マスドレの魅力がつまった9曲
Title:Awakening:Sleeping
Musician:MASS OF THE FERMENTING DREGS
女性のベースボーカル+男性ギタリスト+男性ドラマーの3ピースバンド、MASS OF THE FERMENTING DREGS、通称「マスドレ」の約4年ぶりとなるニューアルバム。今回のアルバムは、レコーディングエンジニアにSiMやthe GazettE、bonobosを手掛ける原浩一、マスタリングエンジニアに、Beastie Boys「Licensed to Ill」や、Nirvana「Nevermind」、Gorillaz「Demon Days」を手掛けたHowie Weinbergという、超豪華な制作陣を擁した作品になっており、その力の入れようを感じます。また、本作ではDishcarming manの蛯名啓太とBO NINGENのTaigenをゲストボーカルとして起用するなど、新たな試みも感じさせる作品になっています。
そしてそんな力の入れようを反映するかのように、マスドレの魅力がしっかりとつまったアルバムになっています。今回も全9曲33分という比較的短いシンプルな内容になっているのですが、そんなシンプルな内容の中で、しっかりマスドレの様々な側面を感じさせる傑作アルバムに仕上がっていました。
まずメロディアスなギターロックナンバー「Dramatic」からスタート。続く蛯名啓太をゲストに迎えた「いらない」は躍動感あふれるダイナミックなバンドサウンドながらも、メロディーラインはボーカル宮本菜津子の清涼感ある声もあり、ポップにまとまっているというのはマスドレらしさを感じます。さらに続く「MELT」も切り裂くようなヘヴィーなギターサウンドの中に、メランコリックなメロディーラインが大きな魅力に。この冒頭3曲は比較的、メロディーを聴かせる要素が強く、今回は比較的ポップなアルバムになっているのか、そう感じる構成になっていました。
ただ、そこに続く「1960」でグッとアルバムの雰囲気が変わります。3ピースバンドとしての実力をこれでもかというほど発揮したインストナンバーなのですが、グルーヴィーなサウンドが非常にカッコいい1曲。前作「No New World」でも「YAH YAH YAH」という非常にカッコいいインストチューンが収録されていましたが、こちらもライブ映えしそうな、彼らのロックバンドとしての底力を感じさせる作品になっています。
さらに「Helluva」ではTaigenをゲストに迎えたミクスチャーロックのナンバー。ヘヴィーなバンドサウンドが容赦なくリスナーの耳を襲ってくるような作品になっています。中盤の2曲は、圧巻のサウンドを聴かせるロックバンドとしてのマスドレの実力をこれでもかというほど感じらる作品になっています。
後半は再び疾走感あるギターロック「Ashes」に、「鳥とリズム」はメランコリックなメロディーラインが魅力的なラブソングに。再びマスドレのポップな側面を押し出した作品が続き、ラストの「Just」は非常に分厚いギターノイズを聴かせつつ、爽やかな歌も同時に聴かせるドリーミーな作品に。また彼女たちのロックバンドとしてのダイナミズムさと、ポップなメロディーをしっかり両立させた作品で締めくくりました。
マスドレの大きな魅力である躍動感ありダイナミックなバンドサウンドと、爽やかさやメランコリックさを感じるポップなメロディーラインを両立させた作品。どちらの魅力もしっかり聴かせつつ、両者しっかりバランスの取れた構成になっている点も大きな魅力で、わずか9曲という内容ながらも、マスドレの魅力がこれでもかというほど詰まったアルバムになっています。また、レコーディングエンジニアやマスタリングエンジニアにも力を入れた影響か、非常に抜けのよくサウンドに奥行も感じさせます。その点も大きな魅力的でした。
個人的には年間ベストクラスの傑作アルバムだったように感じます。一時期はブレイク寸前とまで目された彼女たちですが、活動休止を経て、いままでに比べて若干注目度は下がってしまった感もあります。ただ、こんなアルバムをリリースするあたり、まだまだ今後、注目度が高まっていきそう。マスドレの実力をあらためて実感した傑作でした。
評価:★★★★★
MASS OF THE FERMENTING DREGS 過去の作品
MASS OF THE FERMENTING DREGS
ワールドイズユアーズ
ゼロコンマ、色とりどりの世界
No New World
ほかに聴いたアルバム
NIGHT TAPE/佐藤千亜妃
きのこ帝国のボーカリスト、佐藤千亜妃のソロ最新作は5曲入りのEP盤。きのこ帝国活動休止後の彼女のソロ作は、悪い意味でポップ寄りにシフトしてしまい、いまひとつ面白さを感じませんでしたが、今回のアルバムは全体的にアルバムタイトルに沿ったような、ちょっと気だるさもあるメロウな作風が特徴的。前作「KOE」では佐藤千亜妃にスポットを当てようとした作品でしたが、今回の作品はそれ以上に「声」に魅力を感じた作品。彼女らしさも生かしているし、この方向性はおもしろいのでは?とりあえず次のオリジナルアルバムがどのようにシフトしているのか注目したいところですが。
評価:★★★★
佐藤千亜妃 過去の作品
SickSickSickSick
PLANET
KOE
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