聴いたままのコンセプトアルバム
Title:We
Musician:Arcade Fire
カナダのインディーロックバンドによる約5年ぶりのニューアルバム。2004年にリリースされたデビュー作「Funeral」が高い評価を得て、その後もアルバムをリリースするたびに、各所で絶賛が続きました。特に2010年にリリースされたアルバム「The Suburbs」はグラミー賞で最優秀アルバム賞を受賞。人気面でもそれに呼応するかのように、同作から前作「Everything Now」まで全米、全英チャート共に3作同時連続1位獲得と、人気の面でも「インディーロック」の枠組みを超える人気バンドとまで成長しています。
ただ前作「Everything Now」は良作ではあったものの、大絶賛を持って迎え入れられたそれまでのアルバムに比べると、若干評価は低め。個人的にも十分「傑作」という評価は出来るものの、メロディーラインに少々陳腐さを感じ、いままでのアルバムと比べると、物足りなさを少し感じたのも事実でした。実際、その影響もあってか、本作では全英チャートでは見事1位を獲得したものの、アメリカビルボードでは最高位6位に留まっています。
そしてそんな中リリースされた、ちょっと久々となる新作。アルバムを聴き始めると、1曲目「Age of AnxietyⅠ」では狂おしいほど切ないメロディーとピアノを中心としたサウンドがまずグッと心を捉える作品に仕上がっています。アコースティックベースの1曲目と対になりつつも、1曲目と連作になる「Age of AnxietyⅡ」では、四つ打ちの打ち込みのリズムが入ってくるものの、こちらも切ないメロディーがとにかく美しい楽曲。
インターリュード的な曲を挟み、4曲目5曲目に連作として続く「End of The Empre Ⅰ-Ⅲ」「End of the Empire Ⅳ(Sagittarius A*)」も同じく連作。途中、ストリングスでスケール感を出したり、静かなホーンセッションを入れたりとバラエティーを出しつつ、こちらも狂おしいまでのメランコリックなメロディーラインが胸をギュッとつかまれるような作品になっています。
メランコリックで切なさを感じる前半から一転、「The LightningⅠ」は分厚いバンドサウンドで後半はダイナミックに展開しつつ、明るさを感じさせるインパクトのある楽曲。疾走感ありポップな楽曲「The Lightning Ⅱ」への展開はメロディーラインに分厚いサウンドにもインパクトがあり、このアルバムの中で核となっています。
終盤の「Unconditional Ⅰ(Lookout Kid)」「UnconditionalⅡ(Race and Religion)」はトライバルなリズムやアコースティックなサウンドを用いつつ、途中ではエレクトロサウンドを用いたり、ラテンなリズムが入ってくるなどバラエティー豊かな作風ながらも非常に祝祭色を感じる明るいポップチューン。そしてラストのタイトルチューン「WE」では最初はアコギでフォーキーにスタートしつつ、最後はピアノとストリングスで重厚に、しかし安らかな希望に満ちた雰囲気で、まさに大団円のようにアルバムは幕を下ろします。
メランコリックなメロとサウンドで悲しみに胸を押しつぶされるような前半から、希望を感じさせる後半、そして安らぎも感じることが出来るラストと、アルバムの構成的にもかなりわかりやすい本作。実は楽曲から受けるイメージの通り、コンセプチュアルな作品になっているそうで、前半は主人公がこの世界から脱出したいと願い、銀河の真ん中にあるブラックホール(Sagittarius A*=いて座A*)を見つめる話。しかし、そこにたどり着いた時に彼が見つけたのは、自分自身であり自分の目だったそうで、自分の苦痛ですら、実は自分の内面に抱えたものである、ということを表現したかったそうです。そして自分を受け入れた結果が後半で感じられる希望や安らぎだそうで、歌詞の内容まではストレートにわからないのですが、この物語の道筋は、歌詞がわからなくても非常にわかりやすく感じることが出来、そういう意味でも優れたアルバムに感じました。
傑作とは思うけど・・・とちょっと保留のついた前作と比べると、今回のアルバムは文句なしに傑作と言える内容だったと思います。Arcade Fireの本格的復活とも言える作品ではないでしょうか。さすがの実力を感じさせる作品でした。
評価:★★★★★
ARCADE FIRE 過去の作品
THE SUBURBS
REFLEKTOR
Everything Now
ほかに聴いたアルバム
AIR/SAULT
ここ最近、アルバムをリリースする毎に高い評価を得ているイギリスのポストパンクバンドSAULT。バンド構成員も謎ながら、そのどす黒いファンキーなサウンドがとんでもなくカッコいいアルバムをリリースし続けているのですが、今回リリースされた最新作は、なんと全編オーケストラアレンジ。いままでの作品とはガラッと変わった作品に戸惑ってしまったのですが、ただ一方でメロディアスな豊かな音楽性は健在。今回も各メディアなどで高い評価を受けているようで、その実力を感じさせます・・・・・・・が、やはりいままでのファンキーでどす黒いグルーヴ感がカッコよかった作品と比べると、オーケストラアレンジの作品は、ちょっと薄味的な物足りなさは感じてしまいます。これもこれで彼らの音楽性の幅を感じさせるアルバムであるとはわかるのですが、次回作はやはり以前のようなファンキーな傑作が聴きたいなぁ。
評価:★★★★
SAULT 過去の作品
Untilted(Black is)
Untitled(Rise)
NINE
Alpha Games/Bloc Party
イギリスのギターロックバンドによる6枚目のオリジナルアルバム。打ち込みも積極的に用いたダンサナブルなギターロックバンドというイメージのある彼らですが、約6年3ヶ月ぶりと、かなり久しぶりとなった本作では打ち込みは鳴りを潜め、ギターサウンドを前面に押し出したロックチューンを聴かせてくれます。心地よくメロディアスなサウンドは以前の彼らと同様で、比較的素直なギターロック路線を楽しむことが出来る反面、Bloc Partyらしい個性はちょっと薄くなったかも。
評価:★★★★
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