食べ物を素材に日常を描いた歌詞が魅力
Title:プリンは泣かない
Musician:曽我部恵一
配信限定でリリースされた曽我部恵一のニューアルバム。市川実日子が主演し、曽我部恵一も出演、音楽も担当した動画配信サイトParaviオリジナルドラマ「それ忘れてくださいって言いましたけど。」に使用された曲を集めたアルバム。ドラマ主題歌「そしてきみと春を待つ」をはじめ、劇中で使われた楽曲や未発表曲を収録したアルバムで、ラストには「そしてきみと春を待つ」に吉田羊がコーラスで参加したスペシャルバージョンも収録されています。
今回のアルバムはドラマから派生したアルバムになっていますが、いわゆる劇伴曲を収録したようなサントラ的な作品ではなく、基本的に1曲を除いて歌ありの曲が並んでいます。そういう意味では純然たる曽我部恵一のニューアルバムとして楽しめる作品になっています。また、このアルバムの大きな特徴が、いずれもアコースティックで暖かい雰囲気のポップスがメインとなっている点。ここ最近、自由な音楽性、特にHIP HOPへの興味を感じられた曽我部恵一のソロ作ですが、ドラマの曲として求められているから、ということもあるのでしょうが、ある意味、曽我部恵一らしい作品が並んでいました。
また、歌詞の世界も曽我部恵一らしい、身の回りの情景を描いた歌詞が大きな特徴で、特にドラマ主題歌である「そしてきみと春を待つ」は神保町やすずらん通りといった固有名詞も出てくる、恋人との日常風景を描いた歌詞が魅力的。これをアコギの暖かくフォーキーなサウンドをバックにしんみり歌い上げており、まさに曽我部恵一らしい作品になっています。また「たまねぎの味噌汁はおきらいですか」も恋人との日常の食卓を描いた歌詞が、とてもほっこりさせられますし、「4月の午後に恋をしたくなる」もタイトル通り、アコギとピアノでしんみり暖かいサウンドをバックに聴かせるメランコリックなラブソング。聴いていて、とても暖かい気持ちになります。
そして今回のアルバム、「プリンは泣かない」というタイトルに象徴されるように(?)、食べ物を素材とした曲が目立ちます。前述の「たまねぎの味噌汁はおきらいですか」もそうですが、若干、どういうたとえなのか不明な「プリンのようなあかるい午後」に、プリンの食べ方を猫が考えるユーモラスな「やっぱり猫はプリンが好き」、暖かい歌詞ながらも内容が微妙にシュールな「プリンはなんにも知らないけれど」とプリン3部作(?)が並びますし、「人生はひっかけもんだい」も日常の食卓の風景を描いた作品。「きょうの旅」も食べ物からふくらませる発想がユニークですし、「だいすき」も好きな人を食べ物に例えるユニークな歌詞が心に残ります。ドラマの舞台となっているのが、下北沢で実在するカフェらしいので、それだけに食べ物をテーマとした曲が多いのでしょうが、食べ物という素材が曽我部恵一の作風にもピッタリマッチしています。
この食べ物をテーマとした楽曲もまさにそうなのですが、暖かい日常の風景を描いた歌詞が魅力的で、アコースティックなサウンドをふくめて、とてもほっこりさせられる曲が並びます。ある意味、曽我部恵一らしさを強く感じる楽曲ばかりなのですが、ここ最近は実験的な作風が続いただけに、こういった作品が余計、心にしみてうれしくなってくるようにも感じます。
ドラマ劇中歌を集めたアルバム、ということで、ひょっとしたら敬遠している方もいるかもしれませんが、曽我部恵一のニューアルバムとして間違いなく扱える、さらに曽我部恵一らしい傑作アルバムに仕上がっていました。ここ最近、脂ののりまくっている曽我部恵一ですが、このアルバムもそんな流れの中の1曲と言ってしまっていいかもしれません。とても暖かい気持ちになれる素敵なアルバムでした。
評価:★★★★★
曽我部恵一 過去の作品
キラキラ!(曽我部恵一BAND)
ハピネス!(曽我部恵一BAND)
ソカバンのみんなのロック!(曽我部恵一BAND)
Sings
けいちゃん
LIVE LOVE
トーキョー・コーリング(曽我部恵一BAND)
曽我部恵一 BEST 2001-2013
My Friend Keiichi
ヘブン
There is no place like Tokyo today!
The Best Of Keiichi Sokabe -The Rose Years 2004-2019-
純情LIVE(曽我部恵一と真黒毛ぼっくす)
Loveless Love
ほかに聴いたアルバム
Unity/Mrs.GREEN APPLE
2020年にベストアルバム「5」をリリースすると同時に「フェーズ1完結」を宣言し、活動休止に入ったMrs.GREEN APPLE。その後、メンバー2人の脱退があったものの、今年に入って活動を再開。「フェーズ2開幕」を宣言し、「5」から2年ぶりにリリースしたミニアルバムが本作となります。ただ、「フェーズ2」といっても音楽的な方向性は以前と変わらず。分厚いサウンドの爽やかで陽気なポップソングというスタイルで、基本的にはいつものMrs.GREEN APPLEそのままといった感じ。もうちょっと新しい側面も見せてほしい感じもするのですが、それはこれから、ということなのでしょうか。
評価:★★★★
Mrs.GREEN APPLE 過去の作品
TWELVE
Mrs.GREEN APPLE
はじめてのMrs.GREEN APPLE
ENSEMBLE
Attitude
5
Ninja of Four/the band apart
ちょっと意外だったのですが、ここ最近、"Naked"名義のアルバムが続いていたため、the band apart名義でのオリジナルアルバムとしては「Memories to Go」以来、約5年ぶりとなるニューアルバム。ただ基本的にはいつもと同様、卒なくまとめられた「大人のロック」というイメージが強く、メランコリックなメロディーラインに、時として爽快に聴かせつつも、一方ではヘヴィネスさもしっかり聴かせる、緩急つけたバンドサウンドも大きな魅力。目新しさこそないものの、しっかりと聴かせる作品となっており、いい意味での安定感を覚える作品になっていました。
評価:★★★★★
the band apart 過去の作品
Adze of penguin
shit
the Surface ep
SCENT OF AUGUST
街の14景
謎のオープンワールド
1(the band apart(naked))
Memories to Go
前へ(□□□ feat.the band apart)
2(the band apart(naked))
20years
POOL e.p.
3(the band apart(naked))
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2022年」カテゴリの記事
- 未来を見据えた30周年の締めくくり(2022.12.27)
- YUKIの全てがつまた6時間(2022.12.25)
- タイアップ効果でよりポピュラリティーが増した作品(2022.12.26)
- 昭和のレア・グルーヴ企画拡大版 その3(2022.12.11)
- 昭和のレア・グルーヴ企画拡大版 その4(2022.12.12)
コメント