非常に重いメッセージ性を感じる
Title:笑い死に
Musician:般若
昨年、新レーベル「やっちゃったエンタープライズ」を設立。それまで所属していた「昭和レコード」から独立したラッパー、般若。その後、何作か配信でシングルを何枚かリリースしていたものの、前作から約1年9ヶ月ぶりとなるニューアルバムがリリース。「やっちゃったエンタープレイズ」独立後、初となるアルバムとなります。
このアルバムの中で、なんといっても大きな印象を残すのは「2018.3.2」でしょう。哀しげなピアノが流れる中、静かに綴られるラップが印象的なこの曲は、2018年に発覚し、ニュースでも大きく取り上げられた目黒5歳女児虐待事件をテーマとして扱ったもの。事件現場の向かいのマンションに住んでいた彼は、被害者の女の子が運ばれていく様子を目撃したということ。そのことに大きくショックを受けた彼が、悩んだ結果、書き上げたのが本作。ある種のドキュメンタリータッチで綴られたリリックはかなり具体的かつ印象的で、強く心に響く、作品になっています。
この、非常に重たいテーマの作品がひとつの主軸になっていたからでしょうか、今回のアルバムは「笑い死に」というタイトルとは反して全体的にメランコリックな雰囲気が漂うような作風となっていました。1曲目「とめてくれよ」から、かなりダウナーな雰囲気でのスタートとなりますし、「ハタチの君へ」もトラップ的なリズムでメランコリックなサウンド。さらに「2018.3.2」につながる「テキトー」「色の無い海の底」も郷愁感を覚えるようなトラックが印象的でした。
そしてそんな中で、特にこの時代を力強く「生きる」ことをテーマとしたリリックが目立ったように思います。まず「糞馬鹿野郎」は、まさにそんな今を生きている自分を描写としたリリックが印象的。「拝啓」でもまさに今を生きる日常を描いていますし、そしてなんといっても「じんせいさいこおお」はタイトル通りの人生讃歌。「宇宙の果てから見たら/俺達の存在すっげー小せえ」という、ある意味振り切れたリリックも印象的。さらに最後は「うまくいく」で、タイトル通り、前向きなメッセージを綴って本作は終了。最後は非常に前向きな気持ちでアルバムを聴き終える内容になっていました。
特に「2018.3.2」で気持ち的にもかなり落ち込みかねない本作だからこそ、そこから続く「じんせいさいこおお」「うまくいく」で一気に盛り返す構成も、おそらく考えられたものなのでしょう。他にも子供へのメッセージともとれる「ハタチの君へ」や、イジメやLGBTを扱った「色の無い海の底」など、全体的にテーマは重め。それだけにズシリと心に来るアルバムになっていますが、それだけにラスト2曲の前向きなメッセージが、より心に響いてくるアルバムになっていました。
決して派手ではないものの、非常に重たい、おそらく般若にとっても重要作とも言える作品になっており、聴き応えのある内容になっていました。文句なしの傑作アルバム。いつも印象的なリリックを聴かせてくれる般若ですが、その中でも特に印象的な作品が多かったアルバムだったと思います。普段、ラップを聴かないリスナー層でも、このメッセージは強く響いてくるはず。是非、チェックしてほしい1枚です。
評価:★★★★★
般若 過去の作品
ドクタートーキョー
HANNYA
グランドスラム
THE BEST ALBUM
話半分
般若万歳II
IRON SPIRIT
12發
ほかに聴いたアルバム
Same/SHERBETS
浅井健一率いるSHERBETSによる、実に6年ぶりとなるニューアルバム。今回のアルバムは、ピアノやストリングスを取り入れつつ、メランコリックで美しいメロディーラインをこれでもかというほど聴かせる作風に。ここ最近、比較的安定感のある作風を確立してきた感のあるSHERBETSでしたが、今回のアルバムは、SHERBETSとしての方向性がある程度固まったような、いい意味での安定感も覚える作品になっています。一時期は駄作を乱発気味で心配された浅井健一ですが、最近はリリースペースも落ち着いて、良作もしっかりとリリースしてくるようになりました。そんないい意味での安定感を覚える作品でした。
評価:★★★★
SHERBETS 過去の作品
MIRACLE
GOD
MAD DISCO
FREE
STRIPE PANTHER
きれいな血
CRASHED SEDAN DRIVE
The Very Best of SHERBETS「8色目の虹」
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