寺山修司×志磨遼平
Title:ドレスコーズの音楽劇《海王星》
Musician:ドレスコーズ
今回、ドレスコーズが非常に興味深いアルバムをリリースしました。本作は、ドレスコーズの志磨遼平が音楽監督を手掛けた舞台"PARCO PRODUCE 2021 音楽劇『海王星』"の劇中歌を収録した作品。ただ、この音楽劇も単なる劇ではなく、もともと、かの寺山修司が、演劇実験室"天井桟敷"結成前の1963年に執筆し、未上演であった音楽劇。それをこのたび上演する運びとなったのですが、その中で音楽を担当したのが志磨遼平。寺山修司が作詞した劇中歌に彼が曲をつける形での「新作」となっています。
もともと志磨遼平の寺山修司からの影響は強く、彼が以前結成していたバンド「毛皮のマリーズ」の名前の由来も、寺山修司の戯曲「毛皮のマリー」から取られたもの。今回の音楽劇にあたっても、志磨遼平を音楽監督として起用したというのは、まさに適材適所のセレクトといっても間違いないでしょう。
今回のアルバムは、全20曲入りながらも、1曲あたり1分~長くても2分程度の長さの曲が次々展開されます。ただ、劇伴曲にありがちなワンアイディアのインスト曲が並んでいるのではなく、しっかり1曲毎に完結している歌モノのポップソングが並んでいます。そういう意味ではドレスコーズのニューアルバムとしても十分聴ける内容になっています。
作風的には昭和初期や戦後すぐの大衆歌謡を彷彿とさせるようなレトロな雰囲気のポップが並びます。志磨遼平がボーカルを取る曲もあれば、おそらく劇中でも大勢で歌われるのでしょう、合唱曲のようなスタイルの曲も少なくありません。「酔いどれ船」のようなダイナミックなハードロック調の曲もあったりするのですが、「恋する女」や「紙の月」のようなムード歌謡曲的な曲、「商売に強くなる法」のような軽快な戦後すぐの軽音楽のような楽曲もあったりバラエティー豊かながらも、レトロなポップソングが並んでおり、まさに志磨遼平の得意分野といった感じの曲が続きます。
一方、なによりもユニークだったのが寺山修司の書く歌詞。諧謔的でありながらも皮肉的、時としては人を食ったような歌詞ながらもどこか人間心理の本質をついたような歌詞が特徴的で、一度聴いたら忘れられないような独特なものがあります。そしてこの歌詞が絶妙に志磨遼平の曲とマッチしているのが見事。というよりも、志磨遼平自体、寺山修司からの影響を強く受けているため、もともとドレスコーズで書いていた歌詞自体、寺山修司の歌詞に似ている印象もあり、これらの曲が志磨遼平の作詞と言われても不思議ではないほど。といっても、歌詞のインパクトといいユニークさといい、やはり寺山修司に軍配はあがりそうですが・・・。
そんなこともあって、寺山修司の音楽劇とはいえ、ドレスコーズの新作として全く違和感のないアルバムになっていますし、ファンなら間違いなく聴くべきアルバムに仕上がっていたと思います。またドレスコーズの新作としても文句ない傑作アルバムに仕上がっていたと思います。むしろ寺山修司の歌詞が与えられ、いつも以上に志磨遼平としての本領を発揮した作品とすら言えるかもしれません。劇自体も見たくなった、そんなアルバムでした。
評価:★★★★★
ドレスコーズ 過去の作品
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バンド・デ・シネ
Hippies.E.P.
1
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バイエル(Ⅱ.)
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