「One Night Carnival」を様々な解釈でユニークにカバー
Title:All Night Carnival
今年、結成25周年を迎える氣志團。この25周年を迎えるにあたって、トリビュートアルバムが完成しました。といっても氣志團のこと、決して一筋縄ではいかないトリビュートアルバムになっており・・・なんと、彼らの代表曲である「One Night Carnival」を様々なミュージシャンたちがカバーするという内容。全11曲、すべて「One Night Carnival」という構成のアルバムに仕上がっています。
思えばこの「One Night Carnival」という曲、もともとはインストバンドとして活躍していた彼らが、はじめて「歌モノ」といて歌った曲だそうですが、氣志團のコンセプトをすべて体現化している、非常に良くできた曲で、80年代から90年代にかけてのJ-POPのパロディー、当時のヤンキー文化などを上手く溶け込ませ、いい意味でわかりやすいパロディーに仕立てることによりユーモラスに聴かせることが出来る楽曲。氣志團のコンセプトがこの1曲に凝縮されているだけに、これ以降、彼らはこれを超える曲を書けていないのですが、それも仕方ない感がします。もっとも、「出オチ」感すらするこの曲から20年以上、第一線で活動を続けられる彼らの実力は、なにげにすごいものも感じるのですが。
音楽面でもインパクトが強い曲ですし、ネタ的にもいじりやすいこの曲。カバーしやすい曲とも言えるであろう曲なだけに、この曲だけをカバーするという今回の企画、なにげにそれぞれのミュージシャンたちが、しっかりとそれぞれの個性を生かした上でのカバーに仕上げていました。
浜崎あゆみのカバーは、いかにもヤンキーっぽいドスの効いたボーカルが印象的。個人的に、浜崎あゆみって、なぜあれだけ売れたのか、今一つ疑問のあるミュージシャンなのですが、ただこのカバーを聴く限りではある種の格の違いなようなものも感じました。WANIMAのカバーも、普段の陽天気なパンクロッカーというイメージを一新するような凝ったアレンジが魅力的ですし、スカパラも、初期の彼らを彷彿とさせるような、くすんだ雰囲気を醸し出し、同曲の持つ「不良性」を前面に押し出したインストアレンジが印象的。打首獄門同好会も彼ららしいメタルの要素に「和」の要素を加えたユニークなアレンジが耳を惹きます。ラストのももクロも良くも悪くも彼女たちらしいアイドル然としたカバーになっていました。
個人的にもっとも「正しい解釈」をしたカバーに感じたのが鬼龍院翔のカバーで、エレクトロアレンジでのカバーは、氣志團とは別の方向から90年代初頭の雰囲気を感じさせるカバー。尾崎豊のパロディー部分は、尾崎豊の原曲のフレーズをそのまま入れ込むアレンジとなっていて、ユニーク。よく考えれば氣志團とゴールデンボンバーって、音楽性はちょっと違うものの、バンド(?)としての方向性は似たようなものを感じさせるだけに、相性のいい組み合わせだったのかもしれません。鬼龍院を含めゴールデンボンバーは最近、スキャンダルの影響で人気が急激に下落しているのですが、今回のカバーでもその実力を感じさせるだけにがんばってほしいところなのですが・・・。
そして本作の中でもっともインパクトがありユニークだったのは間違いなく木梨憲武によるカバー。楽曲を思いっきり和風に、浪曲や狂言的な要素を入れたカバーになっており(あくまでも「要素」であり、イメージとしての「浪曲や狂言」で本格的なものではありません)、インパクト満点。聴いていて笑いが止まらないのようなカバーとなっており、木梨憲武らしさが満開となっているユニークなカバーになっています。
逆にちょっとインパクトが薄かったのがBiSHや倖田來未で、それぞれももクロや浜崎あゆみの下位互換になっていた感がありました・・・。湘南乃風もちょっと印象が薄かったな。もっとも、インパクトばかりが強かった木梨憲武の次だったという、構成的に不利だった点も大きな要素だったのですが。
そんな訳でユニークなカバーがたくさんのインパクト満点のトリビュートアルバムだったのですが、ただ、残念だった点もあり、まず参加メンバーが基本的にavex所属のミュージシャンたちが目立ったという点。その結果ともからむのですが、参加したメンバーがちょっと「芸能界」方面に偏りすぎた感が強かったかなぁ、ということが気になりました。そのため、「One Night Carnival」のカバーとして、音楽的な側面を強調するのか、ネタ的な側面を強調するのか、二通りの解釈があるのですが、ネタ的な側面を強調したカバーがほとんどになってしまった点が残念。純粋に音楽的な側面を強調したカバーをしたのがWANIMA、湘南乃風、スカパラだけだったというのは、かなり淋しく感じました。
個人的には、もっと実力派のミュージシャン、バンドたちを呼んで、ネタにこだわらなくても「One Night Carnival」の音楽的な側面でも様々な解釈が可能、という点を聴かせてほしかったな、とは思います。そういう点では若干、片手落ちの感もあるカバーアルバムだった点は否めませんでした。
そんなちょっと残念な部分がありつつも、インパクト満載で素直に楽しめるアルバムであることも事実。参加メンバーそれぞれの個性が印象に残るとともに「One Night Carnival」の魅力をあらためて実感できたカバーアルバムでした。
評価:★★★★
ほかに聴いたアルバム
フレデリズム3/フレデリック
タイトル通り、これで3枚目のオリジナルフルアルバムとなるロックバンド、フレデリックのニューアルバム。マイナーコード主体のメロディーラインに打ち込みを入れてリズミカルなサウンドはいつも通り。ちょっとニューウェーヴや80年代風、ディスコなどの要素を加えつつ、全面的に、これぞフレデリックだ、という楽曲を聴かせてくれます。インパクトあるメロで中毒性は高いのですが、ただ一方、正直、似たような曲が多いというのがマイナスポイントで・・・売上的には若干下降気味なのですが、この点が大きな要因のような。
評価:★★★★
フレデリック 過去の作品
フレデリズム
TOGENKYO
フレデリズム2
ASOVIVA
ANSWER(フレデリック×須田景凪)
angels/My Hair is Bad
3ピースバンドMy Hair is Badの、フルアルバムとしては5枚目となるアルバム。以前から、具体的かつドラマ性ある歌詞が魅力的で、今回のアルバムでも、特に禁断の愛を切なく描いた「綾」など、インパクトもある歌詞を聴かせてくれます。ただその反面、メロディーラインやバンドサウンドについては正直、平凡で特徴がなく、ちょっと残念な感じに。まあ、歌詞を聴かせるためには無難な内容にとどめている、と言えないことはないのですが・・・。これでメロディーがカチッとはまれば、かなりの傑作がリリースされる予感もするだけに、今後に期待したいところです。
評価:★★★★
My Hair is Bad 過去の作品
woman's
mothers
hadaka e.p.
boys
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