SPレコード収集のバイブル
昨日に引き続き、今回も最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。
今回読んだのは、音楽評論家・レコード史家で、当サイトでも時々紹介しているSPレコード復刻専門レーベル「ぐらもくらぶ」での選曲・監修を行っている毛利眞人氏による「SPレコード入門〜基礎知識から史料活用まで」。SPレコードとは、主に戦前に流行したレコード盤の企画。最大収録時間が4分程度の長さで、戦後には、今も販売されているLPレコードやEPレコードに取って代わられるのですが、戦前には数多くのSPレコードがリリースされ、現在も多くのSPレコードのコレクターが存在します。そんなSPレコードについて詳しく紹介した1冊が本書です。
個人的には、特にSPレコードを収集している訳でもなく、また、SPレコードを聴くような予定もないのですが、ぐらもくらぶからリリースされるSPレコード復刻のオムニバスを好んで聴いており、主に戦前に流通したSPレコードとはどんなものなのか興味があり、この本を手に取ってみました。そんな訳で、「入門」というタイトルからイメージされる通り、SPレコードの「入り口」に触れようとして読んだ1冊でしたが、この本、予想以上に濃い内容になっていました。
序章のSPレコードとは何か、という点からスタートし、第1章ではSPレコードの買い方や保存方法、さらに第2章ではレコードの歴史や、戦前のレコードレーベルの変遷などが書かれています。特に第2章で描かれるレコードの成り立ちや戦前のレコード会社の話などは、SPレコードに直接興味がなくても、興味深い内容になっています。
それが徐々に深く、濃くなっていくのは第3章から。第3章では「SPレコードの基礎知識」としてSPレコードの材質やら回転数やら歌詞カードやら、SPレコードにまつわるあれこれについて語られています。個人的にはじめて知って興味深かったのが、音楽の「アルバム」の語源。SPレコードを複数枚まとめて写真のアルバムのように発売していたのが、「アルバム」と呼ばれる語源だったということを今回はじめて知りました。
そして第4章以降、かなり深く、濃い内容になってきます。レーベルから読み取れる情報やさらにレコードに刻まれる刻印から読み取れる情報、それによって録音や製造の時期、版数まで読み取れるそうですが、まさにかなりマニアックな領域。さらにSPレコードの情報をより細かく入手するためのディスコグラフィーやデータベースの紹介まで行われており、「入門」というタイトルながらも、SPレコードを集めようとする人が必要とする情報をほぼ網羅するような、かなり広く、濃く、奥深い内容になっていました。
正直なところ、特に後半に関しては、コレクターでもなく、収集を行う予定もない自分にとっては、あまり直接興味のない内容ではあったのですが、それでもSPレコードの世界の奥深さに触れることが出来る内容だったと思います。また、この本、私の家の近くの書店でも置いてあったように、広く販売され、簡単に手に取れるような本であるにも関わらす、これだけマニアックとも思える情報まで網羅されている点も驚かされます。おそらく「SPレコード入門」というタイトルながらも、収集を行う人にとっては、バイブル的に中級者・上級者も活用できる内容ではないでしょうか。まさにSPレコードコレクターにとっては決定版ともいえる1冊のように感じます。
これを読んでみても、さすがにコレクションをしようとまでは思いませんが、この本を読んで、ちょっとSPレコードを手にとってみたいな、と思わせる1冊でした。SPレコードを集めたいと思っている人がいれば必読の1冊。そうでなくてもSPレコードに興味があれば、読んでみて損のない内容です。マニアックな部分もありつつも、SPレコードの奥深い世界に触れられた1冊でした。
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