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2022年6月 6日 (月)

山中さわおらしさ満載!

Title:Muddy comedy
Musician:山中さわお

ご存じthe pillowsのボーカリスト、山中さわお。2018年のthe pillows30周年以来、the pillowsとしての新作は若干ご無沙汰気味ですが、昨年にはTHE PREDATORSのアルバムもリリース。さらにはこのたび、約1年4か月ぶりとなるソロアルバムもリリースしてきました。the pillowsの方も、ニューアルバムのリリースはないもののライブ活動は積極的に行っており、山中さわおとしてはかなり積極的な活動が目立ちます。

山中さわおのソロアルバムの前作「Nonocular violet」はバンドサウンド色がメインとなっており、いままでのソロアルバムと比べるとthe pillowsに近い色合いの作品となっていました。そして今回のアルバムも、前作と同様、the pillowsとして新作リリースとしては活動休止中ということもあるのでしょうか、前作以上にバンドサウンドが強く、ロック色の強い作品になっていました。

1曲目「タンブルウィード・ストーリー」からして、かなり重いギターサウンドが鳴り響くロックテイストの強いナンバー。タイトルチューンである「Muddy comedy」もヘヴィーなベースラインとテンポよいギターのリズムが印象的な楽曲に仕上がっており、ともすればthe pillows以上にロック色の強い楽曲に。さらに「愛のパラダイス」も同じように分厚いバンドサウンドが前に押し出されている作風になっています。ともすればthe pillows以上にヘヴィーで分厚いバンドサウンドを前に押し出した作風になっており、the pillows山中さわおによりロックな側面を求めているとしたら、かなり壺にはまるアルバムだったのではないでしょうか。

歌詞の世界についても、the pillowsと同じベクトルを向きながらも、ともすればthe pillows以上に山中さわおの世界観が押し進められたアルバムになっていたように感じます。まず印象的なのがタイトルチューンの「Muddy comedy」。

「現世はもう捨てた 生まれ変わりたいんだ
ラストシーンはキミと見つめ合ってるかな
人類は限界 早く滅ぼしてよ
次回作でもきっとキミと出会うだろう」
(「Muddy comedy」より 作詞 山中さわお)

と、この虚無的な世界観の中で、「キミとボク」だけの世界を追及する方向性は、まさに山中さわお節といった感じ。また「愛のパラダイス」の

「悪人は存在しない
親切な人しかいない
疑わしい裏なんてない
人生にリスクなどない」
(「愛のパラダイス」より 作詞 山中さわお)

なんていう、逆説めいたアイロニックな歌詞も、山中さわおらしくて最高です。

そんな中でも特に歌詞で印象的だったのが「その世界はキミのものだ」で、物語の世界に没頭する少年に対して

「心の中に拡がるキミだけの世界を
キミだけの自由を手放さなくていい
折り合わなくていいんだよ
誰かが何か言ってくる 正しさを説いてくる
キミの好きな物語を疑わなくていい
それはキミの世界だろ」
(「その世界はキミのものだ」より 作詞 山中さわお)

なんていうメッセージは、特に本好き、物語好きで、そういう物語に救われた経験のある人ならば、非常に共感でき、そしてうれしくなるメッセージではないでしょうか。

正直なところ、このサウンドと歌詞だったら、the pillowsのイメージの範囲内ですし、むしろthe pillowsとして演ってほしかったなぁ、ということを思わないことはありません。その点はちょっと気になってしまうのですが、ただ、それを差し引いても、山中さわおの演りたいことを演りたいだけ聴かせてくれた傑作アルバムに間違いありませんし、個人的には今年の年間ベストクラスの傑作だったと思います。ただ、次はそろそろthe pillowsの新作を聴きたいなぁ、とも思ったりもして。ともかく、山中さわおらしさ満載の1枚でした。

評価:★★★★★

山中さわお 過去の作品
DISCHARGE
退屈な男
破壊的イノヴェーション
Nonocular violet


ほかに聴いたアルバム

Honey&Darling/KANA-BOON

途中、ベスト盤のリリースはあったものの、約4年半ぶりと久しぶりとなったKANA-BOONのニューアルバム。ただ、この4年半の間に、ベースの飯田祐馬の失踪騒動とその後の脱退、ボーカル谷口鮪の体調不良による活動休止と様々なトラブルが生じました。その影響でしょうか、メジャーデビュー以降、すべてのフルアルバムをベスト10入りさせてきた彼らですが、本作はビルボードチャートもオリコンも最高位29位と少々厳しい結果となっています。ただ、作品としては決して失速した感はなく、軽快でポップなギターロックが楽しめる作品になっており、むしろバンドとしては様々な騒動を乗り越えて、落ち着いた影響でしょうか、本作を聴く限りでは状況は悪くないように感じます。これだけの作品を作れれば、また人気を取り戻すことは十分可能かと。まだまだ、これからの活躍も期待できそうな1枚でした。

評価:★★★★

KANA-BOON 過去の作品
DOPPEL
TIME
Origin
NAMiDA
KBB vol.1
アスター
KBB vol.2
ネリネ
KANA-BOON THE BEST

THE CAN/KICK THE CAN CREW

2017年にデビュー20周年を機に活動を再開したKICK THE CAN CREW。ただ、約14年ぶりとなるアルバム「KICK!」以降、アルバムのリリースがなかったため、また事実上の活動休止か?と思っていました。ただ、今年に入り新曲「Boots」が配信リリース。さらに実に約4年半ぶりとなるアルバムである本作がリリースされました。

3人を模した缶のジャケットも印象的な本作。全体的にはメランコリックなトラックや、それに伴ってメロディーを聴かせる楽曲が多く、ちょっと大人しい印象も受けるアルバム。ただ「YEAH!アガってこうぜ」のようなファンキーなトラックや、「今こそ寄ってこい」のようなRYO the SKYWALKERSやNG HEADを迎えたマイクリレーを聴かせるアルバムなど、しっかりインパクトを持って締める部分はしめており、いい意味でベテランらしい安定感のある良作に仕上がっていました。KREVAとしての積極的な活動は続いているのですが、KICKとしても、もうちょっと積極的に新曲を聴きたいなぁ。

評価:★★★★★

KICK THE CAN CREW 過去の作品
KICK!

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