谷山浩子の2つの側面
Title:谷山浩子ベスト ネコとコバン
Musician:谷山浩子
独自のファンタジックな世界観で根強い人気を誇るシンガーソングライター、谷山浩子。1972年のデビューから、なんと50年という月日が経過している訳ですが、このたび50周年を記念するベスト盤がリリースされました。とはいえ、直近でリリースされた谷山浩子のアルバムといえば、5年前にリリースされた45周年のシングルコレクション。またベスト盤か・・・と思いきや、シングルコレクションである前作と曲かぶりはほとんどなし。どちらかというとコンセプトアルバムに近い本作では、2枚組のアルバムを「DISC-ネコ」と「DISC-コバン」にわけ、「ネコ」ではネコっぽい曲=かわいらしい曲を中心としたセレクト、「コバン」は「暗闇の中、禁断の宝箱を開けるかのような迷宮の谷山ワールド」をイメージした曲を選んだ作品になっていました。ベスト盤を2作続けてリリースしながら、曲かぶりがほとんどなし、という点、キャリア50年を誇る彼女らしい楽曲の充実さを感じさせます。
特にこのアルバムに収録されている曲とシングル曲では大きな違いを感じさせる点も少なくなく、時代によって曲調を変化させ、歌謡曲テイストも強かったシングル曲に比べると、このベスト盤に収録されている作品は、同じ傾向の曲を収録しているから、という理由もあるのでしょうが、谷山浩子らしいサウンドをしっかりと確立しています。特にこのアルバムに収録されている曲は、アコースティック的な暖かさを感じるファンタジックな要素の強い作風の曲ばかり。方向性が若干はっきりしなかったシングル曲よりも、明確に谷山浩子としてのベクトルを感じます。
メロディーラインにしても、ともすればシングル曲以上のインパクトを感じます。特に「DISC-ネコ」ではインパクトのあるかわいらしい曲も目立ちます。「花さかニャンコ」なんて、谷山浩子の曲と認識しないまま、なぜか私、知っていましたし・・・。どこで知ったんだろう?「みんなのうた」で流れていたので、子どもが見ていたのを一緒に見て、いつの間にか聴いていたんでしょうか?「ヤマハ発動機社歌」などもタイトル通り、なんと正式な社歌を谷山浩子がつくっているのですが、インパクトたっぷりで思わず歌いだしたくなります。
そしてシングル曲でも感じた歌詞のインパクトの強さは、もちろんこのベスト盤でも健在。一番印象的だったのは「ピヨの恩返し」で、もともとは声優の岩男潤子に提供した曲のセルフカバー。ほっこりとした夫婦の歌なのですが、読み取り方によって解釈がかわりそうなファンタジックな歌詞が魅力的。あと「フィンランド」もかなりユニークで、うる覚えでフィンランドについて歌っている曲は、フィンランド政府から抗議が来てもおかしくなさそうな感じも(笑)。さらに今回、新曲として「きみがいるから」という曲をあらたに録音しているのですが、こちら、身体の中の臓器な血管などに感謝するという歌詞で、かなり不思議な感じですし、なおかつユーモラスたっぷりな内容になっています。
歌詞の世界観といえばさらにユニークなのは「Disc-コバン」収録曲。ファンタジックな世界観をベースとしつつ、かなり不気味な雰囲気を醸し出している歌詞がインパクト大で、ファンタジックながらも背徳感のある歌詞が印象的な「Elfin」や、ホラーじみた不気味な世界観が特徴的な「手品師の心臓」など、幻想的な彼女の世界観がよりさく裂された作品が並びます。
シングルコレクションの収録曲以上に聴き応えがあり、谷山浩子の世界観がしっかりと感じられるベストアルバム。シングルコレクション以上に彼女を知るためのアルバムとしては最適な作品のようにも感じました。個人的にも彼女の作品をまとめて聴くのはシングルコレクションに続く2作目なのですが、本作はシングルコレクション以上に魅力的に感じました。デビュー50年というキャリアを誇る彼女の実力をあらためて感じさせてくれるベストアルバムでした。
評価:★★★★★
谷山浩子 過去の作品
ひろコーダー☆栗コーダー(谷山浩子と栗コーダーカルテット)
HIROKO TANIYAMA 45th シングルコレクション
ほかに聴いたアルバム
Are U Romantic?/UA
昨年、AJICOとして実に20年ぶり(!)のEPをリリースし、久々にその名前を聴いたUA。現在はなんとカナダに居を構えているのですが、そんな彼女がUA名義としても約8年ぶり、久々のニューアルバムをリリースしました。今回のアルバムはカナダ在住で日本と距離を置いている彼女が、あらためてJ-POPを見つめなおし、彼女が今考えるポップスを表現した作品になっているとか。さらに今回は様々なミュージシャンとコラボ。ハナレグミ、くるり岸田繁、Dragon AshのKjなど、キャリア的に彼女と同世代のミュージシャンや、NulbarichのJQ、中村佳穂、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーなど、最近話題のミュージシャンとコラボを実施しています。ある意味、ちょっと音楽シーンから離れていた彼女が、バリバリ音楽シーンの中心で活動を続けていたミュージシャンに手を取ってもらって、今のシーンに復帰した、という形でしょうか。結果、わずか6曲のミニアルバムですが、6曲、それぞれ異なる雰囲気の内容に。多彩なサウンドが楽しめるアルバムになっているのですが、どの曲もポップを志向しつつも、微妙にUAらしい独特のグルーヴ感を加えているのがユニークな作品。久々にシーンに復帰した彼女のリハビリ的な作品と言えるかもしれませんが、しっかりとUAとしての個性を作品に反映させた内容になっています。今後は再び本格的にシーンに復帰するのでしょうか?次のアルバムも非常に楽しみになってくるミニアルバムでした。
評価:★★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2022年」カテゴリの記事
- 未来を見据えた30周年の締めくくり(2022.12.27)
- YUKIの全てがつまた6時間(2022.12.25)
- タイアップ効果でよりポピュラリティーが増した作品(2022.12.26)
- 昭和のレア・グルーヴ企画拡大版 その3(2022.12.11)
- 昭和のレア・グルーヴ企画拡大版 その4(2022.12.12)
コメント