« よりファンクネスが増したライブ音源 | トップページ | 1位返り咲き »

2022年7月 5日 (火)

90年代に一世を風靡したボーカリストのオールタイムベスト

Title:永劫回帰Ⅰ
Musician:上杉昇

1990年代中盤、いわゆるビーイング系ブームの中で中心的存在だったバンドWANDS。1992年にシングル「もっと強く抱きしめたなら」が大ヒットを記録した後、ヒット曲を連発していきました。そのボーカリストとして一時期、時の人となったのが上杉昇です。しかし、このビーイングという事務所は、非常に商業主義の強い事務所であったため、当時のビーイング系ブームで一世を風靡したバンドの多くが、のちにビーイングを離れていきます。

そんな中でも、ビーイング系を離れた理由がもっとも明確だったのが彼、上杉昇。1997年に脱退した後、同じくWANDSを脱退した柴崎浩と共にal.ni.coというユニットを結成するのですが、明確な歌謡ロックだったWANDSの作風から一転、洋楽テイストの強いグランジ系ロック路線にシフト。WANDS時代にも、同じくグランジ系の曲をリリースしていたこともあり、あきらかにWANDSとは求める音楽性が大きく異なるのだな、ということが誰からも明確にわかる脱退理由となっていました。

その後、al.ni.coも解散。猫騙というバンドを結成するのですが、こちらも活動休止状態になり、現在はソロで活動を続ける彼。そんな彼もWANDS時代から既に活動30年というキャリアを誇るのですが、その活動30周年を記念してリリースされたオールタイムベストが本作。ラルクのプロデューサーとしても知られる岡野ハジメがレコーディングプロデューサーを手掛け、一部は2021年バージョンに再レコーディング。al.ni.coや猫騙、ソロ自体はもちろんのこと、WANDS時代の曲も収録されている、文字通りの上杉昇のキャリアを通じたオールタイムベストとなっています。

もちろんWANDS時代を含めたオールタイムベストとはいえ、「もっと強く抱きしめたらなら」のような歌謡ポップ色の強い作品は収録されておらず、基本的に彼の音楽的志向にマッチしたグランジ系ロック路線の曲が並びます。サウンドについては、グランジ系ロックの王道を行くような歪んだギターサウンドを中心に据えたヘヴィーなバンドサウンドというスタイルであり、目新しさは感じられません。ただ、その分、音楽性としてはある意味非常に素直という印象もあり、ロックミュージックへの率直な愛情を感じることが出来ます。

ダイナミックなバンドサウンドは迫力もあり非常にカッコよく、もし初期WANDSのようなイメージを持っているとしたらもったいない感じ。ちょっとくすんだ感じの世界も統一感もあり、サウンドにマッチ。グランジ系、オルタナ系ロックが好きなら文句なしにチェックしてほしいアルバムだと思います。

そしてそんな中、ある程度以上の年齢の方なら聴いたことがあるかもしれないのが「Same Side」。1995年にリリースされたWANDSのシングル曲で、当時は最高位2位を記録するヒットナンバーとなっています。ノイジーなバンドサウンドをベースとしながらも、一方、メロディーラインは非常にポップにまとまっている曲調。これだけポップにしないとシングルリリースできなかったんだろうな、という点にビーイングとしての限界を感じる一方、バンドサウンドとポップなメロディーのバランスが逆に楽曲のおもしろさを作り出しており、このベスト盤の中でもちょうどよいインパクトとなっています。

また、今回あらためて聴くと上杉昇のボーカルも魅力的。曲によっては声をあえてつぶしてシャウト気味のボーカルを聴かせてくれるのですが、迫力がありつつも端正で、どこか色気を感じさせます。ここらへんの魅力的なボーカルが、WANDSとしてビーイング自体に神輿をかつがれた大きな要因だったのかもしれません。

素直にグランジロックの魅力を体感できるオールタイムベスト。また、WANDS時代から今まで、同じスタイルを貫いているあたりもロックが好きなんだろうなぁ、という点を素直に感じさせます。彼の作品を聴いたのはal.ni.co時代以来なのですが、あらためて魅力的なミュージシャンだと感じました。「未来永劫Ⅰ」というタイトル通り、「Ⅱ」もリリースされているので、そちらも近日中に聴く予定。楽しみです!

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

妙齢/中村中

シンガーソングライター、中村中のオールタイムベストアルバム。あれ?ちょっと前にベストアルバムをリリースしたばかりじゃ?と思ったら、前のベストアルバム「若気の至り」から、もう11年も経つんですね・・・あらためて、月日の経つのは早いなぁ・・・。楽曲は、哀愁感あるメロディーラインを彼女の力強い歌声でしっかりと聴かせるスタイルがメイン。その中でも一貫して、社会の中の弱者からの視点というスタイルは一貫しており、彼女の大きな特徴となっています。今回のベスト盤に収録された新曲「あいつはいつかのあなたなのかもしれない」もまさにそんな彼女らしい歌詞で、弱者に対して他人事とみがちな人たちへの警鐘を鳴らしている曲。ある意味、彼女流の「Like a Rolling Stone」とも感じられるような曲で、今に至っても全く変化のない彼女のスタンスを強く感じさせます。個人的には、常々、もっと注目されて売れてもいいミュージシャンだと思っているのですが・・・。

評価:★★★★★

中村中 過去の作品
私を抱いて下さい
あしたは晴れますように
少年少女
若気の至り
二番煎じ

聞こえる
世界のみかた
去年も、今年も、来年も、
ベター・ハーフ
るつぼ
未熟もの

|

« よりファンクネスが増したライブ音源 | トップページ | 1位返り咲き »

アルバムレビュー(邦楽)2022年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« よりファンクネスが増したライブ音源 | トップページ | 1位返り咲き »