不思議な「お花屋さん」
Title:Florist
Musician:Florist
ニューヨークはブルックリンを拠点に活動するインディーフォークバンドFlorist。前作「Emily Alone」以来、約3年ぶりとなる新作。前作で高い評価を集めていただけに、本作も注目を集めていました。さらにバンドとして4作目となる本作は、セルフタイトルとなるアルバムなだけに、否応なく、その期待も高まります。
個人的には彼女たちの作品を聴くのは前作「Emily Alone」以来、2作ぶり。前作「Emily Alone」は暖かいアコースティックなサウンドにフォーキーなメロ、さらにボーカルEmily Spragueの透き通るようなボーカルの優しい歌声が大きな魅力でした。今回のアルバムもそんなイメージで聴き始める・・・と、かなり違和感を覚えるアルバムになっています。1曲目の「June 9th Nighttime」はオープニング的なイントロチューン。おそらく、タイトル通り、6月9日の夜の時間を録音したのでしょう、虫の声も取り入れている作品になっているのですが、そこに流れるのは歪んだギターの音色。微妙にサイケデリックテイストな作品に。前作も同じように自然の音を取り入れた作品やサイケ風な作品もあったのですが、いきなりオープニングからこのような作品からスタートし、ちょっと驚きの下でのスタートとなりました。
そして続く「Red Bird Pt.2(Morning)」は、アコギのアルペジオからスタートし、しんみりフォーキーなサウンドと優しい歌声を聴かせるポップなナンバー。まさに前作でイメージしたFloristのイメージそのままの楽曲となっています。ただ、この曲に関しても、アコースティックなサウンドのバックに、微妙に歪んだギターの音が加わっており、サイケなテイストが加わった作品になっています。
アルバムの構成としては全19曲入りというそれなりのボリューム。ただ、アルバムの長さとしては57分という比較的コンパクトな内容となっており、フォーキーでポップな歌モノの間に1分~2分弱の短いインストチューンが挟まる構成になっています。このフォーキーな楽曲の間に挟まるインストチューンが短いながらもアルバムの中で大きなインパクトとなっており、アンビエントテイストで静かに聴かせる作品ながらも幻想的で、トリップ感のある作風が、リスナーをどこか異世界に誘うような、そんな雰囲気を醸し出しています。
そんなインスト曲を間に挟んだ歌モノナンバーも、基本的にアコースティックギターを主軸にフォーキーに聴かせる曲なのですが、微妙にサイケなサウンドが加わっている点がユニーク。「Two Ways」のようなアコギのみでしずかに聴かせる楽曲があるかと思えば、インストを挟んで次の歌モノになる「Organ's Drone」では、基本的にアコースティックなフォークチューンですが、微妙にギターノイズが加わっており、幻想的な色合いが加わった作品になっています。
その後も歌モノは「43」のようなバンドサウンドを前に押し出したような曲や「Sci-fi Silence」のようなドリームポップ風の曲を加えながらも、歌モノのラストとなる「Feather」ではアコギメインで郷愁感たっぷりに聴かせる曲。基本路線としては暖かい雰囲気のフォーキーなポップという方向性がありつつ、サイケやドリームポップの要素を加えた音楽性がユニークに感じます。
そしてその間に挟まるインストチューンも、不気味な雰囲気を醸し出しつつ、本編ラストとなる「Jonnie on the Porch」はドリーミーな雰囲気のアンビエントチューンで、サウンドは歪みつつもどこか爽やかさも感じさせる点が大きな魅力に。最後までどこか不思議な世界にトリップしたような雰囲気を味わえる構成になっていました。
前作以上に音楽的な幅が広がりつつ、前作で感じたFloristの魅力もしっかり残している傑作アルバムで、個人的には前作以上に気に入りましたし、年間ベストクラスの傑作アルバムに仕上がっていたと思います。なによりポップで聴きやすさを感じさせつつも、サイケな音楽性に深入りしそうなそんな作品に。「お花屋さん」というバンド名やアルバムタイトルとは異なる、不思議な世界観が広がりますが、それが大きな魅力となっている作品でした。
評価:★★★★★
Florist 過去の作品
Emily Alone
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