現在、話題沸騰中
Title:ウタの歌 ONE PIECE FILM RED
Musician:Ado
現在、ビルボードチャートHot100で、このアルバムに収録されている曲を同時に何曲もランクインさせ、話題沸騰中のシンガー、Ado。もちろんこのアルバムも大ヒット中ですが、本作は、アニメ映画「ONE PIECE FILM RED」の中でAdoが歌っている曲をまとめたアルバム。映画のサントラ的な作品ですが、楽曲はいずれもそれだけで完結している歌モノのポップソングであり、事実上、Adoのニューアルバムとして楽しめる作品となっています。映画の中でのキーパーソンとなる「ウタ」が劇中で歌っている曲のようで、この「ウタ」の歌パートをAdoが担当しているそうです。別に声優パートと歌パートをわけなくても、例えば坂本真綾なんかを起用すれば、どちらのパートも1人で行けたんじゃないの?と思ってしまうんですが、そこは大人の事情なのでしょうか。
ちなみに私は、この「ONE PIECE FILM RED」については一切見ていません。それなので基本的に映画の中でどう使用されたのかを一切考慮せず、純粋にこのアルバムを聴いた限りでの感想となりますので、その点、ご留意ください。
まず今回のアルバムで大きな特徴となっているのは、非常に豪華な作家陣が参加している点。主題歌となっている「新時代」を中田ヤスタカが提供しているほか、Mrs.GREEN APPLEの大森元貴、Vaundy、澤野弘之、折坂悠太、秦基博という豪華な作家陣がズラリと名を並べています。ただ、正直、今回の作家陣に関しては少々複雑な気持ちにもなりました。というのも、Adoのいままでの楽曲は、いわゆるボカロPにより楽曲が提供されており、ネット界という彼女の出自を現した作家陣となっていました。それが歌手としてブレイクして、「ONE PIECE」の曲を歌うとなった途端、呼び出された作家陣は「ネット界」とは無縁のポップスミュージシャンばかり・・・。今回参加している中では唯一、FAKE TYPE.がネット系に出自を持つミュージシャンのようですが、ここらへん、Adoには責任はないのでしょうが、このセレクトはいかにも「大人の事情」といった感じで、参加したミュージシャンだけ見れば、もろ手を挙げて絶賛できるような豪華な面子だけに、複雑な心境を抱いてしまいました。
また、これら豪華な作家陣を、今回のアルバムではあまり生かし切れていないようにも思いました。映画の中で統一感を持たせるためでしょうか、それとも「画」に負けないサウンドを志向したためでしょうか、全体的にアレンジが分厚く音を詰め込んだ、いかにもJ-POP的なアレンジで、のっぺりした印象を抱いてしまいます。特に折坂悠太や秦基博といえば、シンプルなアレンジが持ち味のミュージシャンだけに、彼ららしさがあまり出ていないようにも感じました。
さらにAdoのボーカルについても、緩急をつけて聴かせるところでは静かに聴かせる・・・というタイプではなく、どちらかというと力強い歌声で押し一辺倒のボーカリスト。もちろん、力強いボーカルは、決して「下手」ではないのですが、ドスを聴かせつつ、陰の部分を力強く歌い上げるタイプの曲には非常にマッチするものの、バラード系で静かに歌い上げるタイプの曲については、あまり得手ではないように感じました。その結果、全体的にも押し一辺倒なボーカルに終始してしまい、アレンジと悪い意味でマッチしてしまい、のっぺりとした印象を抱いてしまいました。
その結果、全体として一言で言ってしまうと、分厚いアレンジに、とにかく力強く押すボーカルという、良くも悪くもいかにもJ-POPといったアルバムになってしまった感があります。ただ、その点を差し引いても、ポップスアルバムとしては比較的よくまとまっていたようにも感じました。ここらへんはいかにもJ-POP的な部分が良い方にも作用した結果で、まずは楽曲としてどの曲も強いインパクトを持っているということ。主題歌「新時代」も、サビ先でインパクトたっぷり。中田ヤスタカらしいポピュラーセンスは間違いなく感じますし、「Tot Musica」にしても、これでもかというほど分厚いエレクトロサウンドはインパクトたっぷり。折坂悠太作詞作曲の「世界のつづき」にしても、ストリングスにアレンジ過剰感を覚えても、彼らしいメランコリックなメロはやはり魅力的です。
ボーカルにしても押し一辺倒とはいえ、やはりパワフルなボーカルは魅力的で、「ウタカタララバイ」や「Tot Musica」のようなドスを効かせたようなボーカルはAdoの魅力を存分に発揮していますし、どの曲もAdoの色に染めた結果、アルバム全体としての統一感も出しています。そういう意味で、「J-POP的」という表現を使いましたが、J-POPの良い面と悪い面が両方とも効果を発揮したアルバムになっていたように感じます。
ただ、全体としてはAdoの前作「狂言」の方が、よりAdoのボーカリストとしての魅力を引き出し、バランスよくアルバムとして着地させていたようにも感じました。そういう意味では、いままでのAdo同様、ボカロPをメインで起用した方が良かったのでは?とも思ってしまったのですが・・・。もっとも、逆に、ボカロP以外と組んだAdoという意味で彼女の新たな可能性も見えた、という言い方も出来ない訳ではないですが・・・。悪いアルバムではなく、確かに映画抜きにしてもヒットポテンシャルはある作品なのですが、いろいろな「大人の事情」も感じてしまった1枚でした。
評価:★★★★
Ado 過去の作品
狂言
ほかに聴いたアルバム
THE NIGHT SNAILS AND PLASTIC BOOGIE(夜行性のかたつむり達とプラスチックのブギー)/THE YELLOW MONKEY
1992年にリリースされたTHE YELLOW MONKEYのメジャーデビューアルバム。彼らのデビュー30周年を記念して、デラックスエディションがリリースされました。今回、本作をはじめて聴いたのですが、デビュー当初ながらも、グラムロックやハードロックと歌謡曲を融合させようとしたTHE YELLOW MONKEYのバンドとしての方向性をしっかりと感じられます。ただ、残念ながら両者の融合はこの時点では中途半端。変にロック方面にシフトした曲と歌謡曲的な曲がチグハグに収録されており、試みとしては良いものの、まだまだバンドとしての未熟さを感じさせます。とはいえ、バンドとしての原点を知るには最適とも言える作品。ファンならずともチェックして損のない1枚です。
評価:★★★★
THE YELLOW MONKEY 過去の作品
COMPLETE SICKS
イエモン-FAN'S BEST SELECTION-
砂の塔
THE YELLOW MONKEY IS HERE.NEW BEST
9999
Live Loud
30Years 30Hits
(Re)quest -Best of Plastic Tree-/Plastic Tree
デビュー25周年を記念したPlastic Treeのベストアルバム。今回のベストアルバムはファンからのリクエストに基づく選曲になっているそうです。メタルやハードロックの影響が強いヴィジュアル系界隈の中、数少ないオルタナ系やシューゲイザーからの影響を強く受けている彼らですが、歪んだノイジーなギターサウンドにやはり気持ちよさを感じさせる内容に。全体的にメランコリック一本やりなメロディーラインがちょっと単調のようにも感じるのですが、オルタナ系やシューゲイザーが好きなら、間違いなくチェックしておきたいバンド。通常盤2枚組のこのベスト盤は入門盤としても最適な作品です。
評価:★★★★
Plastic Tree 過去の作品
B面画報
ウツセミ
ゲシュタルト崩壊
ドナドナ
ALL TIME THE BEST
アンモナイト
インク
echo
剥離
doorAdore
続 B面画報
十色定理
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