貴重なインタビューは必読!
今回は、最近読んだ音楽系の本の紹介です。
日本ブルース界の第一人者、吾妻光良がブルースについてあれこれ語った1冊「ブルース飲むバカ歌うバカ」。私も購読しているブルースやソウルの専門誌「Blues&Soul Magazine」に連載しているエッセイをまとめ、もともとは2006年に販売されたもの。現在もこのエッセイは連載中なのですが、今回、電子版として復刻。ブルースに関してのエッセイ集ということで興味を抱き、今回、読んでみました。
本誌は4章から構成されており、このうち一番興味深かったのは第一章の「達人さんいらっしゃい」でしょう。様々なブルースやソウルミュージシャンへのインタビューが掲載されています。ほとんどが70年代や80年代に行ったインタビューで、もちろん鬼籍に入ったミュージシャンも多く(というよりもほとんどが・・・)、また、音楽評論家やライターによるインタビューではなく、ミュージシャンという立場から、かなりざっくばらんとしたインタビューになっているため、一味違ったインタビューになっているのが興味深く感じます。
その中でもインタビューを受けたミュージシャンたちの個性を強く感じます。例えばB.B.KINGへのインタビューに関しては、コンピューターを含め、あたらしい技術を積極的に取り入れようとしているスタイルに、彼のあくなき挑戦心を強く感じました。生涯現役を続けた彼ですが、こういう新しいことに関しての好奇心が、生涯ミュージシャンを続けた大きな要因だったのでしょう。
他に興味深かったのはゲイトマウス・ブラウンのインタビューでしょう。彼は、自分の音楽を「ブルース」という枠組みにあてはめるのを極端に嫌がったということで有名ですが、このインタビューでは、ブルースという枠組みでインタビューを行おうとする著者に対して、終始怒っています(笑)。有名なエピソードとしては知っていたのですが、本当に彼が「ブルース」という枠組みにあてはめられるのを嫌がったんだな、ということを強く感じさせるインタビューでした。
また、第二章「ブギ・トゥ・ザ 西 ブギ・トゥ・ザ 東」も非常に興味深い内容でした。著者が国内海外様々なところに旅して、そこのブルース事情について調査したエッセイ。香港やベルギー、フィリピンといった、一般的にブルースとなじみのない都市に著者が訪れて、時には現地で活躍するブルースミュージシャンたちともセッション。世界のどんな街でも、その街なりのブルースシーンというのがあるんだな、ということを知れて、非常に興味深く感じました。
ただ、そんな興味深いエッセイも多い一方、全体的に残念に感じたのは彼の書く文章が非常に読みにくかった、という点。特に70年代80年代の初出のエッセイについては、今はやりの「おじさん構文」っぽいラフな文章になっています。おそらく「おじさん構文」の元とも言われる「昭和軽薄体」からの影響を受けているのでしょう。かつ、著者はこの時、まだ20代のはずで「おじさん」と呼ばれる年齢ではなかったはず。「おじさん構文」はもともと、そのおじさんが若かった頃に「カッコいい」と思っていた文体だったという指摘は時々なされていますが、それを裏付けるような文体になっています。なお、皮肉なことに、著者がおじさんになっていくにつれて、この「おじさん構文」が少なくなっていくのですが、全体的にラフな文体になっていて、少々読みにくいなぁ、ということは最後まで否めませんでした。
また、後半については、著者の思い付きの域を得ないようなエッセイも少なくなく、正直、若干おもしろくないな、と感じさせる部分も少なくありませんでした。そういう意味でも著者の癖が強い部分も少なくありませんし、読む人を選ぶ部分がある点も否定できません。ただ、第一章のインタビュー記事を読むだけでもブルースやソウルファンにとっては読む価値のある1冊だと思います。まあ、癖の強さもある意味、著者の「味」の部分ということで・・・楽しめた1冊でした。
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