならば完全に悪夢。フィードバックノイズはリスナーの耳に容赦なく攻撃を加えるような狂暴な武器。ある種、リスナーに対しても挑戦を企てるかのような攻撃性のあるサウンドになっており、そのスタンスにおいてシューゲイザー系とは全く異質であることが感じされます。
彼らの楽曲は、時代を超えた今においても、ある種非常に狂暴に聴こえ、その攻撃性は全く失われていません。むしろいまから50年近く前に、このようなバンドが日本で活動していたことに大きな驚きすら感じます。今回の3枚のアルバムの再販で、あらためて裸のラリーズというバンドのすさまじさを多くのリスナーに知らせることが出来た貴重な作品になりました。神格化された伝説は知っていましたが、確かにこれは「伝説」となるには十分すぎるアルバムだったと思います。そのフィードバックノイズの洪水に、聴きながらただただ立ち尽くしてしまう、そんなとんでもないアルバムでした。
評価:★★★★★
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