6人のピアニストとの共演
Title:体温、鼓動
Musician:古内東子
2023年にデビュー30周年を迎える古内東子。そのデビュー30周年プロジェクトの第1弾としてリリースされたのが本作です。古内東子というとデビュー直後から注目を集めていて、デビュー当初は「大人の恋愛を歌う大人のお姉さま」という印象が強かったのですが、今となって彼女と意外と年の差がないことにちょっとビックリしています。デビュー当初は、まだ21歳だったのですね・・・それであれだけの大人のラブソングを作っていたのが、あらためて驚きなのですが。
その記念すべき30周年記念アルバムですが、本作は、6人のピアニストと共演したピアノアルバムという企画。彼女にとってピアノという楽器は作曲にも使いますし、思い入れの深い楽器だそうで、それだけにピアニストに対するリスペクトと、ピアノという楽器に対する感謝の意を含めて、今回のこのアルバムの作成に至ったそうです。今回は、楽曲毎に異なる6人のピアニスト(中西康晴、森 俊之、草間信一、河野 伸、松本圭司、井上 薫)を起用。さらに「この夜を越えたら」では彼女自身がピアノに挑戦しています。
そんな企画の下でのアルバムということもあって、彼女のアルバムの中ではよりピアノにスポットがあたった構成になっています。楽曲としてはいつもと同様、彼女の歌う切ないラブソングがベースとなっているのですが、ピアノを前に押し出したアレンジに。さらにそれぞれタイプの異なるピアノの演奏が楽しめる構成になっています。
例えば1曲目「虜」は井上薫がピアノを手掛けているのですが、爽やかなポップ調のピアノ。続く河野伸がピアノを弾く「夕暮れ」はしんみりと感情たっぷりに優しい雰囲気のピアノが印象的ですし、草間信一がピアノを弾くタイトルチューンの「体温、鼓動」は、ジャジーな雰囲気のピアノになっています。
「時にやさしい」は松本圭司がピアノを弾くラテン風のナンバーなのですが、今回のアルバムの中ではもっともフリーキーさを感じるピアノが印象に残りますし、逆に「動く歩道」はアルバムのリードトラックということもあって、古内東子の歌が比較的前に押し出された曲になっており、森俊之のピアノはどちらかというとサポートにまわっています。「だから今夜も夢を見る」を手掛ける中西康晴は、彼女の代表曲「誰より好きなのに」でもピアノを弾いていたピアニストで、今回のアルバムの中でももっとも古内東子らしさを感じるピアノだったように思います。そして「この夜を越えたら」は古内東子の弾き語り。やはり本人の弾き語りだけあって、もっとも歌に寄り添った形でのピアノになっているように感じました。
そしてラストの「はやくいそいで」はピアノによるセルフカバー。ピアノは河野伸の手によるようですが、「夕暮れ」と同様に優しい雰囲気のピアノの音色が印象に残ります。このように全8曲、ピアニストがそれぞれ異なるだけに、それぞれ違った雰囲気のピアノが楽しめるという、ピアノという楽器に着目すると非常にユニークなアルバムに仕上がっていたように感じました。
ただ一方、ちょっと気になったのは6人のピアニストがいずれもどこかサポート的に徹している感じがあり、良くも悪くも「このピアノはあの人の音色だ!」という感じのピアノがなかった点。もちろん、6人のピアニストいずれも間違いなく実力のあるプロのピアニストであり、それぞれの個性はそのプレイの中で出していたのですが、古内東子のボーカルを完全に脇に押やってしまうくらいの癖の強いピアニストも1人や2人、いてもよかったのかな、という印象は受けてしまいました。正直、古内東子の楽曲自体、良くも悪くも「いつもの彼女」であるだけに、ある意味、カンフル剤的に、そんなユニークなピアニストが入ってきてもおもしろかったかな、という感じはします。今回のアルバムは結果として、「いつもの古内東子」のイメージの中に留まってしまったのは、せっかくの企画アルバムとしてはちょっと惜しかったようにも感じました。
とはいえ、「大人のポップ」として聴き応えのある作品。ピアノに着目するとより楽しめるアルバムであることは間違いありません。30周年記念企画はまだこれからも続くみたいで、そちらも楽しみ。30年を経て、いまなお精力的な彼女ですが、これからの活躍も楽しみです。
評価:★★★★
古内東子 過去の作品
IN LOVE AGAIN
The Singles Sony Music Years 1993~2002
Purple
透明
夢の続き
and then...~20th anniversary BEST~
Toko Furuuchi with 10 legends
After The Rain
誰より好きなのに~25th anniversary BEST~
ほかに聴いたアルバム
Assort/Novelbright
メジャー2作目となる6人組ロックバンドNovelbrightのニューアルバム。ギターロックを軸に、ストリングスやホーン、ピアノなども入った分厚いサウンドにポップなメロディーラインが特徴的なグループ。良くも悪くもJ-POPの王道を行くようなロックバンドといった印象で、広い層にアピールできそうなポップソングが魅力的。シングル単位で大ヒット曲が出れば、もうひとつ上のランクに行けそうな感もするのですが。
評価:★★★★
Novelbright 過去の作品
WONDERLAND
開幕宣言
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