80年代に一世を風靡した男性SSW
Title:Senri Oe Singles~First Decade~
Musician:大江千里
1980年代後半から90年代にかけて一世を風靡した男性シンガーソングライター、大江千里。特に一時期は、当時の流行であったトレンディードラマにも出演するなど、ミュージシャンという枠組みを超えたアイドル的な人気も博し、文字通り、時代を代表するミュージシャンの一人として活躍していました。その後、90年代後半以降は人気は落ち着いたものの、2000年代に突如、ジャズピアニストとなるためにニューヨークに移住。現在もニューヨークでジャズピアニストとしての活動を続けています。コロナ禍がはじまった頃に、ニューヨークからのレポートとして、彼が登場する機会が何度かあり、アラフォー世代以降にとっては、その懐かしい名前の登場に驚いた方も少なくなかったのではないでしょうか。
そんな彼がデビューしたのが1983年。来年にかけてデビュー40周年目の記念すべきアニヴァーサリーイヤーにあたるそうで、そのアニヴァーサリー・プロジェクトの第2弾となるのは、彼自身初となるシングルコレクション(ちなみに第1弾は「Rain」の7インチ・シングルとアルバム「Letter to N.Y.」のアナログLPだったそうです)。ただ、初回限定版の「Special Limited Edition」と通常版の「First Decade」にわかれており、今回紹介するのは通常版の方。EPICソニー時代の最初の10年のシングル曲が収録されており、1983年のデビューシングル「ワラビーぬぎすてて」から、1992年の「ありがとう」までが収録されています。それ以降の曲が初回限定版にしか収録されていないのは残念ですが(特に、シングル曲の何曲かは、これがアルバム初収録となるようですし)、ただ、大江千里の代表曲は概ね、この最初の10年に発表された曲となるので、彼のシングルコレクションとしてはまずまず申し分ない選曲となっています。
さて、そんな大江千里の楽曲の大きな魅力は、とても爽やかなポップスでありつつも、どこか切なさを感じるメロディーライン。もともと彼が音楽をはじめたきっかけはギルバート・オサリバンの「アローン・アゲイン」だったそうですが、この爽やかだけど切ないメロディーラインという点は、ギルバート・オサリバンの楽曲の方向性ともマッチしています。この彼の楽曲の特徴はデビュー直後の作品からも感じられ、特に初期の代表曲とも言える「BOYS&GIRLS」などはまさにそんな爽やかさと切なさを両立させた絶妙なメロディーラインが大きな魅力に感じます。
ただ、特に大江千里らしさが確立されたのはこのアルバムで言えば「YOU」あたりからでしょうか。ここらへんから、いかにも大江千里らしい曲が続くのと同時に、彼にとっても脂ののった時期であることが強く感じられます。「GLORY DAYS」や、シングル曲ではないものの今回選曲された「Rain」、「dear」や「あいたい」など、勢いのありインパクトがあるポップソングが並びます。そう考えると、ここで彼最大のヒットソング「格好悪いふられ方」が登場してくるのも必然の流れだったのでしょう。個人的にもリアルタイムに聴いていた曲だけに懐かしさを感じると共に、あらためていい曲だな、ということを感じました。
個人的に例えばKANとか槇原敬之とか、ピアノ弾きのシンガーソングライターって壺。そういう意味では大江千里もかなり壺にはまりそうなものなのですが、ただ、個人的には今回のシングル集を聴いても、確かに若干壺からははずれるのかな、とも思ってしまいました。メロディーもサウンドも壺にはまるのですが、個人的にちょっとはずれちゃっているのが歌詞。彼の書く歌詞って、「もてない男」の心境というよりも、むしろもうちょっと女の子慣れしているような男子の心境なんですね。実際、80年代後半にアイドル的な人気を得ていただけに、そこらへんがKANとかマッキーとかとはちょっと一線を画する部分なのかもしれませんし、そこがいまひとつ大江千里に個人的にはまりきらなかった大きな要因のように感じました。
そんなことを感じつつも、ただポップソングとしては間違いなく魅力的な本作。代表曲を網羅した2枚組という長さもちょうどよいですし、リアルタイムで聴いていたアラフォー、アラフィフ世代はもちろん、男性シンガーソングライター好きにはチェックしてみて損はないアルバムだと思います。現在はジャズピアニストとしてニューヨークで活動を続ける彼。ジャズピアニストとしてもがんばってほしいけど、たまにはポップソングも歌ってほしいなぁ、とも思ってしまったりして・・・。
評価:★★★★★
大江千里 過去の作品
GOLDEN☆BEST
Boys&Girls
Letter to N.Y.
ほかに聴いたアルバム
7+/冨田ラボ
活動20周年を迎えた冨田ラボのニューアルバムは、総勢20名という豪華ミュージシャンが参加したアルバム。堀込高樹・泰行兄弟に細野晴臣、坂本真綾、長岡亮介、bird、藤巻亮太、藤原さくら・・・とかなり豪華なメンバーがズラリと名前を並べています。楽曲は基本的にはメロウに聴かせるシティポップなのですが、参加しているミュージシャンによってジャズ色が強いものや、トライバルなリズムでエキゾチックな雰囲気を奏でるもの、ラップを取り入れたものやドリーミーに聴かせるものなどバラエティー豊富。ラストの「MIXTAPE」に至っては、10分に及ぶ作品の中、様々なタイプの曲が展開される実験的な作風に。最後まで聴かせどころたっぷりのアルバムでした。
評価:★★★★★
冨田ラボ 過去の作品
Shipahead
Joyus
SUPERFINE
M-P-C “Mentality, Physicality, Computer"
愛彌々/MONGOL800×WANIMA
パンクバンドMONGOL800とWANIMAによるスプリットEP。もともとラジオ番組の中での対談を機に作成されることになったそうで、タイトルは「アイヤイヤ」と読むそうです。両者のコラボとなるタイトルチューンに、お互いがお互いに楽曲提供を行った2曲+お互いの曲をお互いがカバーした曲2曲の計5曲が収録。どちらも力強い(ちょっと暑苦しい)パンクバンドという共通項のあるだけに、コラボもバッチリ。あえていえば、比較的「沖縄」に寄せてきた感があり、より南国っぽいというのか、より暑苦しさを感じるような印象も。
評価:★★★★
WANIMA 過去の作品
Are You Coming?
Everybody!!
COMINATCHA!!
Cheddar Flavor
Fresh Cheese Delivery
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