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2022年9月23日 (金)

よりキュートでポップな方向にシフト

Title:Beatopia
Musician:beabadoobee

前作「Fake It Flowers」が大きな話題となったイギリスのシンガーソングライター、beabadoobee。今年、日本でもサマーソニックに出演し大きな話題になるなど、徐々に知名度を上げています。本作は、大きな話題となったデビュー作に続く2作目。前作ではイギリスのナショナルチャートで8位にランクインし、一気にブレイクを果たしたのですが、本作は同チャートで最高位4位とさらに躍進。現在でも人気上昇中であることをうかがわせます。

そんな前作は、スマパンやソニックユース、マイブラからの影響を公言している彼女が、その影響をストレートにあらわしたギターロックが大きな特徴であり魅力でした。今回のアルバムも、オープニング的な1曲目から続く2曲目「10:36」はそんなストレートなオルタナ系ギターロック。その後もヘヴィーでノイジーなギターサウンドを前面に押し出した「Talk」に、シューゲイザーからの影響を強く感じる「Don't get the deal」など、前作同様、90年代のオルタナ系ギターロックや80年代シューゲイザーからの影響を強く感じる曲が目立ちます。

ただ一方、今回のアルバムに関しては、アコースティックなサウンドを前面に押し出しつつ、彼女のキュートなボーカルやメロディーラインをより前面に押し出した作品が目立ちました。前述の「10:36」に続く「Sunny day」はアコースティックなサウンド+リズムマシーンというシンプルな構成で、メロウな雰囲気の彼女のボーカルを前に押し出したような作品。「Ripples」もアコギとストリングスというシンプルなサウンドで彼女の歌声をしんみりと聴かせるような楽曲になっています。

アルバムの終盤も「tinkerbell is overrated」はハイトーンの清涼感あるボーカルを前に押し出したポップな作品になっていますし、ラストの「You're here that's the thing」もアコギで聴かせるフォーキーな作風となっています。このポップなメロディーにキュートなボーカルという側面は、前作でも彼女の大きな魅力ではあったのですが、今回のアルバムは、こちらの側面をより前面に押し出して、ポップという印象が強くなったアルバムとなっていました。

この点、彼女の方向性としては気になる部分。ちょっとうがった見方をしてしまうと、彼女のキュートでポップな側面を生かして、より「売れ線」の方向にもっていこうとする戦略性を感じてしまいます。ただオルタナ系のロック路線が彼女の持ち味だっただけに、この路線を突き進めても、よくありがちな売れ線ポップシンガーにしかならないのでは?個人的な好みもあるかもしれませんが、出来栄えとしては前作の方が間違いなく上ですし、また彼女らしさも前作の方が生かされている感じがします。

それだけに最初は本作も違和感があったのですが、ただ何度か聴くうちに、やはり彼女の書くポップな楽曲は素直に楽しく、最後まで耳の離せないアルバムになっていました。そういう意味で、キュートでポップという彼女の持つ魅力を生かしていた作品であることは間違いなく、十分「傑作」と言える内容だったと思います。ただ、次回作はやはりノイジーなギターロック路線をもっと押し出したアルバムにしてほしいなぁ、とは感じてしまうのですが・・・。ちょっと次回作以降の方向性が気になってしまった新作でした。

評価:★★★★★

beabadoobee過去の作品
Fake It Flowers


ほかに聴いたアルバム

Sons Of/Sam Prekop and John McEntire

The Sea and Cakeのフロントマン、Sam Prekopと、TortoiseのJohn McEntireによるデゥオアルバム。ある意味、ポストロック界の大御所同志のコラボということで注目を集める1枚ですが、作品としてはThe Sea and CakeやTortoiseのイメージとはちょっと異なるエレクトロサウンド。淡々としたスペーシーなエレクトロサウンドが続くアルバムになっているのですが、ミニマルに続いていくサウンドがとても心地よく、決して派手さはないものの最後まで耳の離せないアルバムになっていました。

評価:★★★★★

Love Quantum/Theo Croker

新進気鋭のジャズ・トランぺッターとして活躍するTheo Crokerのニューアルバム。前作「BLK2LIFE || A FUTURE PAST」はブラックミュージック全般からの要素を取り入れたアルバムになっていましたが、今回のアルバムは前作に比べると「ジャズ」の要素の強いアルバムに。ただ今回もラテンやHIP HOP、スウィングなどの要素も取り入れた自由度の高い作風が魅力的。ジャズというカテゴリーを問わず、広いリスナー層が惹きつけられるアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★★

Theo Croker 過去の作品
BLK2LIFE || A FUTURE PAST

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