レジェンドにして、まだまだ現役感
現在、66歳という大御所的な位置にいながら、現役感たっぷりで活動を続ける佐野元春。今年に入って、一気に2作のアルバムをリリースしました。
Title:ENTERTAINMENT!
Musician:佐野元春&THE COYOTE BAND
まず4月に配信限定という形でリリースされたのが本作。2019年から2021年にかけて配信シングルとしてリリースされた5曲を一気に収録。その他、新曲を含めての全10曲という構成となっています。既発表曲がメインとなっているため、配信限定というリリース形態にしたのでしょうか。
まずこのアルバム、バラバラにリリースしたシングル曲をまとめたからでしょうか、非常にバラエティーに富んだ作品になっています。ホーンセッションが入って、スカのリズムを取り入れた「愛が分母」や同じく裏打ちのリズムで軽快に聴かせる「この道」、ブルージーに聴かせる「悲しい話」や疾走感あるギターロックの「少年は知っている」などなど。バラエティーに富んだ展開が楽しめます。
また、「ENTERTAINMENT!」というタイトルにピッタリと言えるかもしれませんが、ホーンセッションやシンセ、ピアノなども取り入れた、比較的楽しい雰囲気のアレンジが目立つのも大きな特徴。全体的に賑やかなアレンジの曲も目立ち、タイトル通り「ENTERTAINMENT!」な作風に仕上がっています。
さらに新曲では、コロナ禍を描写したような歌詞もあり、印象的なのが「東京に雨が降っている」でしょう。コロナ禍を「雨」に例えた曲なのですが、ただ決して暗い雰囲気の曲ではなく、むしろ「雨」の向こうの希望を歌っているような曲に仕上がっています。
「今日までの自分
明日からの自分
すべては夢のように
この雨の向こう
ぬれた街を歩いていこう」
(「東京に雨が降っている」より 作詞 佐野元春)
と非常に前向き。コロナで厳しい中でも力強く進んでいこうというメッセージ性を感じます。
シングル曲も多くバラエティーに富んでいるためいい意味で非常に聴きやすく、最後まで楽しめる作品に仕上がっていました。
評価:★★★★★
Title:今、何処
Musician:佐野元春&THE COYOTE BAND
そして続く7月にリリースされたのが本作。こちらはCD形態でもリリース。さらに初回盤は「ENTERTAINMENT!」のCD盤も同封されています。
2022年早くも2枚目となるアルバムは本人たち曰く「やばいアルバム」だそうです。60歳を半ばもすぎたおじさん(失礼!)が「やばい」なんて表現をつかうあたり、ある種の若さを感じるのですが(笑)、確かに、その表現がピッタリと来るような、非常にエネルギッシュで若さあふれる作品となっていました。
様々なサウンドを取り入れてバラエティーに富んでいた「ENTERTAINMENT!」と比べると、こちらはバンドサウンドを前面に押し出した佐野元春のロックな側面をより押し出した作品に。テンポよいギターロックの「さよならメランコリア」や、ギターリフ主導の曲づくりとなっている「植民地の夜」、ギターサウンドで力強い「大人のくせに」などなど。シンセやピアノ、ストリングスなどを取り入れた曲も目立ちますが、全体としては力強いバンドサウンドを前に押し出したアルバムとなっています。
また、力強い前向きのメッセージを入れた曲が多いのも特徴的。「打ち上げろ魂 君の魂」と歌う「さよならメランコリア」や、「君の魂 無駄にしないでくれ」と歌う「斜陽」。さらに事実上のラストソングとなる「明日の誓い」では
「明日がなければ 意味がない
悩みがなければ 味気ない
今日と一緒に 歩いていこう
よりよい明日へと まぎれていく」
(「明日の誓い」より 作詞 佐野元春)
と、非常に力強い明日へのメッセージを歌っています。バンドサウンドと相まって、アルバム全体として力強さを感じさせるアルバムとなっていました。
この2作のアルバム、どちらも佐野元春がミュージシャンとして、ここに来て脂がのっていることを強く感じさせる勢いのある傑作に仕上がっていました。現役感も十分ですし、むしろ若々しさすら感じさせる作品で、この年齢に来て、こんな作品を作るとは、ある種の驚きすら感じさせます。本人としてもかなり自信作のようですが、それも納得の内容。60歳半ばを超えて、まだまだ脂ののった活動を続ける佐野元春。むしろこれからが楽しみにすらなってくるアルバムでした。
評価:★★★★★
佐野元春 過去の作品
ベリー・ベスト・オブ・佐野元春 ソウルボーイへの伝言
月と専制君主
ZOOEY
BLOOD MOON
MANIJU
自由の岸辺(佐野元春&THE HOBO KING BAND)
或る秋の日
MOTOHARU SANO GREATEST SONGS COLLECTION 1980-2004
THE ESSENTIAL TRACKS MOTOHARU SANO & THE COYOTE BAND 2005 - 2020(佐野元春&THE COYOTE BAND)
ほかに聴いたアルバム
But wait. Cats?/[Alexandros]
途中、ベスト盤やコンセプトアルバムのリリースがあったため、オリジナルアルバムとしては約3年8ヶ月ぶりとなるニューアルバム。ここ最近のオリジナルアルバムはバンドとしての脂がのりきった傑作となっていたため、今回のアルバムもかなり期待していました。実際、ダイナミックで疾走感あるギターロック、特に英語詞の曲に関しては非常にかっこよさを感じ、前作から続くバンドとしての勢いを感じさせる一方、ちょっとベタさを感じるメロディーラインで、今一つな感じのする曲も目立ち、カッコいい曲とそうでない曲の差があったような。彼らのカッコよさもしっかりと感じたのですが、ここ最近のアルバムの中ではちょっと残念さも感じたアルバムでした。
評価:★★★★
[Alexandros] 過去の作品
Schwarzenegger([Champagne])
ALXD
EXIST!
Sleepless in Brooklyn
Bedroom Joule
Where's My History?
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