吉田拓郎からミュージシャンの「終活」について考える
Title:ah-面白かった
Musician:吉田拓郎
吉田拓郎が2022年いっぱいで全ての音楽活動から引退を発表。かなり大きなニュースになったので、おそらくみなさんご存じでしょう。約10年ぶりとなるオリジナルアルバムである本作は、これが最後のアルバムであることが公表され、大きな話題となりました。チャートでもビルボード、オリコン共に最高位2位を獲得するなど大ヒットを記録。かくいう私も、彼のオリジナルアルバムは、本作をリアルタイムではじめて聴きました。
そんな彼のラストアルバムは、やはり最後であることを強く意識したアルバムになっており、例えば「雪さよなら」は1970年のアルバム「青春の詩」に収録されている「雪」の完結編としてセルフカバーをしていたりします。最後を締めくくりアルバムタイトルにもなっている「ah-面白かった」などは、まさにラストであることを意識した、彼の音楽活動に対する集大成的な歌詞に仕上げられています。
他の楽曲についても、やはりラストということを意識したのでしょうか、基本的には吉田拓郎らしいシンプルでフォーキーな楽曲が並んでおり、あえてでしょうが、このアルバムでの目新しさは感じられません。逆に、長年のファンにとってみれば、安心して聴ける、吉田拓郎らしい壺をついた作品になっているのではないでしょうか。
ただ、やはりこれが彼にとってラストのアルバムというと、熱心なファンではなくても、どうしても寂しさを感じてしまいます。例えば同じ「引退」が話題になる例としてスポーツ選手があげられますが、スポーツ選手の引退は30代かせいぜい40代。まだまだ人生、折り返し地点前であり、これから第2の人生が待ち構えている年齢です。しかし、現在76歳という彼にとって「引退」というとどうしても人生のゴールを目指す「終活」を想像してしまい、やはり寂しさを感じてしまいます。
もっとも最近は、彼に限らず音楽活動の引退を表明するミュージシャンの話題が相次いでいます。加山雄三も年内でのコンサート活動からの引退を表明していますし、小椋佳も今年いっぱいでの引退を表明。また公式には表明していないものの井上陽水も個人事務所の社長を退任し、引退の準備を進めているという話もありますし、また「引退」ではないものの、中島みゆきも全国ツアーからの引退を表明しています。
一方で海外に目を向けると、あまり「終活」を行っているミュージシャンというのは思い当たりません。ポールマッカートニーも、ミックジャガーもキースリチャーズもまだまだ現役で活動を続けていますし、B.B.KINGもチャック・ベリーも亡くなる直前まで、現役で活動を続けていました。アメリカの大御所、トニー・ベネットは先日、引退を表明しましたが、御年95歳。ここまで現役を続けてきたこと自体が逆に驚きです。
そう考えると日本でこれだけ「終活」に入るミュージシャンが多いという点に、日本独特の傾向を感じてしまいます。やはりウダウダと活動を続けるよりも、「終活」としてきれいな形で、周りに迷惑をかけず、人生の幕を下ろしたい、そう考える方が多いのでしょうか。この「周りに迷惑をかけず」という点に、良くも悪くも日本人的なものを感じます。また、中途半端にファンをまたせるよりも、進退についてしっかりと表明しておきたい、という意思もあるのかもしれません。
ただ、ある意味、吉田拓郎にしても他のミュージシャンにしても、既に自分のペースで勝手に音楽活動を進められる立場なのだから、「これで終わり」というよりも、自分のペースで活動を続けて、また音楽をやりたくなったら活動する、というスタンスでもいいような感じもするのですが・・・。まあ、こればっかりは個人の勝手なんで外野がとやかく言うべきことではないのかもしれないのですが、ただ、相次ぐミュージシャンの「終活」に、日本人らしさを感じてしまいました。
もっとも、宮崎駿みたいな例もあるので、何年かたったら、やはり音楽がやりたくなって新作を発表する、というケースは重々に考えられます。これがラストとはいえ、そういう期待も抱きつつ、「終活」とはいえ、まだまだ第2の人生は続くわけで、今後も末永くお元気で!
評価:★★★★
ほかに聴いたアルバム
Just Kids.ep/ART-SCHOOL
2015年の活動休止後、何度か復活ライブを行い、2018年には久々となるニューアルバムをリリースしたものの、木下理樹の体調不良により2019年以来、活動休止状態となっていたART-SCHOOL。しかし、今年の8月、ライブで活動再開。このたび待望の新作がリリースとなりました。全4曲入りのミニアルバムながら、非常に荒々しいサウンドに、メランコリックなメロディーライン、そして木下の気だるいボーカルが非常に印象に残る作品で、実にART-SCHOOLらしい作品に仕上がっています。まさに活動再開後の挨拶がわりともいえる作品なのですが、ART-SCHOOLらしいカッコよさを凝縮した作品に。次のオリジナルアルバムも楽しみになってくる作品でした。
評価:★★★★★
ART-SCHOOL 過去の作品
Ghosts&Angels
ILLMATIC BABY
14 SOULS
Anesthesia
BABY ACID BABY
The Alchemist
YOU
Hello darkness,my dear friend
Cemetery Gates-B SIDES BEST-
In Colors
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