様々なサウンドをコラージュした独自の音世界を展開
Title:Betsu No Jikan
Musician:岡田拓郎
2010年代前半に大きな話題となったバンド「森は生きている」のメンバー、岡田拓郎による約2年ぶりとなるソロアルバム。久々となる今回のアルバムでは、豪華なゲストミュージシャンが数多く参加していることが大きな話題に。「Moons」ではログドラムで、あの細野晴臣がゲストとして参加しているほか、最近話題のマルチ・インストゥルメンタル奏者、サム・ゲンデルやWilcoのネルス・クライン、さらにはジム・オルークなどといった豪華なメンバーがズラリと参加している。
そんな彼の前作「Morning Sun」は、全編「歌モノ」のポップ的な要素が強い作品になっていましたが、今回は一転、2曲目「Moons」以外は全編インストの作品に。また、全編、ジャズ・ドラマーの石若駿が参加したことにもより、ジャズ色の非常に強い作風になっています。
まずいきなり印象的なのが1曲目。ジョン・コルトレーンの「A Love Supreme」のカバーからスタートしているのですが、シンセの音色にサム・ゲンデルのフリーキーなサックスと石若駿のダイナミックさも感じられるドラムス、さらには水の音などもサンプリングした重厚なサウンドがからみあう大胆なカバーに仕上がっています。
唯一の歌モノ「Moons」も、岡田拓郎のファルセット気味なボーカルに、静かながらも幻想的なピアノやドラムス、さらには細野晴臣奏でるログドラムのサウンドが印象的。続く「Sand」は岡田拓郎と石若駿の2人のみで音の世界を繰り広げているのですが、エキゾチックさを感じるギターの音色を中心に、様々な音がコラージュされたドリーミーな音が魅力的な楽曲に。「If Sea Could Sing」では森は生きているの盟友、大久保淳也による泣きのサックスで哀愁感たっぷりに聴かせるジャジーな作品に仕上がっています。
さらに本作のクライマックスとも言えるのが、サム・ゲンデルやネルス・クライン、ジム・オルークなども一同に参加し、総勢12名というバンドメンバーで奏でる「Reflection/Entering #3」でしょう。フュージョン風のギターを主導に、静かながらもどこか不穏な感じを覚える前半から一転、後半ではこの豪華なメンバーによりフリーキーでダイナミックなジャズサウンドを展開。こちらも様々な音が組み合わさった独特の音世界が大きな魅力となっています。
そしてラストの「Deep River」も、哀愁感たっぷりのサックスやピアノを中心に、ドラムスやシンセなど重厚に組み合わさり、雄大ながらも静かに流れる大きな河を彷彿とさせるようなサウンドを聴かせてくれます。ゆったりとした雰囲気の中、全9曲42分の岡田拓郎の世界が幕を下ろします。
これが3枚目のフルアルバムとなる岡田拓郎ですが、アルバム毎に進化を遂げる彼が、今回のアルバムでさらなる進化を遂げたように感じます。全編ジャズ色が強い作品の中に、様々なサウンドがコラージュされており、独自のサウンドの世界を築き上げている作品。ただ、非常に実験色も強いサウンドである一方、ポップなメロディーラインが流れており、しっかりとポピュラーミュージックに立脚した作品であることも間違いありません。まさに岡田拓郎しか作りえないような、独自の音楽性を強く感じる作品に仕上がっていました。
3作目にして文句なしの最高傑作ですし、また間違いなく今年のベストアルバム候補の1枚とも言える傑作アルバムだったと思います。作品をリリースするたびに進化を遂げる彼。その才能にはあらためて驚かされた傑作でした。
評価:★★★★★
岡田拓郎 過去の作品
ノスタルジア(Okada Takuro)
Morning Sun
都市計画(Urban Planning)(Okada Takuro+duenn)
ほかに聴いたアルバム
君に恋したときから/miwa
2月にアルバムをリリースしたばかりのmiwaの最新作は、5曲入りのEP盤。わずか5曲の内容ながらも、楽曲毎にバリエーションがあり、彼女の魅力を5つの方向から感じることが出来るEP盤になっていました。結婚・出産を経て、人気の面でガクッと下落してしまった彼女でしたが、ミュージシャンとしてはむしろ、気持ちの面でゆとりができたのか、充実してきているような感があります。次回作、意外と過去最高の傑作をリリースしてくる、かも。
評価:★★★★
miwa 過去の作品
guitarium
Delight
ONENESS
SPLASH☆WORLD
miwa THE BEST
Sparkle
TIGHT ROPE/9mm Parabellum Bullet
オリジナルアルバムとしては約3年ぶりとなる9mm Parabellum Bulletのニューアルバム。いつも通り、分厚くヘヴィーなバンドサウンドに、これでもかというほど哀愁たっぷりに聴かせる歌謡曲的なメロディーラインというスタイル。ある意味、大いなるマンネリとも言える作風で、素直に聴いていて気持ちよいのは間違いありません。目新しさはないけど、変に新しいことに挑戦するよりも、このスタイルがいいんだろうなぁ。
評価:★★★★
9mm Parabellum Bullet 過去の作品
Termination
VAMPIRE
Revolutionary
Movement
Dawning
Greatest Hits
Waltz on Life Line
BABEL
DEEP BLUE
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2022年」カテゴリの記事
- 未来を見据えた30周年の締めくくり(2022.12.27)
- YUKIの全てがつまた6時間(2022.12.25)
- タイアップ効果でよりポピュラリティーが増した作品(2022.12.26)
- 昭和のレア・グルーヴ企画拡大版 その3(2022.12.11)
- 昭和のレア・グルーヴ企画拡大版 その4(2022.12.12)
コメント