コロナ禍を描くコンセプチャルな新作
Title:story of Suite #19
Musician:AA=
ご存じ長らく活動休止中のバンド、THE MAD CAPSULE MARKETSの上田剛士によるソロプロジェクトAA=。約3年ぶりにリリースされた今回のアルバムは、作品全編を通じてひとつの物語が綴られる、コンセプチャルな作品になっています。もともとは昨年3月にリリースされた、配信ライブ「DISTORT YOUR HOME」の映像作品に同封されていたシングル「Suite #19」がきっかけ。この「Suite #19」の世界を拡大させる形で作成されたのが、このアルバムとなります。
歌詞は、世界のすべてが閉ざされる「冬」の時代を描いた物語。閉ざされた世界の中での人々の混乱や疲労を描いたり、この世界に慣れてしまいそうになる恐れを描いたり、この閉塞的な「冬」を生き抜く人を描写した作品となっています。言うまでもないかと思いますが、この冬に閉ざされた世界というのは、完全にCOVID-19によって人々の行き来も自由にできなくなり、ある意味閉ざされてしまったコロナ禍の今の時代を描写したもの。(タイトルの#19はおそらくCOVID-19から取られたんでしょうね・・・)そんな世界を、ある時は皮肉に、ある時は諦念を込めて、またある時はそんな世界の中でも感じる美しさや希望を描いており、このコロナ禍の中を生きる私たちにとって、胸に響いてくる内容と言えるのではないでしょうか。
そんな物語の世界を、緩急をつけたサウンドで描きあげているのが今回の作品。「Chapter 1_冬の到来」では静かな語りからスタート。そのまま幻想的なエレクトロサウンドを聴かせる「Chapter 2_閉ざされた扉、その理」ですが、後半は一転、メタリックなエレクトロビートが繰り広げられます。
基本的に「静」な部分はギターやストリングスでしんみり聴かせるメランコリックなサウンドに静かな語りがメイン。一方、「動」の部分はメタリックでダイナミックなバンドサウンドにボーカルのシャウトというスタイルになっています。一番典型的なのが「Chapter 7_ある日の告白、広がる銀世界 / COLD ARMS」で、この静かな語りの部分とダイナミックなバンドサウンドが交互に展開される構成になっています。
この物語の部分も含め、サウンドも含めた世界観に引きこまれる作品となっているのですが、ただ残念ながらポップな要素は薄め。ラストを締めくくる「Chapter 9_SPRING HAS COME、取っ手のない扉が見る夢、またはその逆の世界」は疾走感あるギターロックとポップなメロディーラインが流れ、彼らしい作品と言えるのですが、その他の曲に関しては、どちらかというとコンセプト先行といった感は否めません。また、サウンドに関しても、ちょっと似たような展開が多かった点も気になります。良くも悪くもAA=らしいといった感じもするのですが、全体的にまずはコンセプトを聴かせる作品になっていました。
評価:★★★★
そして、この「story of Suite #19」をライブで再現した作品もリリース。映像作品もリリースされていたのですが、そこから、「story of Suite #19」の曲をピックアップしたライブアルバムもリリースされていたので、そちらを聴いてみました。
Title:LIVE story of Suite #19 AT LIQUIDROOM 20220226
Musician:AA=
そんな訳で、タイトル通り、今年2月26日にLIQUIDROOMで行われたライブの模様を収録したライブアルバム。当日は、もちろん「story of Suite #19」以外の曲も演ったようですが、こちらでは「story of Suite #19」の9曲のみ収録されています。
ただ、正直なところ、音源としては本編から大きな変更はありません。多少、ハードな部分についてハードコア的な要素が増して、よりダイナミックな感じになったような感じがしますが、そこは生演奏ならでは、とった感じでしょうか。拍手の音は入っていますが、MCもありませんし、演奏の完成度の高さもあって、逆に本編がそのまま演奏されているといった感じになっています。もっとも、コンセプチャルなアルバムですから、本編の内容を大きく変更することは難しいんでしょうね。
そういう意味では純然たるライブアルバムを求めると本編を聴けば十分といった感じはあります。もちろん、非常に完成度の高いライブ音源になっているので、むしろ本編以上にこちらをチェックするという手もあるかもしれません。ただ、「story of Suite #19」の2枚のアルバムを通じて、AA=の訴えたいものが非常に伝わってくるように思います。そして本編ラスト「Chapter 9_SPRING HAS COME、取っ手のない扉が見る夢、またはその逆の世界」はタイトル通り、冬の終わり=コロナ禍の終わりの希望を表現した内容。コロナ禍が終息・・・というよりも共生のモードが強くなってきた昨今ですが、早くこの異常な時代が終わるといいのですが・・・。
評価:★★★★
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