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2022年9月18日 (日)

町あかりの音楽性が確立

Title:総天然色痛快音楽
Musician:町あかり

最近では音楽活動のみならず、映画への出演や評論本の著作などいった活躍も見られるシンガーソングライター、町あかり。音楽的にもカバーアルバムのリリースや、子ども向け番組から派生したアルバム「あかりおねえさんのニコニコ♥へんなうた」など積極的な活動が続いていたのですが、かなり意外な事実として、町あかり単独名義の純然たるオリジナルアルバムとしては2017年の「EXPO町あかり」以来、実に5年ぶりの作品となります。

町あかりといえば、昭和歌謡曲の影響を強く受けたポップミュージックが特徴的でした。今回のアルバムもベースとして昭和歌謡曲からの影響を強く感じさせる点は以前と同様。ただ、それ以上に様々なジャンルの音楽を幅広く取り入れた作風が大きな魅力となっていました。例えば「おもんばかるガンマン」はカントリー、「あたしオートクチュール」はジャジーな作風、軽快なラテン風の「COME BACK TO ME セロトニン」、演歌風の「動物可愛いエレジー」に、タイトル通り浪曲風の「浪曲もぐ吉ものがたり」に小唄風の「廉価版小唄」、軽快なシンセポップの「あなたシンパ~オタクより愛をこめて~」に、「ラーメンは軽犯罪」ではラップすら取り入れています。

これだけバラエティーに富んだ音楽性なゆえに、以前の彼女のような、いかにもな昭和歌謡曲推しな雰囲気はちょっと薄れた印象もあります。もっとも、楽曲の基本的なベースとしてはやはり歌謡曲の要素が強いですし、なによりこの雑食性な音楽こそ、歌謡曲の大きな特徴。そういう意味ではこのアルバムも以前のアルバムと同様、歌謡曲の影響を多分に受けたアルバムであることには間違いありません。

ただ、いかにもな「歌謡曲推し」な要素が後ろに下がったのは、なによりもこの歌謡曲をベースとした雑多な音楽性が、町あかりの音楽としての個性を確立したから、のようにも感じました。要するに、デビュー当初のような、いかにも年齢とギャップがありそうな歌謡曲テイストの音楽を演奏する女の子・・・というイメージを前面に押し出さなくても、もうこういう音楽が町あかりの音楽として、しっかりと確立されたから、わざわざ「歌謡曲からの影響」を強く押し出さなくてもよくなった・・・そんな印象を今回のアルバムでは強く受けました。

また、町あかりの音楽性という意味では、その歌詞の世界観も間違いなく彼女の「音楽性」の一部でしょう。ちょっとレトロな音楽性と相反して、今風なネタを用いてきており、例えば合唱曲風にまとめた「誰もいないBBS」などは、タイトル通り、今は廃れてしまったネット文化である掲示板に対する追悼歌。「1テラバイトの情熱」は別れた恋人との思い出のデータが1テラバイトを超えたという、いかにも今どきなネタに。(「今どき」といっても微妙に古い感じもするのですが・・・)さらにもっと今時という意味では「動画投稿御殿」なんていう曲すらあります。

さらに日常生活をネタを独特の観点から描写した歌詞も大きな魅力で、「ラーメンは軽犯罪」はまさに夜中に食べるラーメンの背徳感を描いたネタになっていますし、何でも大きく括りたがる人を皮肉った「大きな主語」やネガティブな表現をポジティブに言い換えた「下手くそなのは味がある」など、ユーモラスな視点からのネタが満載。この歌詞の世界観にも彼女らしさを感じます。

そんな音楽的にもバリエーションがあり、歌詞的にもユニークな楽曲が全24曲。なかなかボリュームのある内容ですが、「痛快音楽」というタイトル通り、痛快で、かつおもちゃ箱のような楽しくユニークなアルバムに仕上がっており、1時間という長さを一気に楽しめるアルバムになっていました。変に難しいこと抜きにポップな楽曲を楽しめる、という点も町あかりらしさと言えるかもしれません。何よりも、前述の通り、町あたりの音楽性がしっかり固まった1枚とも言える作品。これからも精力的な活動が続きそうな彼女なだけに、これからの活動も楽しみになってくるアルバムでした。

評価:★★★★★

町あかり 過去の作品
ア、町あかり
あかりの恩返し
EXPO町あかり
収穫祭!(町あかり&池尻ジャンクション)
あかりおねえさんの ニコニコへんなうた
それゆけ!電撃流行歌
別冊!電撃流行歌

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