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2022年8月21日 (日)

え?HIP HOPのアルバム、ではなく・・・。

Title:Honestly, Nevermind
Musician:Drake

アメリカで絶大な人気を誇るラッパー、Drakeの7枚目となるオリジナルアルバム。6月17日に事前アナウンスなしのサプライズリリース。さらに作品を「ミックステープ」という形態でリリースすることが多い彼が、「オリジナルアルバム」として前作「Certified Lover Boy」からわずか9ヶ月というインターバルでの新たなアルバムリリースということでも話題になっています。

ただ、このアルバム、一番話題となっているのはそのサプライズリリースでもリリース間隔の短さでもありません。今回のアルバム、配信サイトのカテゴライズはHIP HOPではなくダンス。なんとラッパーの彼がハウスミュージックのアルバムをリリースしてきた、ということで大きな話題に。実際に、そういう前情報なしにこのアルバムを聴くと、全編、エレクトロサウンドのダンスチューンが並んでいることに、最初、戸惑ってしまいます。

タイトル通りのイントロに続いての事実上の1曲目となる「Falling Back」は4つ打ちの軽快なハウスチューン。完全な歌モノとなっており、ラップの「ラ」の字も出てきません。続く「Texts Go Green」も同じく軽快な4つ打ちのリズムのハウスチューン。「Currents」はメランコリックな歌がベースとなっていますが、こちらも軽快なエレクトロのリズムが入ってきています。

中盤の「Sticky」はようやくトラップのリズムが入り、ラップも登場するHIP HOPチューンが登場してきますが、後半もハウスの楽曲が続きます。特に、この曲に続く「Massive」などは、まさにトランシーなリズムも登場する典型的とも言えるハウスチューン。HIP HOPというイメージからはかなり程遠い作風に仕上がっています。

そしてラストを締めくくる「Jimmy Cooks」こそトラップの楽曲になっており、こういう曲を最後の締めくくりとしてもってくるあたりはHIP HOPミュージシャンとしての矜持も感じさせるのですが、HIP HOPの楽曲は中盤の「Sticky」とこの曲のみ。全14曲中12曲がハウスミュージックという異例の作品に仕上がっています。

ある意味、いままでの方向性をガラリと変えた作品ということもあって、非常にチャレンジングな作品とも言える本作。ただし一方で、これだけ方向性を変えつつも、Drakeとしてのイメージはしっかりと保たれた作品に仕上がっていました。

もともと、いままでの彼の作品も、メロディアスな歌を聴かせるような「歌モノ」の作品が多く、ゴリゴリのHIP HOPというよりも、むしろポップ路線というイメージを強く抱いていました。今回のアルバムも、アレンジはハウスになったものの、この「歌モノ」という路線は健在。どの曲もポップなメロディーラインがしっかりと流れていましたし、特に終盤、「Overdrive」から「Liability」まで切ないメロディーラインをしっかりと歌い上げる「歌」がなによりも印象に残る曲が続きます。HIP HOP、ハウスとジャンルこそ異なりますが、ポップな歌を聴かせるという主軸は変わらず、その点、Drakeとしてのイメージはしっかりと保たれていたように感じました。

HIP HOPではなく、ハウスのトラックが登場してきたことから非常に驚かされたアルバムになりましたが、ただ最後まで聴くと、しっかりとDrakeのアルバムに仕上がっていた本作。この挑戦心はやはり買いたい部分ですし、それだけ挑戦しながらもDrakeらしさはしっかり残しているあたり、彼のミュージシャンとしての実力、個性も強く感じることの出来るアルバムになっていました。HIP HOPリスナーのみならず、ハウス、エレクトロが好きな方、さらにはポップミュージック好き全般にお勧めできる作品です。

評価:★★★★★

DRAKE 過去の作品
Thank Me Later
TAKE CARE
Nothing Was The Same
If You're Reading This It's Too Late
VIEWS
More Life
SCORPION
Care Package
Dark Lane Demo Tapes
Certified Lover Boy


ほかに聴いたアルバム

1st Congregational Church Of Eternal Love And Free Hugs/Kula Shaker

ブリットポップ期の代表格的なバンド、Kula Shakerの約6年ぶりとなるニューアルバム。一言で言えば、彼ららしいロックチューンが並んでいます。それもイントロ、アウトロを除き、実質17曲の内容の中、フォークロック風な作品、ガレージロック風な作品、さらに彼らの個性ともいえるサイケなラーガロック風な作品と、昔ながらも彼ららしい作品が並びます。その分、若干目新しさには欠けるのかもしれませんが、Kula Shakerを聴いたな、もっといえばロックを聴いたな、と実感できるアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★★

Kula Shaker 過去の作品
Revenge of the king
STRANGE FOLK
Pilgrim's Progress
K2.0

Janky Star/Grace Ives

ニューヨークはブルックリンを拠点に活動する女性シンガーソングライターによる2枚目のアルバム。軽快なエレクトロサウンドベースのポップソング。ボーカルは非常に爽やかで、メロディーラインにしてもエレクトロサウンドにしても、比較的シンプルで最小限の音数でまとめつつも、ポップでしっかりと聴かせるスタイルといった印象。聴いていて気持ちの良いポップアルバムでした。

評価:★★★★★

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